第39話 銀翔の見えたもの

 狐火を今度は剣の形に銀翔は変える。


「よく目を凝らせ。オロチぃっ」


 銀翔はオロチの牙涼刀がりょうとうを狐火の剣で受け止めて、次はオロチに仕掛ける。


「そんな弱い剣じゃなくっていつものはどうしたっ? 銀翔」

「あれはもうない」


 おきつね銀翔の胸に苦いものが広がっていきました。

 愛用の剣はあの時にうかのみたまの神さまに取り上げられてしまったまま。


「銀翔、まあだ取り返してねえのかよっ」


 オロチも苦々しく心に広がっていくものを感じていた。


「俺たちは力が及ばず。松姫を失った」


 オロチはそう言いながら牙涼刀を銀翔の右に左に斬りつけてきながら泣きそうになるのをこらえていた。


「そうだ。ワシたちは松姫を見殺しにしたようなものっ!」


 銀翔は狐火を次々と作りだして至近距離のオロチに連続で当てにいく。


 視界の片隅に佐藤薫を見た銀翔は少し焦りながら。


「――いかんな。オロチっ! 後ろを見ろ」


 銀翔にそう言われてオロチはちらりと薫の姿を見た。


「はあ? どういうことだ? 銀翔!」


 オロチは次々と弾丸のように迫る銀翔の狐火伝昇華の狐火を避けたり牙涼刀で割ったりしながら銀翔に問い掛ける。


「まあそういうことだ。オロチお前ほどの大妖怪に気づかれることなくワシの“時とめ”にも逆らえる。そんなあやかしはなかなかいないなあ」


 銀翔は皮肉をたっぷりにオロチにぶつけた。


 オロチは銀翔に攻撃する手を止めた。


 時が止まっているのにナナコの幼馴染みの佐藤薫の姿は八百屋の二階にもうなかった。


「どういうことだ。銀翔?」

「松姫の仇を討てるということだ」

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