第11話 事情

あの夢のような時間(思い返せば)から少し経って

彼女のワンマンが決まった。

初めて会ったあの夏の日から久しぶり。

あの時とはちょっとだけ違う関係性。

僕:「絶対行くね。約束」

楽しみにしていた矢先。


祖父が亡くなった。

仕事が長引いて、メールを見られず、

家に帰ってから知った。

「遅いよ。なにしてんの」

親や兄に怒られた。すまんじいちゃん。


翌日、じいちゃんが家に帰ってきた。息をしてない。

顔の広い人だったから、色んな人が家に来た。

悲しんでる人たちを見て、僕も泣いた。

でもその夜、じいちゃんに話しかけながらむせび泣く父の声を

襖越しに聞いたときが本気で泣いた。見られてないけど。


父:「この2日間で葬儀告別式な」


その頃、彼女と少しやり取りをしていた僕は

すぐさまDMを送った。


「ごめん、ワンマン行けなくなっちゃった」

「実は祖父が亡くなって」


事情まで言わなくても良かったかもしれない。

でも理由を話さないのも申し訳ない気がした。


「大変でしたね。ちゃんと送り出してあげてくださいね」

「わざわざ連絡してくれてありがとう」


テンプレートみたいな回答。

でもあの時の僕はこんな言葉でも救われていたんだ。

他でもない君からの言葉だったから。


じいちゃんを無事に送り出し、年が明けるまでもう少し。

二人の関係が少しずつ変わっていく。

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