第18話 恋のCOSMOS-5
船体が妙なる花のうねりに呑み込まれ、花陰にあたりがうっすらとそまりはじめたころ・・船は花の渦を超えて、電子のスピンのように広大な空間へと躍りでた。荘厳な四十一の鐘の音がはるかかなたにひびきわたり、眼前には幾万もの星団が近く遠く広がっていた。
「まるで千万の銀の鈴だね」
「ほら、耳を澄まして。
いま、新しい銀河が誕生するのよ」
目の前の星団は波を打って動きはじめ、ジュエリーのような星の一つひとつがいっせいに翼をはばたかせ、全天に飛翔した。白銀の鳥の群は、離れて寄って、分かれて結んで、さまざまの象を描きながら天空を駆けた。やがてその一つひとつが美しい星となり、真珠のように夜空を飾った。
鳥の生んだ卵は、あわく渦潮のようにかがやいている。そこから新しい星たちが、朝顔の蕾のような可憐な花を開きはじめた。ここは星の誕生の園。宇宙の神秘のゆりかごだった。
「ここが銀河のはてなのね」
恋人の感慨に、私は上空の一点を指差した。
そこには満月のように丸い虹が燦然とかがやいていた。その中心は、光のもれる穴のように清く明るく潤んでいる。円はしだいに大きくなり、太陽の数百数千倍に広がって世界をつつみ込むように明るく強く光りだした。
帆船はゆるやかに光体へ吸い寄せられていく。なんというすばらしい驚異だろう! 背中の翼を焼かれるようなめまいを感じた。光体の向こうに広がる神々の世界。その直覚は、あまりに妙なる絶対への郷愁だった。ありがたさに涙があとからあとからこぼれおちる。そこには愛の悦びが永遠に尽きることなく広がっていた。
ふたりはふと恐怖を感じて抱き合った。ふいに相手が消えてしまいそうな気がしたのである。愛は恋を超えている。私達には神々のやさしさが恐かった。
そのとき船体に激しい衝撃が走った。追手が船を攻撃したのである。みるみる炎が上がり、船は急激に落下した。
私達はほほえみ、抱き合って銀河へと身を投げた。花陰にいた蜜蜂に刺された子どものように涙がこぼれ、ふと目が覚めた。
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