第15話 恋のCOSMOSー2

 目の前の少女には前世の恋人の面影が宿っていた。

「リマ!」

その声に若い女の体からもふっと風のように霊が抜け出した。

「アベル!」

 私達はしかと抱き合った。前世で交わしたプラチナの十字架がたがいの胸にキラリと光った。抱擁と言ってもこれほど清らかなものはなかった。それは前世からの思いを貫いた霊と霊との再会だったからである。

 十九世紀の中葉、大国R南端の半島・・それから長い時を経て、私達は日本で生霊として再会したのである。リマの話によると、私との別れの直後に戦地で死んだ。それから霊界を巡り、私をずっと探し続け、やっと巡り会えたという。肉体に霊がもどれば、前世の記憶は消えてしまう。このままずっと永遠にいっしょにいたい。それが彼女の願いだった。


 そのとき天使が窓越しに私達のすがたを見かけ、鳩のように空から舞い降りてきた。

「あなたたち、ここで何をしているの?

 肉体からかってにぬけだしてはいけませんよ。早くお帰りなさい」

 リマは私の背に隠れて叫んだ。

「いや! 絶対にいや!」

 私は彼女を抱き寄せた。

「一五0年ぶりに会ったのです。もう決して離れない」


 天使は私達の思いが真剣であることを察し、運命帳で二人の履歴を調査して溜息をついた。

『七度生まれ変わって、七度出会い、七度別離か・・』

 恋のはじまりは平安朝、女性により大和心が語られていたころのことだった。そこを起点に世界各地を風のようにめぐり、エジプト、タイ、フランス、チリ、アメリカと世界のあちこちで可憐な恋の花を咲かせていた。通常恋は、半身どうしが結ばれてハッピーエンドに納まるのだが、恋の思いが強すぎる場合、結ばれるタイミングにズレが生じやすいのである。深い縁があるにもかかわらず擦れ違いが生じてしまう。しかもその思いが強いので来世に恋を持ち越してしまうのである。

 これは芸術家などに起こりやすい現象で、しかも彼らはそれを愛と創造の糧としているのだから始末にこまる。彼らの脳裏にはつねに「永遠の恋人」への熱い思いがあるのだから・・。それは千年にわたる恋の物語だった。しかも二人には神に選ばれた者の刻印があり、この世において特別な使命が与えられていた。ということは、また・・。


天使は声をつまらせたが、ふと横を向いて深呼吸をした。

「あなたがたの魂は美しいわ。でも、ここは(神の)光と(悪魔の)闇との戦場です。

 アベルさん。リマさん。あなたがたは優秀な愛の兵士なのです。光のために闇と戦わなければなりません。だから、だから・・わたくしをいじわるとは思わないで。それぞれの宿命に従ってください」

 二人の頬には涙が光った。天使も思わずもらい泣き・・。しかし、いつまでもそうしてはいられなかった。彼女は歴史の舞台裏で起こった事件の解決に奔走している最中だったからである。

しばらくして告げたのは、

「あなたがたの逢瀬は三0時間。それ以上肉体から遊離しているのは危険です。

それを忘れないで」

 天使はやさしく微笑むと空中に消えた。

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