第19話 あの日

そんな妙な関係性が続いて1か月。あの未曽有の大災害が起こった。

3.11 「東日本大震災」その日である。

僕自身、いや、僕以外にもあの災害に関しては思い出したくない人も多いと思うので、内容については端折ることにする。


その日僕は都内のオフィスにいた。何の変哲もない週末、のはずだった。

突然の揺れ。「まずい」と思った瞬間、一気に揺れが大きくなる。

慌ててデスクの下に潜る。しばらくして揺れが収まり、落ち着く。

僕らはすぐにテレビで状況を確認する。各地で色んな災害が起きている。


その時僕の頭の中は「彼女は無事なのか」それだけだった。

すぐに連絡を取る。返信が来るまでの時間が恐ろしいほど長く感じた。

彼女から「私は大丈夫」と来た時は涙が出た。


「今日はもう仕事は切り上げて、各々帰宅すること」

そう聞いてすぐに会社の自転車を借りた。

「どうせ家まではたどり着けない、ならば。。。」

家族に連絡を取り、目指したのはあの場所。


僕:「頼む、彼女の住所を教えてくれ。今すぐ会いに行きたい」

店:「いや、落ち着いてよ。あんた何言ってるかわかってんの?」

僕:「わかってる。でもじっとしてるのが嫌なんだ」

店:「とにかく落ち着いて。無事なのは分かってるんでしょ?」


この時の僕はどうかしていた。彼女からの返信は

「私は大丈夫。今家に一人で電気もつかないけど。。。」だった。

店:「あのね、もし仮に向かったとしても、ボロボロになるだけよ。」

店:「そんな事したら、余計に心配かけるだけじゃない。」

確かにそうだ。余計なことをして、余計に心配をかけるのはよくない。

店:「後で電話してあげなさい。今はとりあえず片付け手伝って」

店彼も合流し、3人で片付けをする。その間も災害の映像は目に飛び込んでくる。

片付けもひと段落し、彼女に電話をする。


僕: 「ごめんね、何もできなくて。あ、僕らみんな無事よ」

彼:「うん、良かった。。。あ、店長から聞いた」

僕:「へ?あ、聞いちゃったか。お恥ずかしい」

彼:「もう、無茶しないでよね。でも、気持ちは嬉しかったよ」

僕:「なんかいてもたってもいられなくてさ」

彼:「ほら、そういうところ。そういうのが優しいって言うんだよ」


驚いた。こんな明らかに好意を向けている相手にしかしないことが優しさだって。

そんな事言われたのは初めてだ。


僕:「そういうもんじゃない?だってほら。。。恋人だし」

彼:「サラッと言わないで(照)」

僕:「いや、僕だってめっちゃ恥ずかしいですけど(笑)」

彼:「そういう優しさをね、すごく感じてたの。あの頃から」


そう言った後、いかにして彼女の口から過去の僕が行った事が「優しさ」から来るものだと勘違い(いい意味で)しているかが明かされていくのだ。。。

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