第51話 ナナコとおきつね銀翔の館に住む者たち

 銀翔の部屋で寄り添う銀翔とナナコの元に誰かがやって来た。

 その気配は銀翔のよく知る者。

「銀翔様。バンショウでございます」

 襖の外で控えめな声がした。

 うさぎのバンショウが片膝をつき向こう側にいる。

「構わん。入るがよい」

「いえ。ここにて」

 バンショウには部屋に入らずにことをつづける。

「気をまわす必要はない」

 銀翔はナナコを抱く手をそっと離して立ち上がった。

 衣ずれの音が遠くからしている。

「客人か?」

「いえ。今は銀翔様はその」

「はっきりと申せ」

 ナナコも立ち上がりナナコは静かに襖を開け放った。

 そこには屋敷中のおきつね銀翔の側人とうかのみたまの神様のカフェで働く神の眷属のものたちが何十体もいた。

「おかえりなさいませ。松姫様」

 うさぎや犬や小鬼たちが廊下で並び片膝を付きズラリと並んでいた。

「ああっ。…ありがとう」

 ナナコは松姫の記憶を手繰たぐり寄せる。

 かつての銀翔の側人そばにんたちだった。

 みんなかわりはない。

「みんな元気で良かった」

 ナナコとしてすでに再会を果たした者もいたがいま一度会って不思議と懐かしくて親しい気分だ。

 松姫の記憶や気持ちがナナコに少しずつゆっくりと同化してくる。

 水に溶ける砂糖のように。


 いっせいに側人と眷属の者たちはナナコに寄った。


「松姫さまあ」

「お会いしたかったです〜」

「アイタカッタ」

「撫で撫でしてくださあい」

 ナナコに甘えてくる。

 ウルウルとした瞳でナナコに構って欲しいとたくさんの動物の姿や小鬼たちがアピールしている。


 おきつね銀翔はその光景を見てわずかばかり面を食らったが、微笑えましい気持ちになり目を細めた。


(みな松姫を慕っておったからのう)


 銀翔はナナコが一匹一匹ずつ撫でたりしてやる姿を見ながら気持ちを改める。


 ワシだけではなく皆の大好きな松姫を必ず守りぬいてみせると。

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