ジーノに恋した彼

「では、ご検討をよろしくお願いしま~す!」

 営業マンの不必要なぐらい愛想のよい言葉を後に、真帆はディーラーからクルマを出した。ふぅっ、とため息をつく。古いクルマの修理にディーラーへ行ったら、新車購入を勧められる、という話は聞いたことあるけど、今日はまさにそれ。最近のお店は、一つのものを長く使っているお客さんを大切にしないのかしら?

 こんなとき、蒼太がいてくれたなぁ……と、思わず考えていた。ダメダメ、と真帆は頭を振った。あいつのことは、もう過去。

 社会人になってから付き合い始めた蒼太は、いわゆるクルマ好きだった。真帆もクルマが好き。今どきの女の子にしては珍しい、とよく言われる。でもそんなことはない、と思っている。クルマやバイクが好きな真帆の女友達は結構いる。女の子だから、なんて、そんなステレオタイプな考え方をする時代じゃないのよね、といつも思う。

 蒼太とはクルマ好きのオフ会で知り合い、意気投合して付き合うようになった。彼は、買ったばかりのアルファロメオをとても大切にしていた。156GTA、って言ってたっけ? 中古車を安く手に入れ、結構なお金をかけていろいろと部品を交換したり塗装をやり直したりして、新車同様によみがえらせて乗っていた。古いものを大切にする、というところに惹かれたのだと思う。

 でも付き合い始めると、蒼太は真帆のクルマのことをあれこれ干渉するようになった。そんな外観だけのクルマじゃなく、きちんとしたクルマに乗れよ、と言う。

「きちんとしたクルマって、なによ?」

「歴史があって、メカニズムにこだわりがあって、運転する楽しさのあるクルマだよ」

「そりゃ、蒼太のアルファロメオはそうかもしれないけど……そういうクルマって、いろいろ気を遣うでしょ? 私はね、もっと気軽に楽しみたいの」

「わかるけどさ。こないだ、真帆のクルマを少し運転させてもらっただろ? あのとき、やっぱり国産はダメだなって」

「なんでダメなのよ」

「走りがしっかりしてないし、エンジンはただ回っているだけ、という感じだし」

「じゃあ、しっかりした走りって、どんな感じなの?」

「うん、それは説明が難しいけど……俺の156GTA、ちょっと運転してみたらわかるよ」

「ダメ。だってマニュアルだもん」

「真帆はAT限定免許じゃないんだろ? だったら、もう一度マニュアル車の練習したら? 俺が教えてやるからさ。そして、クラシック・ミニを買いなよ。本当はあれが好きなんだろ?」

「そうだけど……でも、ミニにもオートマはあるから」

「ダメだよ、マニュアルでなきゃ」

「なんで?」

「自分でギアを選んで走るのが、楽しいんだよ。特にクラシック・ミニみたいなクルマは、絶対にマニュアルでなきゃ」

「絶対に? そんなの、おかしいと思う」

「ええ、なんで?」

 そうやって、何度か蒼太とクルマを巡って口喧嘩をするようになったあたりから、二人は気まずくなった。そしてそのまま、なんとなく別れてしまった。

 蒼太と別れたことを後悔しているわけではない。しかし、クルマのメカニズムやパーツの調達方法に詳しかったのは事実。今日みたいなとき、いてくれたら助かったのに、と思う。

 真帆のクルマは、2000年式ダイハツのミラ・ジーノ。クラシック・ミニの軽自動車版と言っていいぐらい、外観は似ていた。よくあちらからクレームが来なかったと思うほどだ。なので、外観をミニ・クーパー風に仕立てている個体が多い。本家のミニに乗るのはハードルが高いけど、これなら楽で快適に雰囲気を味わえる。それで真帆も、社会人になったらお金を貯めて、ジーノの中古車を買った。外観がミニにそっくりの2000年式L700系というモデルだ。蒼太と出会ったのは、ちょうどその頃だった。

 いくら国産の軽自動車とはいえ、もう20年落ちになっているので、ポツポツとトラブルが出始めていた。最近はどうもパワステの調子が悪く、ハンドルを操作するたびに違和感がある。その修理を相談するためにディーラーを訪れたら、トラブル箇所はおそらくパワステポンプで、残念ながらその部品は欠品中だと言われた。それで買い替えを勧められたというわけだ。

 勧められたクルマは、キャストというモデルと、最近発売されたタフト。まず、タフトはパス。良さそうだけど私向きじゃない、と真帆は営業マンに言った。キャストはジーノの後継車といっていいので、これなら、と思ったけど、どこかしっくりこない。とりあえずカタログだけもらって帰ることにした。

 やっぱり私にはこのジーノかな、と真帆は思った。それを確かめるため、ちょっと遠回りしてドライブしよう。いつもと違う交差点を曲がろうとしたとき、ハンドルに変な感覚。このまま放っておいて大丈夫……なわけないよね、と呟いた。さっきのディーラーでは、すぐに重大なトラブルになるわけではない、と言っていた。とりあえずそれを信じて、最近できた道の駅まで行ってみよう。


「うわぁ……ミニがいっぱい」

 新しい道の駅に着いた真帆は、広大な駐車場の一角に駐車された20台以上のクラシック・ミニの集団を見て、思わず呟いた。今日は日曜日だから、ミニ・オーナーが集まるイベントかオフ会でもやっているのだろうか。だったらオーナーの話を少し聞いてみたい、と思ったが、どうしても気後れしてしまう。元彼の蒼太にも言われたように、自分が乗っているのは、いわばミニのイミテーション。冷たい目で見られるに違いない……。

 真帆は、ミニの集団の周りを2回ほど通り過ぎ、それから少し離れたところに駐車した。遠くから眺めるだけにしておこう。そう思って、カフェ・スタンドでカフェラテを買い、ミニが駐まっている場所がよく見えるベンチに座った。やっぱりいいな。思い切って、クラシック・ミニを買ってしまおうかしら。

 そんなことを考えていたとき、横に立っていた男性から不意に声をかけられ、真帆はとても驚いた。

「ミニのことが気になるんですか?」

「え? 私ですか? ええ、まあ……」

 真帆は相手を見た。自分と同じぐらいの年代だろうか? 丸いメタル・フレームのメガネをかけた男性が、ニコニコしながら私を見ている。どう対応したものか迷っていると、その男性はこう言った。

「あ、突然話しかけて、すみません。僕のミニもあの集団の中に駐めてあるんです。失礼ですけど、あなた、ジーノにお乗りですよね? さっき、ここで見ていたんですが、2回ぐらい、あの周りをゆっくり走ってましたよね」

 あ、見られてたんだ。しかも、ジーノに乗っていることも。真帆は少し顔が熱くなった。

「すみません。ミニが、今の新しいのではなくて、あのクラシックなのが好きなんですけど、オーナーになる勇気がなくてジーノに乗っているんです」

「なんで謝るんですか? ジーノ、いいじゃないですか」

 たぶん社交辞令だろう、と思って真帆は聞き流した。

「オフ会、ですか?」

「そうなんです。ミニを買ってからまだ日が浅いので、こういう集まりに参加するのも悪くないかな、と思ったのです」

「やはりオーナーの皆さん、知識とか拘りとか、すごいんですか?」

「そうですねぇ……。この時代にあんなクルマに乗っている人たちですから、多かれ少なかれ、拘りはあるみたいですね」

「あなたもそうですか?」

「まだ自己紹介してませんでしたね。僕は藤城亮一といいます。よろしく」

「私は白川真帆です。藤城さんも、かなり拘りが?」

「いえ、僕はそうでもないです。まあ、拘りがないと言えば嘘になりますけど、なんていうか、そんなにガチガチに拘っていません」

 真帆は、藤城に対して少し警戒心を解いた。話し方が穏やかだし、悪い人間ではなさそう。

「実はね、このオフ会に参加したこと、少し後悔してたんです。自分だけ、こっそり帰ろうかな、と考えていたところで」

「なぜですか?」

「なんていうか、あまり居心地が良くないのです。一見すると、楽しそうに感じるのでしょけど」

「そういう風に見えますけど」

「前にもこういう集まりに参加したことがあるんですけど、似たような居心地の悪さがあったんですよ。今回も同じでした」

「どういうことでしょうか」

「ああいうクルマ関係のオフ会とかミーティングはね、妙に声が大きい人がいるんです。あ、物理的に声が大きいという意味ではなくて、勢いのある人というか、張り切っているというか……」

「あ、それ。なんとなく、わかります」

 真帆は、なんとなく元彼の蒼太のことを思い描きながらそう言った。蒼太も、クルマ関係のオフ会になると張り切るタイプだった。

「そういった人を中心に取り巻きというか、妙なコミュニティができていて、僕みたいな新参者はなかなか入りにくくて」

「参加し続けているうちに、仲間になれるんじゃないですか?」

「そうかもしれません。でも、なんとなく肌で感じるんですよ。あの中には入れないって」

 結構、人見知りするタイプなのだろうか。その割に、真帆に気軽に話しかけているようだけど。

「あなたのジーノ、あのワインレッドのですよね? ちょうど横が空いたから、僕のミニを隣に駐めさせて貰っていいですか?」

「それは構いませんけど」

「僕ね、結構ジーノが好きなんです。それに、ワインレッドという色がいい。ついでに僕のミニ、見学しますか?」

「え、いいんですか?」

「どうぞ。じゃあ、クルマのそばで待ってて下さい」

 そう言って、藤城亮一はクラシック・ミニの集団の方へ歩いて行った。真帆も自分のジーノに戻る。藤城という男をどこまで信用していいのかわからないが、せっかくミニを見学させてくれるというし、悪い人間には見えないので、なり行きに任せようと思った。嫌になったら、適当に理由をつけて、さよならすればいいだけだ。

 ジーノのそばで待っていると、綺麗な紫のような紺色のような、そんな色のミニがやって来て、真帆の隣に駐車した。これ、いい色。見とれていると、ドアを開けて藤城亮一が出てきた。

「ミニって言うと、赤とか緑っていうイメージでしたが、こんな色もあるんですね」

「ポールスミス・ブルーって言うんです。これ、ミニのポール・スミスっていう限定車」

「ポール・スミスって、ファッションブランドの?」

「そう。硬派なミニ・オーナーはクーパーていうスポーツ・モデルを好むんですが、僕は見た目重視。限定車ですが、言ってしまえばポール・スミスが仕立てたコスプレみたいなものです」

「いいなぁ、これ。中も見せて貰っていいですか?」

「どうぞ。運転席に座ってもいいですよ」

「へぇ、中も同じ色なんですね。私のジーノより狭いけど、でも、なんかいい感じ。え、オートマなんですか?」

「そうですよ。がっかりしました?」

「とんでもないです! こういうクルマに乗っている人はみんな、マニュアルに拘っているのかと思ったから」

「そう、実はあそこのオフ会の人たちって、そういう感じの人が多いんですよね。クーパーじゃないとダメとか、マニュアルじゃないとダメとか……」

「それって、なんかしんどいですよね」

「僕のクルマを見て、なんだオートマか、みたいな空気を感じるんです。それで、自分だけ先に帰ろうと思ったとき、あなたのジーノが僕らの周りを興味深そうに眺めながら走っているのを見かけたんです」

「見られていたんですね」

「ひょっとして、ジーノに乗っていることで、ミニのオーナーに対して少し気後れしているんじゃありませんか?」

「ええ、実はそうなの」

 真帆は少し亮一に気を許し、敬語で話すのをやめた。

「そういう風に感じる必要、ないと思うけどなぁ。どんなクルマに乗っていようが、その人にとっては愛車であることに違いないんだから」

 亮一は少し感慨深そうに真帆のジーノを眺めつつ、こう言った。

「あの、もしよかったら、僕のミニを運転してみませんか?」

「え!? いや、それはちょっと……大切なクルマでしょうし、それに運転が難しそうだし……」

「パワステがないので、そこがちょっと最初は慣れないかもしれませんが、オートマですし、大丈夫ですよ。道の駅の周りを、グルッとしてきてください」

 そう言って、亮一は真帆にミニのキーを差し出した。その提案を受けるかどうか、真帆は迷った。さっき会ったばかりの見ず知らずの人と、ここまで親しくしていいのだろうか? それに、ミニは前にも試乗したことがあるし……。そういう真帆の迷いを察したのか、亮一は

「あ、僕、怪しい者ではありませんよ」

 と慌てて言った。その言葉で、真帆は決めた。この人は大丈夫だろう。

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただくとして、ひとつお願いがあるの」

「なんですか?」

「やはり一人で運転するのは不安だから、一緒に乗ってもらえる?」

「ああ、わかりました。いいですよ。じゃあ、キーをどうぞ」

 真帆は少し緊張してキーを受け取り、ミニのドライバーズシートに乗り込んだ。亮一は助手席。狭い車内で、微妙な二人の距離感が気になる。

「あら、ハンドルが普通のクルマより水平なのね」

「そうですね。バスとかトラックみたいですが、それはすぐ慣れます。パワステがないので、車庫入れとか細かいハンドル操作をするときは、クルマをほんの少しだけ動かしながらハンドル操作するよう、そこだけ少し注意して下さい。据え切りはしないように」

「据え切り?」

「止まった状態でハンドルを切ろうとすることです。パワステのクルマなら簡単にできますが。試しに、いまハンドルを回してみてください」

 真帆はハンドルを右に切ろうとしたが、全然回せない。

「全然動かない。ダメ、運転できないわ」

「少しでもクルマが動いていたら、十分に操作できます。オートマをDに入れて、ゆっくりと動きながらハンドルを切ってクルマをここから出してみてください」

 真帆はオートマのセレクターをDに入れると、恐る恐るブレーキを離した。ゆっくりと動き出す。そして右にハンドルを切った。重いが、なんとか操作して駐車スペースからクルマを出すことができた。

「パワステのクルマとだいぶ違うでしょ? だけど、そういうもんだと思えば、すぐに慣れますよ」

「確かに重いけど、こうやって動いていれば大丈夫そう。まず、駐車場の中でちょっと慣れさせて」

「どうぞ」

 真帆は駐車場の通路を右に曲がったり左に曲がったりしながら、ハンドル操作に慣れようとした。

「そろそろ慣れてきたみたい」

「じゃあ、外に出てみましょう」

 それからは夢中だった。亮一の言うとおりのルートを走らせたが、街中を運転しているだけで、こんなに楽しいと感じたのは初めてだ。ジーノと違って、ハンドル、アクセルもブレーキも、何もかもがダイレクトな感覚。

 道の駅の駐車場に戻って、車庫入れもなんとかできた。パワステのないクルマの運転にすっかり慣れていた。あ、ジーノのパワステ……。

「ありがとう。こんなに楽しいとは思わなかった。私、真剣に購入を検討しようかな」

「え、そんなに簡単に決心するのですか?」

「ええ、実は……」

 そう言って、真帆はジーノのパワステの調子が悪いこと、部品がもうないとディーラーで言われたことなどを亮一に話した。

「そうだったんだ。うーん。ちょっとそのジーノ、僕にも運転させてくれませんか?」

「いいけど……さっきも話したとおり、パワステの調子が悪いのよ。大丈夫?」

「大丈夫ですよ。実はミニの前にも古いクルマに乗ってたので、故障には慣れてますから」

 真帆は亮一にジーノのキーを渡し、自分は助手席に乗り込んだ。亮一はジーノのエンジンをかけ、走り始めた。

「確かに、ステアリング操作でときどき違和感が出ますね。でもこれぐらいなら、まだしばらく大丈夫かな。それにしても、やはり最近のクルマは快適だなぁ」

「最近って言っても、もう20年落ちよ」

「そうでしたね。でも、やはり快適ですよ。エアコンはきちんと効くし、ボディが小さいのに車内は広いし」

「そうかしら。免許を取ってからこれしか乗ったことないので、よくわからないけど」

「余計なお節介かもしれませんが、僕がミニの面倒を見て貰っている整備工場なら、パワステの件、どうにかしてくれると思いますよ」

「え、本当?」

「ええ。ジーノなら中古パーツがいっぱい流通しているから、程度の良いパーツを探してくれますよ。それより、まだどこかに新品のパーツがあるんじゃないかなぁ」

「ディーラーでは、ないって言われたけど」

「彼らの正規ルートではね。まあその辺も、相談すればどうにかなりますよ」

「藤城さんは、私がミニに乗り換えるより、修理して乗り続けろっていうの?」

「いえ、別にそこまで立ち入ったことを押しつけるつもりはありません。ただね、乗ってすぐにわかったんだけど、このジーノ、すごく大切にしていますよね?」

「ええ、まあ……」

「確かに、ミニに憧れる気持ちはわかります。だけど、ここまでこのジーノを綺麗に乗っているんだったら、それはそれで、誇りを持って乗り続けるのも素敵だな、って思ったもんだから。すみません。差し出がましいことを言いました。でも、いいなぁ、このクルマ」

 真帆は亮一のこの言葉を聞いて、ハッとした。このジーノに乗り始めて3年ちょっと。通勤、買い物、そして気晴らしのドライブにと、ずいぶんと長い時間をこのクルマと過ごしている。きちんとメンテナンスしてきたつもりだし、ボディも綺麗にコーティングしてもらったばかり。少し調子が悪いからといって、すぐに新しいクルマに乗り換えるのって、なんだか格好悪くない?と真帆は思った。本当に修理できなくなって、どうしようもなくなるまで、誇りを持ってジーノに乗り続ける。なんでそのことに気づかなかったんだろ?

 真帆が亮一のミニを運転したのと同じコースを通って、再び道の駅に戻ってきた。亮一はジーノの運転席を降り、キーを真帆に返した。

「今日はありがとう。ミニのオフ会より、このジーノに試乗できたことの方がよっぽど楽しかったです」

「あの、藤城さん」

「はい?」

「お願いがあります」

「なんでしょう?」

「さっきの整備工場、紹介して。私、ジーノに乗る続けることにしたわ」

「本当ですか? 僕の言ったこと、気にしなくてもいいんですよ。もしミニを買うんだったら、僕が買ったお店を紹介……」

「いいの。もう決めたから。もし時間があるなら、今から連れて行って」

「それはかまいませんけど。じゃあ、僕のあとを付いてきてくれますか」

「それと、もう一つ」

「はい、なんでしょう」

「私に敬語を使うの、もうやめて。私たち、同じような年齢でしょ? これから、藤城さんにいろいろクルマのことを教えてもらいたいし、だから……」

「でも、さっき会ったばかりだし……」

 真帆は思わず噴き出した。

「それを言うなら、私の方よ。藤城さんが私に声をかけてきたんじゃない」

「ああ、そうでした。すみません。普段は、気軽に女性に話しかけたりしないんですが」

「ほら、また敬語」

「すみません。ちなみに、僕は30歳です」

 ふーん、私より4つ上か、と真帆は心の中で呟いた。

「私の年齢は、まだ内緒。それより、整備工場へ案内してちょうだい」

「わかりました。では、僕のミニのあとを付いてきてください。ここから30分ぐらいかかりますが、いいですか?」

「いいわよ」

 真帆はため息をついた。まだ私に敬語を使ってる。まあいいわ、と思った。真面目な性格なんだろう。

 亮一が運転する綺麗なブルーのミニの後を、真帆のワインレッドのジーノが付いていく。なんか楽しいわね、こういうの。彼となら、うまくやれるかな、と真帆は考えていた。あ、まず、いまフリーかどうか確かめないといけないわね。どうだろう? 半々ぐらいかな? それと、敬語を使うのをやめてもらわないと。そっちの方が難しそうね。

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