第6話 景色がセピア色に染まりて

「君のその耳は本物?」

「もちろん、本物じゃ」


 銀翔は念押しするように、これが動かぬ証拠じゃ本物じゃとばかりに耳を大きくピクピク動かしています。


「へぇ〜、本物っぽい」

「ははは。っぽいか、そうか。では、青龍くんをそちの手に」


 ナナコは銀翔の手から大切に、龍神の青龍くんを受け取りました。

 まずぬるくしたお湯で乾きかけた血とひどい泥は落としました。

 優しくタオルで拭いてやり、軟膏を塗りました。


「このお薬、人間用だけど大丈夫かな?」

「大丈夫。問題ないと思うのじゃ」


「ピィッ」と青龍くんは一つ鳴きました。

 クッションの上に寝かせてやると横たわったまま、じいっとしております。


「これだけで大丈夫かな?」

「うんうん大丈夫じゃ。ありがとう、ナナコ。さて問題は腹がすいておることのほうじゃからの」

「この子、お腹すいてるの?」


 龍はなにを食べるんだろう?


「お粥で良いかな?」

「ほう。ナナコがこさえてくれるのかの?」


 銀翔は目を細めて喜んだ表情を浮かべました。


「うん。ちょっと待っててね」


 二階のキッチンに行っても世界がすべてセピア色でした。

 なにもかも。

 不思議です。

 そういえばナナコが触れると色が戻ります。

 いつもの馴染みの色になるのです。

 銀翔くんと青龍くんが触れてもまた色づくのです。


「少し向こうの世界は時が止まっておる」

「えっ?」

 振り返ると銀翔が立っておりました。

「お主のほかは皆違う場所に行っているようなものかの。いや、ナナコがこちらに来ているというか」

「私にはよく分からないなあ」

「今いるここは風森町だがな、いつもとちぃっと違う」


 だから目に映る、あたりの色がこんな感じなんだとナナコは思いました。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る