第119話 銀翔はオロチと力を合わせる

 オロチは妖星剣牙涼刀ようせいけんがりょうとうを二本握りしめて、ぬらりひょんを囲う側近たちに両手を使って間髪入れずに斬り続ける。

 オロチは同時に斬りつけた時に、横から飛んできたかまいたちの鎌をかわすのが数秒遅れ、額を斬られて血が吹き出した。


「ふんっ、こんな浅い傷でこのオロチ様が倒れるわけがなかろうが!」


 峰打ちでぬらりひょんの手下たちを仕留めていくが微量にしびれ薬を刀から術で出しているので、大蛇妖怪オロチに斬られた者は体が動けなくなり地面に次々と倒れこんでいった。


「行けーっ! 銀翔ー!」


 ぬらりひょんの姿が数十名のかまいたちの合い間に一瞬見えた。

 銀翔は颯爽とオロチが開いた道を駆けて行った。


「死ぬではないぞ、オロチ!」


 すれ違いざまオロチに声をかける。銀翔は狐火と妖狐と管ギツネを置いていきオロチの守りの強化をはかった。


「ふんっ、甘ちゃんめ。お前の加護が無くたって俺は……。ありがとな」


(気に食わんが受け取っとくぜ)


 オロチは照れ隠しで吐き捨てるように銀翔に礼を言った。銀翔は地獄耳だからオロチの声が届いていた。

(ひねくれた奴じゃ)

 銀翔は可笑しくて口の端だけ笑った。あまり笑っては緊張感がなくなると。


「ぬらりひょん!」

「来たか、キツネ」

「こんな戦は不毛じゃ。わしとお主の一騎打ちでカタをつけようではないか」

「銀翔そりゃあ、良い提案じゃねえか。かまいたちども、お前らはにっくき同胞の仇のオロチを始末しろ。散れいっ!」


 ぬらりひょんの周りから大将を防御していた妖怪たちがオロチ目掛けて走って行く。


 その場には銀翔とぬらりひょんの二人だけになった。


 ぬらりひょんは錫杖しゃくじょうを揺らした。

 すると瞬く間に高天原に煙が漂い黒い暗雲に育ち立ち込めた。ぬらりひょんは嵐を呼んだのだ。

 空を鋭く縦横無尽に走る稲光りがギラギラピカッと光る。雷鳴に雷雲が轟音とひょうき散らした。


「この期に及んで子供騙しかのう? ぬらりひょん」

「子供騙しねぇ。教えてやろうか? 銀翔。ありゃあ、ただの雷じゃねえんだよ」


 ぬらりひょんは高らかに笑った。銀翔に錫杖を突きつけると、その先に雷が落ちてきた。

 雷を吸収した錫杖からぬらりひょんが衝撃波をいくつも銀翔にくらわしてくる。

 おきつね銀翔は避けたり交わしながらも、反撃のチャンスを伺う。


 ぬらりひょんが雷の力を補充しようと錫杖を上げた時に、銀翔はナナコから渡されていた流星激風剣を振るった。

 銀翔の攻撃でぬらりひょんの手を離れた錫杖は、空に上がって行き場を失い地面に落ちた。


 カラーン……。

 錫杖の金属音が闇に紛れて反響しながら溶けていく。


 直後の雷鳴が空気を轟かせ震わす。


 ぬらりひょんは落ちた錫杖を拾いもしないで、不気味に笑い続けている。


「あの雷はなあ、藤島ナナコを狙うんだよ」

「なんじゃと?」

「銀翔、貴様の軍のかなめは神獣使いだ。重々知っているのさ。甘ちゃんな貴様が一番大事にしている者は何よりもあの女だろう?」


(狙いがナナコとな。……わしのせいなのじゃ)


 銀翔の心が止まるには充分だった。厚い氷を入れた冷や水を全身に浴びせられたようだった。

 ナナコを失うかもしれない凍りつきそうな恐怖感が銀翔を襲っていた。



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