第117話 ナナコと雪菜と流星激風剣

 ナナコはぬらりひょんとの決戦を控えて落ち着かないようだった。

 けれど、そばにいる薫と雪菜がまるで今まで何もなかったかのように、お喋りに興じているものだったからこれから戦が始まるなんて夢だったのではないかとすら思えた。


 中学校では数学に国語と社会や英語、理科と体育とたっぷりと勉強してきた。



 ナナコと薫に雪菜の三人で仲良く下校した。

 学校からの帰り道で雪菜がナナコの耳元にそっと「ありがとう」と言った。

 雪菜は恥ずかしいから薫には聞こえないように。

「えっ? どうしたの?」

「銀翔を好きでいても良いかって聞いたらら、『良いよ、無理に抑え込まなくて良いんだよ』って言ってくれて嬉しかったよ。あとさ、薫くん前みたいに戻って良かった。やっぱりぬらりひょんの影響だったんだね。あの時は邪気を感じたもの。今はすごく清らかな神獣の妖気を感じる」

「うん、良かった」

「……でね、あのねナナコを振り回してごめん。私さ、おきつね銀翔より好きな人出来たんだ」

「えっ? 誰だれ?」

「まだ、内緒。戦いに勝ったら教えてあげる」


 照れたように話す雪菜の顔つきを見たら、どうやら遠慮して他に好きな人が出来たと嘘を言っているわけでもないようだった。

 ナナコはすごく嬉しかった。

 だんぜん雪菜の恋の応援をしたくなった。




 放課後一度家に帰ったら、大狸の空知葉の仲間がナナコと薫に化けて、家で身代わりをしてくれる手筈てはずになっている。


 二人は素早く狸たちと入れ替わって、藤島手芸店の裏手で待っていた雪菜と稲荷神社を走って目指した。


 少し進んだ田んぼの畦道あぜみちで迎えに来ていた朱雀の緋勇と青龍の龍太と合流した。

 二人は神獣に変化して、朱雀にはナナコが青龍には雪菜と薫が急いで乗った。

 人に見られないうちにあっという間に大空高くにぐいぐいと力強く駆け上がるように飛んで行く。


 夏の午後四時半は、まだまだ激しい太陽の光が焼きつけてくる。

 ナナコもみんなも溢れ出る汗を拭き取りながら、決戦場に向かう。


「そうだ、ナナコ!」


 雪菜は印を結ぶと空中から長いビロードの様な素材の袋を出してナナコに投げ寄越した。


「何これ?」

「うかのみたまの神様から預かったの。ナナコとおきつね銀翔にプレゼント」

「プレゼント?」


 朱雀になって飛ぶ緋勇に乗りながらナナコが器用に袋から取り出すと青く輝くすらりと細い剣が現れた。


「『流星激風剣りゅうせいげきふうけん』って、おきつね銀翔のかつての愛刀よ」

「ああ。威力が凄すぎて、銀翔自身の妖力も削ぎとっていく持ち主泣かせの剣だってヤツか」


 薫と雪菜が話すあいだ、ナナコは剣を握りしめながら、複雑な思いを抱いていた。この剣には何度も助けられたが、剣を振るうたびに銀翔は命を削っていく。

 強くなればなるほど、苦しみながら痛みに顔をしかめながら銀翔はこの剣を使い、戦っていた。

 そして私や仲間を守ってくれた。


「そう。だから、……銀翔の剣をうかのみたまの神様は取り上げたの」

「切り札にしなよ!」

 緋勇が前を見据えながら放った『切り札』という言葉はナナコに刺さっていた。

「……そうね。銀翔には使うのはひと振りだけ。どうしてもって時だけにしてもらおう」


 ナナコは『流星激風剣りゅうせいげきふうけん』を大事に胸に抱えながら、緋勇の首周りにぎゅっと抱きついて振り落とされないように掴まってた。



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