第11話 あれはゆめ?

 ナナコは目が覚めました。


 カランカラン。

 手芸店のドアベルが鳴りながらドアが開かれます。

(店番をしているうちに寝てしまったの?)

 ナナコは慌ててお客様を出迎えます。


「いらっしゃいませ」

「よう! フェルトが欲しいんだけど」


 ひょろりと背の高い男の子が店に入って来ました。

 ナナコと同じ中学校の制服を着ています。


「なんだ。かおるか」


 男の子はナナコの幼馴染みで八百屋の息子の佐藤薫でした。


「何だってなんだよ。お前寝てたろ? 顔に寝跡ついてんぞ」

「やだ、うそっ。恥ずかしい」

「嘘じゃない。別に恥ずかしくはないよ。……ナナコは寝跡があったって可愛いし」

「へっ? 薫、何か言った? 声がちっちゃくてよく聞こえなかった」

「何でもねぇよ」


 薫はそう広くはない店内をウロチョロしています。


「ああ。夢だったんだな」とナナコは思いました。

 お狐銀翔君も龍神の青龍君も。

 兎の爺やのお迎えも。

 神獣使いの事も。

 やけに生々しい感覚があったけど。

 感触とかリアルだったけれど絵本みたいな不思議が溢れている夢だったんだ。


「お前! パジャマを店のこんなとこ置いとくなよな」 

「バジャマ?」


 薫は店のショーウインドウの下に畳まれているバジャマを投げて来た。

(あれ? 銀翔君に着替えで貸してあげたワンピースだ)

「小六の家庭科の時に作ったやつだろ?」

「何で知ってんのよ。クラス違かったのに」

「母ちゃんがお前の母ちゃんにすすめられて買ったんだよ。俺のも同じ生地」

「じゃあお揃いなわけ? バジャマ」

「俺のはズボンがついている」


 ドヤ顔の薫を見てナナコは笑って、それで日常に引き戻された。


「今日は野球部? 雨降ってたから大変じゃなかった?」

「雨? 何言ってんのお前。今日はカンカン照りだよ」

「だって夕立ちが」

「夕立ち? なに寝ぼけてんだよ。それに今日はテスト前期間で部活無かったじゃんか」

「夏休みなのに」

「おいおい! 夏休みはまだ先だろ? まだ寝ぼけてんの? しっかりしろ〜」

 そういって薫はナナコの頭をぐちゃぐちゃっと撫で回してからかいました。


(嘘でしょ?)


 ぜーんぶ夢だった?

 どこからが夢なの?

 ナナコはしばらくボーッとしていました。

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