第20話 永遠に……1
時を忘れて永遠を感じていたひととき・・。
ふたりは東京ディズニーランドにいた。シンデレラ城のてっぺんに鳩のようにとまり、それから風の子どものようにあちこちを見て回った。昨夜の雪もここには降らなかったようだ。朝日が夢の空間を宝石のようにかがやかせていた。
そこには夢の残り香のように私達と同じ霊物がいた。ひとりベンチに座っている少女の霊は、迷子のようにだれかを待っているようだった。その周りには、ミッキーマウスやドナルドダックたちの幻が彼女を笑わせようと踊っていた。朝日に消された星のかがやきが、あたりにチラチラと残されていた。多くの霊たちは、夜の終わりとともに深い眠りに落ちたのであろう。
非日常のなかの夢のひととき・・意匠の陰には柱があり精密機械があり壁がある。その陰にはビジネスがあり、技術があり、人の想いがある。ディズニーが机で描いた一匹のネズミが、この世に壮大な御伽の国をこしらえた。それは、どこか薄暗い星月夜のワールドである。楽しいが、どこかせつなくやるせない。現実への絶望あるいは痛み、それを笑いのオブラートがやさしく包んでいる。It´s a small worldにある束の間の夢と希望とをだれもが買いに出かけてくる。それは現実の軛から解放されるための小さな平和の祭だった。
今日一日の会場の準備にあわただしく従業員たちが動いている。入場口には、人だかりができはじめていた。ちぎれ雲が旅人のように空を流れていく。ふたりは手をつないで広場を歩いていた。どこから姿を現したのか。かわいい少年が、そよ風に吹かれてポップコーンを歩道に落とした。そのとき純真な子どもの目には、ふたりの姿が見えたのである。驚いて私たちを指差した。
笑みを返して手をふった。その子も満面に笑みをたたえて手をふった。
彼女は私と瞳をあわせ微笑み、秘めた思いを口にした。
「わたし、とっても幸せ。
でもひとつだけ悪いことをしたいの」
美しいまなざしに問い返した。
「どんな?」
彼女は耳元でささやいた。私はその話を聴いてたじろいだが、その思いが痛いほど分かって思わず同意してしまった。
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