第113話 薫の決心
薫は違和感なく、神獣玄武の自分も受け入れた。
拒絶感はほとんどなかった。
また玄武としての使命を選んだ理由を分かっていたからだ。
薫は以前のような明るい笑みをナナコに見せました。何も知らなかった、ただの幼馴染みのほんの少し前の時のように。
藤島ナナコと佐藤薫と言う普通の人間として過ごしてた時と変わらない態度でいよう。薫はそうしたかった。
「しゃあねえな。ナナコの頼みとあっちゃ断れないよ」
「薫!」
ナナコが思わず薫の両手を取り握りしめると、彼の顔は熟れた林檎のように真っ赤になった。ナナコに握られた手が恥ずかしくて、ちょっと照れくさかった。
薫は名残惜しくはあったがナナコの手をそっと離して、一同を真剣な面持ちで見渡した。
その中から射抜くように薫は一人に眼光を向ける。
「銀翔――、だよな?」
「そうじゃ」
おきつね銀翔は力強い瞳で、薫を見ていた。挑まれて挑み返す。二人の視線はバチバチと火花を起こしそうな迫力でぶつかる。
「俺はお前の手下じゃねえからな。うかのみたまの神には忠誠を誓う。ナナコは守る。だが俺は昔っからお前が気に食わないし、ナナコとの仲を良しとはしていない」
「認めないと言うことかの?」
銀翔のこめかみ辺りに青筋がたったのをナナコは見逃さなかった。
「認めるわけないだろうが。俺もナナコが好きなんだから」
薫がくってかかるのを銀翔は鼻先で笑った。余裕はあったが、ナナコのことを持ち出されては銀翔だって怒りの沸点が低くなる。
「ナナコを渡す気などない。なぜお主などの許しを乞う必要があるのじゃ?」
わしに必要なのはナナコとの間に通わす想いだけ、銀翔の強い気持が伝わってくる。
一方、薫からはナナコの一番近い存在でありたい、隣りにいた時の関係を取り戻したいと願う気持ちを、その場にいる者の誰もが感じてる。
一触即発。
険悪なムードの銀翔と薫に、ナナコたちはオロオロしていた。
困り顔のナナコを尻目に「ふふっ」と笑みを浮かべ楽しんでいるうかのみたまの神様を除いては。
「何やってんだよ、こんな時に」
空から不機嫌そうな声が降ってきました。全員が見上げた先には、数十名の天狗たちと、彼らが空を飛びながら運ぶカゴ。
中から、大妖怪オロチと横には少女の姿があった。
「おーい! みんな〜! あたし、白虎のスズネだよぉ。仲間に入ぃーれぇーてぇー♪」
少女は人懐っこい笑顔で手を振り続けている。
楽しそうな明るい鈴の音の様な声が境内の場の空気を変えた。
大妖怪オロチが、四人目の神獣白虎のスズネを連れてようやく天狗の里から帰還した。
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