第4話

 昨日は佐木さんに会えたので、今日の仕事はルンルン気分でこなせる。

 ルンルン気分で仕事をしていたら、上司の青山さんに呼び出された。

 青山さんは本社勤務の上司だ。本社は東京のオフィス街にある。

 私の住む東北地方は、基本全て支店になっている。


 上司を交えて毎月全員でミーティングをする。つまり青山さんは毎月東北に来ている。

 売り場の展開の仕方や、客層やその他データなどの話をする。

 青山さんは仕事が出来るし、三十三歳の若さで課長手前の位置にいる出世間違いなしの人物だ。

 ルックスも中々なので、結構女子社員に人気がある。


 まだ開店前の店内で、青山さんとお客様の通行ルートの話をする。

 青山さんは仕事熱心な人なので、こちらもつい熱くなる。

 

 青山さんとの熱いトークを終え、開店準備を始めたら同僚の今井京花が近づいてきた。


「由佳さん、昨日の休み、何処かに行ったの?」


 今井京花は、確実に青山さんに好意を持っている。

 先ほど私と青山さんが熱くトークをしているのを、横目を使って凝視しているのは気づいていた。

 まさか昨日、私が青山さんと一緒だったとでも思い込んでいるのだろうか……。


「昨日は友達のカフェに行ったよ」と笑顔で答えておいた。

 信じたかは解らないが、亰花のホッとした表情を見逃さない。


「由佳さん、今日のミーティングでの意見出し、凄かったね」

 一応、私を褒めているのだろう。

 青山さんとは何でも無いのに。


                〇


 ものすごく長い一日だった。

 今日も貴子の所に行こう。

 閉店近くだったので、ほとんどお客はいなかった。


「ごめんね、閉店間近に」本当にそう思って、貴子に先に謝った。


「何云ってるの、いつ来ても歓迎だよ。」


 貴子の優しさにホッとする。

 いつも通り紅茶とチョコレートを頼んだ。

 今日のチョコレートは、いつもより甘かった。

 仕事終わりに食べるチョコレートが一番美味しい。

 多分今日のチョコレートは、いつもよりミルク多めのやつだ。


「何かあったの?」

 他のお客が帰り始めた頃、貴子が云った。


 実は今日、上司の青山さんに、誘われてしまった。

 青山さんは本社の人だ。関東に住んでいる。

 支店の東北に来たので、地元の飲食店に行きたいと云われた。

 今度の私の休みの前日、仕事終わりに一緒に行こうと云われた。


「休日前なら、ゆっくり出来ると思って」などと云われた。

 おいおい。折角の休日前の花金(金曜日ではないけれど)タイムを上司と過ごすなんて……。

 それ、一歩間違えたらパワハラじゃないの? と心の中で思いながら笑顔を作っていた。

 二人でディナー。しかも青山さんは車ではないので、確実にお酒を飲むだろう。

 イメージ的にワインいきそうだな。


 今までも少し感じていたけれど……。私を女性として見ていたのか。

 青山さんはルックスもそこそこだし仕事も出来るし性格も良いし。

 条件だけ見たらかなりの高レベルだ。

 けれど青山さんを男性として見ている訳じゃないし。この先仕事がやりづらくなったら嫌なので、爽やかに断った。


「あら、もったいない」すかさず貴子に云われた。

「本社勤務って事は、経済力も中々なんじゃないの?」と鋭い所をつかれた。

 いやいやいや……。さすがにそれでお誘いに乗るのは駄目でしょ。


「だから由佳さんは真面目なんですよ」


 何? いきなり。麻里が出てきた。

 しかも酔っ払っている。

 何やら今まで飲んでいたらしい。酔い覚ましにカフェに来たらしい。

 いつからいたんだろう……。

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