第5話 接近

彼女にあだ名をつけられた。迷惑な話だ。不自然なほどの自然さ。

勝手に踏み込んできやがって。こちとらいつ去ろうかと考えてんのに。

迷惑?いや違う。嬉しかった。でもこれ以上はだめだよ。

この「好き」を消す作業があるからね。


そんなある日の事。SNSである発表があった。

『都内某所 週1イベント開催』

ちょうどその頃、久しぶりに正社員の職を得ていた僕。

「まぁ最初だけ行くか」軽い気持ち。嘘。もう僕は君に会いたい気持ちが頂点に達していた。少しでいい。ほんの少しの間だけでもそばにいたい。

「恋心」に変わっていた。そんなのだめだと思うほどに、気持ちだけ先走る。


最初だけ、がまた、いつのまにか2週間に1度、気が付けばほぼ毎週、彼女に会いに行っていた。ただ、周りと戯れるのを極端に嫌う(というか単なる人見知り)僕は、自分から積極的に話しかけることもなく、ただただその場にいるだけ。それだけでも僕は満たされていた。


しかしながらイベント会場にもなったバーの当時の店長(女性)とは仲良くなり、バンドの話やお酒の話で盛り上がっていた。そう、主役を差し置いて。1か月ほど経ったころだろうか、僕は「なんで僕ら仲良くなったんだろうね」なんて聞いてみた。するとその子はこう言った


店:「何か違うのよね、雰囲気が」


僕:「雰囲気?バンドやってるから?」


店:「違うのよ。あの子に対する接し方とか。こんだけ通ってるのにほとんど会話してないじゃない」


僕:「確かに(笑)ただこの店に金落としに来てるだけだ(笑)」


店:「それはありがたい話なんだけど(笑)もっと話せばいいのに~」


ー違う、それは違うんだよ。そんなことしてたら僕はー


言いかけてやめた。「いいんだ、これでも楽しんでるから」


店:「ふーん、まぁ良いけど。あ、そうだこの後空いてる?一緒に飲まない?」


僕:「いやいや、二人っきりはまずいって」


店:「大丈夫、ここでだから(笑)さすがに見つかっちゃまずいでしょ?」


誰に?何を?いや、そんな野暮なことは聞かないでおこう。

僕:「ー良いよ。じゃあ後で連絡して」


その日を境に運命の歯車はゆっくりと回り出す。

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