第68話 雪女とおきつね銀翔

 ぬらりひょんはニタリッと不敵に笑っていた。

 さも楽しげで可笑しそうに。

 禍々しい妖気がぬらりひょんの周りでくるんくるんと渦巻いている。

 銀翔の鞭に両手を縛られ動きが取れないながらも、余裕の表情を崩さない。――その醸し出す気配は不気味なほどだ。ぬらりひょんは自信に溢れ、さらに妖力を増していく。

 異空間の空気が呼応するように揺れる。

 長い廊下の偽りの窓がびしんびしんと響いて割れそうだ。


 銀翔は全身に力を込め、雨を降らせると落ちた雨水を弓矢に変形させて、ぬらりひょんにいっせいに放った。


「ぬらりひょん様っ!」

 空中に穴が開いてカラス天狗の女が出て来るとぬらりひょんの前に立つ。

 カラス天狗が手に持つ葉の形の団扇うちわを槍に変えて、両手で回転させた。

 銀翔の水の矢をはねのけて、そのまま銀翔の鞭をぶった斬った。

 ぬらりひょんの体が自由になる。

葉姫はき。よくやった」

 ぬらりひょんが賛辞をカラス天狗の葉姫はきにかけると、次にぬらりひょんの横の空中に開いた穴からかまいたちが一人出て来た。


「お主、先日のかまいたちか? オロチにやられたはずであろう」

 銀翔が鞭をブンッと振り上げて床にひと打ちすると、鞭はたちまち元通りになった。

 目の前のかまいたちはオロチが倒した者と瓜二つだったが、大鎌の長さと刃のまがり具合が少し違って銀翔には見えていた。

「あれは俺の兄だ。兄じゃを殺された恨みをはらす為に俺はここに来たのだ! 銀翔、貴様をなぶり苦しめあの世に送ってやる」

 かまいたちが銀翔に大鎌を振り上げながら向かってきた。


 ビュウゥオォッ……ンッ。

 その時、かまいたちに猛吹雪が襲う。


 雪女の雪菜が銀翔の援護に来て雪を降らし続けながら、横に並んだ。


「さあ。どうやってあいつらをやっつけてやろうかしら? 銀翔さま」

「さてどうしたものかの? 依り代の、ただの人間である薫を不用意に傷つけるわけにはいかんしのう……」


 そう言いながら、頭に凛とした閃光が冴えた。おきつね銀翔には秘策が浮かびつつあったのだった。

 

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