第38話 狐火(きつねび)

 銀翔は風森町の佐藤八百屋店の近くの空中に浮かびながら、右手のひらを静かに天にかかげました。


 ボウッと炎が手のひらから燃え上がり急にあたりは銀翔の力で暗くなってゆきます。

 銀翔はこのあたりいったいの時を止めた。


「おいっ! 銀翔。お前っ、何をしている!?」


 佐藤八百屋店の店先に大妖怪オロチが人の姿で立っていた。

 オロチは憤慨ふんがいしておりますが銀翔は構わず手のひらの炎を玉のように変えて握りしめていった。


「お前ほどの強い妖力の狐火をまっとうな人間に当てようなんざ、どうかしてるぜ。銀翔! ナナコを好きになってしまって嫉妬に狂ったか?」

「ふっ」


 おきつね銀翔は皮肉げに笑った。


「どうかしているのはお前のほうだよオロチ」

「なに?」

「目が曇っておるの。……狐火伝昇華きつねびでんしょうか


 おきつね銀翔様がそう唱えると、その両手中に握った狐火の玉の他に五つの狐火の玉が銀翔様の周りに浮かび上がり、薫殿に向けて放つ。


「血迷ったかぁー! 銀翔ー!」


 オロチが薫殿を助けるべく狐火に向かい跳びあがる。

 オロチは両腕を伸ばし、おのれの牙で出来た妖星剣牙涼刀ようせいけんがりょうとうを二本腕のあたりの空間から取り出して狐火を次々と斬りつけて払いのけてから銀翔に襲いかかる。


「やめろ、オロチ。ええいっ、邪魔をするでない」


 おきつね銀翔様は静かに怒りを見せ始める。

 たとえお前でも容赦はしないと薫を睨み続けていた。

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