第50話 ナナコとおきつね銀翔と松姫の記憶

 ナナコと銀翔とオロチは厳重に結界の張られたおきつね銀翔の館の銀翔の部屋に戻って来ていた。


「銀翔、薫が! 薫が」

 ナナコが泣きながら銀翔にすがりつくと銀翔はナナコを優しく抱きとめて背中をさすってやった。


 オロチはそんな二人の様子を見ておきつね銀翔が自分のためにくれた部屋に戻った。


 銀翔はナナコを座らせて抱きながらふわふわとした尻尾でいつしかのようにナナコを包んだ。

 ナナコは銀翔の温もりと太陽に干したばかりの布団のような心地よさの尻尾にいだかれて落ち着きをゆっくりと取り戻していた。


「松姫と呼ぶのが良いのかの?」

「銀翔。ナナコで良いよ」

「そうか。こんな状況下で不謹慎と叱られそうじゃが…そなたに口づけても良いか?」

 おきつね銀翔はナナコを愛おしげに見つめていました。

 ナナコはまだ松姫としての記憶は曖昧な部分や覚醒途中で神獣使いの力が自分のなかに籠もっている感覚がありました。


 ただ。

 銀翔のことは私も愛おしい。


「銀翔。好き」

 銀翔はナナコの告白にぎゅうっと胸が締めつけられて。

 震える両手でナナコの両頬を包み込みました。

 そしてナナコの唇に自分の唇を重ねました。

 互いの存在を確かめるかのように。

 柔らかい唇の感触は時を経ても松姫がナナコに生まれ変わっても変わらなかった。

 馴染むように甦る。

 互いを愛した記憶が。

 今でも互いを愛する記憶。

 これからも決して変わらない。


 パアッンとナナコのなかで何かが弾けた感覚がありました。


 神獣使いの力がジワっと溢れいでてくる感覚がナナコにあります。

 力が満ちてきます。


「銀翔ぉ。会いたかったよぉ」

 ナナコのなかの松姫は泣いていました。

「松姫。松姫ワシもだ。そなたに会いたかった。そなたに恋焦がれておった。何年も何年も途方もない月日だったぞ?」

 フフッとナナコは少しだけ笑いました。

「んっ?」

 銀翔が怪訝けげんそうにナナコを見つめます。

「松姫って言った」

「ああ。そうじゃった。そのうち言い慣れる」 

 銀翔はナナコをさらに抱きしめる。

「薫を救う方法を練らねばならぬの? ナナコ」

 銀翔が固い決意の顔でナナコに問うとナナコはしっかりとした強い瞳で銀翔に誓いました。


「私は戦うよ。銀翔」

「ワシはそなたを護る。松姫をもう二度と失わぬ」

 フフッとナナコは笑いました。

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