第18話 おきつね銀翔と妖怪オロチ

「よお! うさぎ。久しぶりだな」

「ややっ、お主はオロチ殿かっ!」


 うさぎのバンショウは銀翔に申しつけられた八百屋の佐藤薫の妹の葵の様子を見に行く途中でした。


「なあ、稲荷神社の時を止めてよぉ。きつねは優雅に高み見物か?」


 オロチは人間に化けて人間界を闊歩かっぽしていたのです。


「あなたの仕業ですか。オロチ殿」

「ああんっ? いったいなんのことだ? 妖気が高まったことか? それともどこかのあやかしが町にするっと紛れとけこみ、人間世界に何食わぬ顔で入り込んでそうなことか?」


 オロチはスーツを着こなして人間界を自由に歩き回ります。

 慌ててバンショウはオロチのあとを追います。

 バンショウは高校生に化けて来たので人間たちには違和感なく映っていることでしょう。


「分かっていましょう? わたしが来たのは八百屋の葵様のことです」

「ケッ。ちょっといたずらしただけだ。妖気で体力の気をいじったがな」


 面倒だなと言わんばかりに振り向いたオロチは眉を上げました。


「すぐ治られますか?」


 うさぎのバンショウは恐る恐る聞いたのです。

 相手は大妖怪の大蛇おおへびオロチです。

 その気になればうさぎのバンショウなんてでっかい一口でガバッと丸呑みにされてしまいます。


「俺が八百屋から離れたからしばらくすれば治るだろうよ。バンショウよぉ、ゴチャゴチャ言うとお前をかじるぞ」

「私をかじればご主人が許しません」

「そうだろうよなあ。お前はきつねの大事なそば人だからな。それよりきつねは、……銀翔は元気か?」


 オロチ殿の表情はふっとゆるみました。

 このオロチ殿とはいろいろありましたが、おきつね銀翔様と大蛇オロチ殿は旧知の仲です。


 オロチ殿は銀翔様に一目いちもくをおいております。

 また、銀翔様の方も然り、でございます。


「はあ、銀翔様ですか? 妖気はすこぶるたかまっておられお元気です」

「そうか。ならば、やつの場所トコまで案内してもらおう。妖怪の俺は、銀翔の加護を受けているお前たち妖狐屋敷のあやかしの案内なしでは、アチラの領域世界に辿り着けんからなあ。狭間の通路で迷っちまう」


 オロチ殿は僅かばかり照れくさそうに表情を崩しておられました。

 じっと見つめて真意を窺おうとすると、わたくしはオロチ殿に背中を叩かれました……。


「い、痛いです! まったく馬鹿力なんですからっ。やめてくださいまし」

「わっはっはっはっ」


 オロチ殿は、豪快に笑っていました。


 

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