第9話 おきつね様のご用事

 ナナコが、ガスコンロの前で銀鱈と鯵のみりん干しを焼いていると、青龍くんがふんふん鼻を鳴らしながらナナコの足元にやって来ました。

 青龍くんはナナコに体をすりすりとつけておねだりしているようでした。


「かっ、可愛い……、青龍くん……。ちょっと待っててね。ねえ、そういや青龍くんも銀翔くんも食べちゃいけないものとかあるのかな?」

「? ……さあ、知らんのぅ。たぶんなんでも大丈夫ではないのか? わしや神獣は人間よりは体は丈夫に出来ておると思うがの」


 銀翔くんの見かけは小学生ぐらいの男の子なので、ナナコはそれ以上追求する気になれませんでした。


 ナナコは人間だから、人間じゃない神様たちの何がだめとか神様の世界の常識とか分からなかったのです。

 けれど、おきつね様の銀翔くん自身にも分からないようでした。


「どうして風森町に来たの? どうして傷を負って倒れていたの?」


 銀翔くんは天井を見上げておりました。

 なにかを思い出すように。

「風森町にはずうっとおる。ナナコお主の御先祖もすべて知っているぞ」

「えっ。そんな昔から?」

「流れる時が違うのではないのかの? わしには長い年月としつきには思えんのだからな。わしはうかのみたまの神様のご用事でお主に会いに来たのだ」

「わ、私に?」

 ジュワッと網の上の魚から音がしました。

 みりん干しがそろそろ焼き上がります。

 いつのまにか外の雨がやんでいました。

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