第6話
仕事帰りに時々、カフェで小林くんと一緒になる事がある。
一緒にごはんを食べて愉しくお喋りをしている。
先日はイベントに一緒に参加した。趣味で絵本を描いている人が、自分の絵の個展を開いたのだ。
絵の内容は、無機質な表情の動物がたくさん描かれていた。
本来はこれに文章がついて、絵本となっている。
感情が読み取れない動物達が、どんな物語を繰り広げているのか興味が沸く。
小林くんは、「動物達はどうしてこんなに無表情になってしまったのだろう」と云っていた。
そして、絵本を買っていた。私も読みたいので、貸してもらった。
小林くんといると愉しい。一緒にいる時間が増えてゆく。
〇
ある日カフェでゆっくりしていると、麻里が声をかけてきた。
大体こいつ、私と休みが被りすぎじゃないか? 仕事はアパレル関係とか云っていた気がするが。
「由佳さん、今日は小林さんと一緒じゃないんですか?」
どうして人のプライバシーに踏み込むような事を平気で云えるのだろう。
「うん、特に約束はしてないよ」と答えておいた。そしたら信じられないことを云ってきた。
「小林さん、ガンガン女遊びしてますよ。私の友達とも遊んでるみたいです」
いきなり何なんだろう。
第一、 私と小林くんは付き合っている訳ではない。
小林くんが女遊びをしていようと、それは小林くんの勝手だ。
それなのにわざわざ私に報告する、その心理に腹が立つ。
麻里の腹の中はこうだろう。
私が小林くんに好意を抱いていると仮定する。
そこで、小林くんの女関係を吹き込むと、明らかに私が不機嫌になる。
けれども付き合っている訳でもないので、怒る筋も無い。
どういう反応を示すか、見たいのだろう。それか単純にもめ事が好きなのだろう。
麻里のこういう神経が、根性が、心底嫌いだ。
麻里は、私の第一声を待っている。何を云うか、わくわくしている。
ださい一言だったら、心の底から喜ぶだろう。
心の中で私を馬鹿にして、同情するような表情と言葉を私にかけるだろう。
第一、信ぴょう性が無い。嘘を吹き込み、こちらの反応を伺う汚いやり方。これが麻里なのだ。
とりあえず、そうなんだ、とでも云っておこうかとした瞬間、カフェの扉が開いた。
小林くんが、知らない女の人と来店した。
小林くんは私を見て「やあ、由佳さん」といつも通りの爽やかな笑顔で手を振った。
なんというタイミング。これはギャグ漫画か。
「あら、小林くん」私は、涼しい顔でそう云うのが精一杯だった。
「小林さん、彼女ですか?」麻里がすかさず云う。
こいつ……と腹が立ちながらも、タイミング的に良い質問だ。
小林くんは、「いや、この子はお友達だよ」と笑顔で答えていた。
そうして、小林くんは知らない女の人と奥の席に向かった。
「ね、ああいう人なんですよ、小林さんは。由佳さんには似合わないですよ」
麻里の云っていることが本当だった。複雑な気持ちだ。
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