第3話

 紅茶を待っている間、麻里の声が聞こえてくる。

 麻里と一緒にいるのは、ギャル系の女子と少し地味めな女子だ。

 麻里はいかにも『女子力持っています』的な女子だ。タイプの違う三人組。

 

 麻里が張り切って発言して、あとの二人は少し呆れているようにも見えるのは、私が麻里を嫌っているからだろうか。

 男は気になればとりあえず誘う、女の武器もガンガン使う。使わなきゃ損だと云っている。

 ファッションも男好みを視野に入れているようだ。


「本当はカジュアルな服も着てみたいけれど、メンズを意識しちゃって……」などと云っている。

 知りたくもないのに、勝手に麻里の情報が入ってくる。

 何の罰ゲームだ。

 苛々してくる。嫌いな奴の事なんて気にしなきゃいいのに、つい気になってしまう。

 この『気にしない』という技は、かなりの高レベルだ。

 わざわざ苛ついている自分が、ものすごく嫌だ。

 

「由佳の事を悪く云う人なんて、見たこと無いよ」

 貴子が紅茶とチョコレートを私の前に置きながら云った。

 長年の付き合いと、接客業のスキルだろう。私の心中を察してくれた。

 貴子は看護師の資格も持っている。それと関係あるかは解らないけれど面倒見が良くて、私が迷っている時には助言もくれる。

 友達だからひいき目に見ている訳では無いけれど、妖艶な魅力の美人だ。


 貴子の優しさと紅茶の美味しさに癒されていたら、カフェの扉が開いた。

 佐木さんだ。

 佐木さんは、私の憧れの男性だ。ちょっと良い会社に勤めている。知識が豊富で大人で妙な色気がある。

 そしてちょっとお洒落だ。色々ちょっとずつ良い所を持っている絶妙なバランスの男性だ。

 二十九歳という年齢も、何だかはっきりしなくて良い。


 佐木さんに声をかけようとしたら麻里がそそくさと声をかけていた。

 佐木さんは、皆の憧れだ。それを解っていて、麻里は思い切り笑顔で佐木さんに近づく。

 男がいると色々トーンが変わる女性の代表みたいな麻里。そういう所も嫌いだ。


 再びカフェの扉が開いた。現れたのは佐木さんの恋人だ。

 佐木さんの恋人は綺麗で可愛い。つやつやで栗色のミディアムヘアを保つのは大変だろう。

 天使の輪が出来る位つやつやなのに、毛先はさらさらしている。恐らく、髪の毛が当たっても痛くないだろう。


 ファッションはモテ服代表のような洋服を自然と着こなしている。

 肌ざわりの良さそうな上質なニットに、上品に広がった膝丈のスカート。足元は必ずヒールの靴を履いている。

 ハイブランドの鞄を小脇に抱えて、細い指に細いリングをつけている。ファッション雑誌に出てくるモデルみたいだ。


 麻里もモテ服を意識しているつもりだろう。髪の毛をゆるくカールさせたり少し肩を露出したニットを着たりしている。

 けれども佐木さんの恋人と決定的に違う所がある。

 佐木さんの恋人は、上品。麻里は下品だ。

 

 さすがに麻里もそれは解っているのか、佐木さんの恋人が現れたら、そそくさと友達が待っている席に退散した。

 

 麻里を気にしているのか見ていないのかは解らないけれど、佐木さんの恋人は私の方に歩いてきた。


「由佳ちゃん、久しぶりだね」佐木さんの恋人は、桜さんという。

「桜さん、お久しぶりです」私は笑顔で挨拶をした。

 佐木さんもこちらに向かってくる。


「由佳ちゃん、この間聴きたいって云ってたバンドのCD、今持っているから」

 佐木さんは音楽の知識も豊富だ。

 佐木さんはIT企業に勤めている。基本土日が休みのようだが、時々平日も休んでいる様子だ。羨ましすぎる。

 桜さんは何の仕事をしているか解らないけれど、土日も平日も、基本佐木さんの隣にいる。

 謎だ。

 

 三人で、しばらくトークをした。

 恐らく、麻里がこちらをチラ見しているだろう。私は、麻里の方向を一切見ない。

 少しすっきりした。

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