第48話 風森町の加護結界を破りし者

 薫の体に妖怪大王ぬらりひょんの姿がゆらりと重なり合うように見える。


 とてつもなく妖艶な男だった。

 人間が持つには逸した妖力と美しさのバランスは、ただの人間の薫の持ち合わせていた力と放ち続けた生き生きとした強い個性とはかけ離れていた。

 整ったハッとするほどの美を称えた顔、形の良い薄い唇の端を上げ、ぬらりひょんは左手には錫杖しゃくじょうのような物を持ち、右手には巻き物を持っていた。

 一見いっけんして銀翔は巻き物は妖術書であると見抜いていた。

 巻物自体が妖術を次々と繰り出す武器となる。


 薫の容姿とは似ても似つかなかった。


「薫」

 ごめんね。

 せっかく好きだって言ってくれたのに。


「ぬらりひょんは妖怪を束ねている」

「もしかして援護がくる?」


「ハアハア……。可能性は高えなあ」

 オロチが全速力で銀翔とナナコの元へ戻って来たのです。

 息が少し上がっている。

「二人とも、かまいたちはやっつけたぜ」

「ああ。やりおるな、オロチ」

 オロチは銀翔に褒められて、鼻の脇をこすりへへっと得意げに笑った。


 砂埃すなぼこりが舞い上がる。

 田んぼの水が空中に上がっていき大きな渦が出来ていく。

 

 ぬらりひょんが呪文を唱えていた。


 パリパリパリパリ…。

 バリッン。

 薄く張られた硝子ガラスが割れたような音が、風森町の隅々に聞こえ渡った。

 銀翔とうかのみたまの神様が町を守るよう施してきた永年の加護結界が、ぬらりひょんの妖力によって破れたのを三人はそこで知った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る