第16話 告白中
その日はいつものように、閉店作業のお手伝い。
頼まれるでもなくやっていたため、いつの間にか怪しまれることはなくなった。
この日の彼女は、イベントで大量に撮影されたチェキのサインや整理、その他もろもろの作業をしていたため、当然(よくやらかしていた)終電を逃した。
閉店作業は割と早めに済んだため、彼女の作業を手伝う。
店長は「ちょっと買物とご飯してくる」と彼氏と消えた。
店内には僕と彼女の二人だけ。
彼:「ありがとうというか、ごめんね。いつも手伝ってもらっちゃって」
僕:「どうってことないよ。どうせ終電無いし(笑)」
そう、実はこのシチュエーション、この日が初めてではなかった。
当時の僕は、この時間を楽しみに生きていた。
正直なところ、このくらいの関係性が続くのも悪くないと思っていた。
ただ、この純粋な想いだけにはどうしても抗えず、伝えなければいけないと、
決意をしたのだ。だから店長には話した。
やがて作業も落ち着いた頃、僕から仕掛けた。
僕:「あのさ、ちょっと話さない?」
彼:「え?うん。。。いいよ」
少し俯きながら彼女が返す。
バーのテーブルは小さく、隣り合うように座る形になる。
この時点で僕の鼓動は、すぐ隣の彼女に聞こえそうなくらいに高鳴っている。
改めて見ると、なんと麗しいことか。
僕:「プレゼント、喜んでもらえて良かったよ」
彼:「本当に嬉しくて、なんとお礼をしたら良いのか」
僕:「え?いいよお礼なんて(笑)好きでやったことだから」
彼:「う、うん。。。」
彼女の反応がおかしい。あ、言葉の綾だ。
僕:「まぁバレンタインだし。あ、それとね、君に会ってだいたい半年」
彼:「え?まだ半年なんだ。。。そっか、去年の夏か」
僕:「あの時の衝撃は忘れられないよ(笑)」
彼:「え?もしかして、あの格好?」
僕:「そのまさかよ。二度見どころじゃ済まなかったわ」
彼:「やだ、忘れて。今更だけど恥ずかしい」
俯く彼女がやけに愛らしくて、思わず見惚れてしまう。
しばし沈黙の時間が流れる。
彼:「そ、そういえばこの半年で色々あったよね」
僕:「え?あ、うん。そうだね。」
彼:「〇〇(僕のあだ名)のバンドのライブ観に行ったり」
僕:「あんな目の前にいたら流石に緊張するって」
彼:「確かに近すぎたかも(笑)でもライブ楽しかったよ」
僕:「ありがとう。ライブ楽しかったのは僕の方こそ」
彼:「何度も来てくれてるもんね」
僕:「だから12月のワンマン行けなかったのは悔しい」
彼:「あの時は仕方ないよ。。。」
僕:「あとは。。。あ、映画。」
彼:「ちょっ!蒸し返さないでよ。すっごい恥ずかしかったんだから」
僕:「はは(笑)結構前の事なのにやけに最近な気がする」
彼:「うん。なんかあっという間だね。。。」
僕:「うん、本当にあっという間。それでね。」
彼:「ん?」
僕:「僕の立場でこんな事言うのは厚かましいし」
彼:「??」
僕:「でもどうしても伝えたくて、止まらなくて」
彼:「あ、あの。。。大丈夫?」
僕:「ん?」
彼:「。。。泣いてる」
ああ、悪い癖が出てしまった。想いが溢れると昔からこうなる。
だから本当の気持ちは隠してきた。言えなかった。
でも今だけは、きちんと伝えなきゃ。
僕:「ああ、大丈夫。昔からこうなの。つい熱くなっちゃうとね」
彼:「大丈夫ならいいんだけど。。。」
僕:「それでね、僕は君の事がすごく好きです。」
彼:「え?」
僕:「推しとかそういうんじゃなくて。あ、いや、推しではあるんだけど」
彼:「。。。」
僕:「本気で好きです。どうしようもないくらい好きです」
彼:「あ、あの」
僕:「いいんだ。ごめんね。伝えたかっただけだから」
彼:「そ、そうじゃなくて」
僕:「ん?」
彼:「あ、あのね。すごく混乱してるというか」
僕:「え?あ、ごめん」
彼:「ううん、違うの。嬉しくて」
彼:「私もね、あなたの事。。。好きなの」
その瞬間、その言葉が、僕の時を止めた。
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