第3話 「好き」

僕は元来チョロい男である。ふとしたことがきっかけですぐに誰かを「好き」となる。きっかけは何でもいいのだ。


笑顔を向けられた

優しくされた

声をかけられた


そんなことですぐ「好き」になる。けれどその感情は別の誰か、別の何かの力によってすぐに移り変わる。もしくは「好き」だけ増えていく。伝わることのない、伝える勇気もない「好き」だけが積み重なる。そして勝手に悩み、苦しみ、結果「好き」を消していく。そんな作業にも似た感情の整理を幾度となく繰り返した。


いつしか「好き」の意味が分からなくなった。

でもそれで良かった。誰も傷つけずに済む。もしまた同じ感情が生まれても自分の中だけに閉じ込める。それでいいんだと。


何がきっかけだったのか分からないけど、僕は彼女を「好き」と思うようになった。ただ単純に、純粋に、まっすぐに。でも伝えても仕方ない。伝えれば終わる。片思いでいい。辛くなったらここからいなくなればいい。今までだってそうしてきたのだから。ただ一つ、彼女は手ごわかった。僕の心にズカズカと土足で上がってこようとする。僕は少しだけ彼女を避けた。でも一時だけだった。いつの間にか僕は少しずつ彼女に心を開くようになっていた。そんなはずはなかった。僕が巻き込まれるなんて。なんてことだ。


結局、僕の彼女への想いは日に日に増していくばかりだった。

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