第12話 あれはゆめ?

 ナナコは目が覚めました。


 カランカラン。

 手芸店のドアベルが鳴りながらドアが開かれます。


 店番をしているうちに寝てしまったようでした。

 ナナコは慌ててお客様を出迎えます。


「いらっしゃいませ」

「よう! フェルトが欲しいんだけど」


 ひょろりと背の高い男の子が店に入って来ました。

 ナナコと同じ中学校の制服を着ています。


「なんだ。かおるか」


 男の子はナナコの幼馴染みで八百屋の息子の佐藤薫でした。


「なんだってなんだよ。お前寝てたろ? 顔に寝あとついてんぞ」

「やだ、うそっ。恥ずかしい」

「嘘じゃない。別に、恥ずかしくはないよ。……ナナコは寝あとがあったって可愛いし」

「へっ? 薫、なんか言った? 声がちっちゃくてよく聞こえなかった」

「なんでもねぇよ」


 薫はそう広くはない店内をウロチョロしています。


「ああ。夢だったんだな」とナナコは思いました。

 おきつね銀翔くんも龍神の青龍くんも。

 うさぎのお迎えも。

 神獣使いのことも。

 やけに生々しい感覚があったけど。

 感触とかリアルだったけど、絵本みたいな不思議があふれてる夢だったんだ。



「お前! パジャマを店のこんなとこ置いとくなよな」 

「バジャマ?」

 薫は店のショーウインドウの下に畳まれているバジャマを投げて来た。

(あれ? 銀翔くんに着替えで貸してあげたワンピースだ)

「小6の家庭科の時に作ったやつだろ?」

「なんで知ってんのよ。クラスちがかったのに」

「母ちゃんがお前の母ちゃんにすすめられて買ったんだよ。俺のも同じ生地」

「じゃあお揃いなわけ? バジャマ」

「俺のはズボンがついている」

 ドヤ顔の薫を見てナナコはあきれるとともに現実に引き戻された気がした。

「今日は野球部? 雨降ってたから大変じゃなかった?」

「雨? 何言ってんのお前。今日はカンカン照りだよ」

「だって夕立ちが」

「夕立ち? なに寝ぼけてんだよ。それに今日はテスト前期間で部活なかったじゃんか」

「夏休みなのに」

「おいおい! 夏休みはまだ先だろ? まだ寝ぼけてんの? しっかりしろ〜」

 そういって薫はナナコの頭をぐちゃぐちゃっとなで回してからかいました。


(うそでしょ?)

 ぜんぶ夢だったのでしょうか?

 どこからが夢だったのでしょうか?

 ナナコはしばらくボーッとしておりました。

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