第21話 永遠に……2
風の翼に乗って東京へもどり、某結婚式場にたどりついたふたりは、赤い絨毯を敷きつめた広い廊下で若く美しいカップルを見つけた。
「あれがいいわ」
リマの声に「よし」と応じた。
式場に入場すると、ライトと拍手とが新郎新婦をあたたかく包みこんだ。
霊体は肉眼では見えないがそれでもみんなに見られているような気がして、そっとうしろから忍び寄った。
ワーグナーの結婚行進曲が終了し、エンゲージリングの交換が行われようとしていた。
司会の声が高らかにひびきわたる。
「これよりエンゲージリングの交換が行われます。新郎新婦におかれましては、愛する皆様方のまえで永遠の愛を誓われます」
そのとき、ウェディングドレスがふぁっと風にそよいだ。幽霊たちが新郎新婦に取り憑いたのである。精神の作用は霊力に左右される。リマたちの思いは、若いカップルよりもはるかに強かったため、簡単に彼らの肉体を征服してしまった。
ところが、顔を見合わせて、その姿に思わず噴き出してしまった。ふたりはあわてていたために男と女とを取り違えたのである。
会場の人々は、それを若いふたりの照れ笑いとあると勘違いしたようで、ひやかしの指笛やかけ声があちこちにあがった。笑いをこらえながら、目を白黒させていた牧師の前で厳粛にエンゲージリングの交換を行った。
それは長いこと夢みていた永遠の愛の誓いだった。肉体も指輪も借り物だったが、それでも有頂天だった。
「キッス」のかけ声が起こり、そっと唇を合わせた。甘くせつない一瞬・・花に顔をうずめるような行為に会場は水をうったように静まり返った。
名画を見ているような光景に、ひときわ大きな歓声と割れんばかりの拍手の渦が巻き起こった。
『やった!』
『やった!』
ケーキ入刀を待たずに肉体から抜けでて空中で抱き合った。若いカップルは、糸が切れたマリオネットのようにウエディングケーキへ突入・・!
ふたりの様子を見にきていた天使は、見ちゃいられないというふうにつぶやいた。
「こういうことをしてしまうから、君たちはすんなり結ばれない運命におかれてしまうのよ」
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