第5話 銀翔くんはお狐様

「あたたた。まさかあんな仕掛けがあったとは不覚であった」

「大丈夫っ!?」


 男の子はナナコが運び寝かしたソファからすっと立ち上がり気品ある振る舞いでナナコにお辞儀をしました。


「着替えをしていただいたようで礼を申す。すまぬの。ありがたきことじゃ」

「ははは。君にはブカブカだけどね」

「藤島ナナコ」

「えっ? あっ、はい?」


(なんで私の名前を知ってるの? 近所の子かなぁ? こんな子いたかな)

 ぽかーんとした表情のままナナコは固まっています。

 ナナコは男の子に聞きたい事はたくさんあったけれど驚きすぎて聞けませんでした。


「龍神の青龍くんの手当も頼めるか?」

「龍神の青龍くん?」


 ナナコは目を見開きます。

(ほんと、なんで私の名前知ってるのかしら? ……しかも呼び捨てだし。あとこの子の動物みたいな耳は一体なんだろ!? それに龍神ってなぁに? どうゆうこと)

 ナナコは男の子にたくさん質問がしたくてたまりませんでした。


「ワシの手を開くでな、ちと眩しいぞ。目を気をつけてな。先程傷を負った故、卵になっておるが」


 男の子はそう言うとずっと握っていた左手を開けました。

 ナナコは男の子の手に釘付けです。

 ピカピカーッと光ってあまりの明るさにナナコは堪らず目を閉じました。

 しばらく目を瞑ったままでしたが男の子が「もう良いぞ」と言ったのでナナコは恐る恐る目を開けてみます。

 男の子の左手には卵がのっていました。


「卵?」

「そうじゃ、卵じゃ」


 パリパリ……、バリッバリッバリッ!

 卵が割れました。


「ピィ」


 弱々しげにその小さな不思議な生き物は男の子の手の平で鳴きました。


「かっ、可哀想……」

「手当てを頼む」

「これって龍かな? ねえ、動物病院に行こうよ」

「だめじゃ」

「だめじゃないよ。君もだよ。どこか痛むでしょう? 擦り傷だけじゃないかもしれない」

「だめじゃ」

「どうして?」

「それはだめなのじゃ。ナナコ以外には見られてはならぬのじゃ」

「私以外に? なんで……」


 男の子は厳しい表情でそれは譲れないという雰囲気でした。


「すまぬのう。ちとワシの言い方がキツかったか? ナナコはびっくりしたか?」


 ナナコはそもそも男の子に出逢ってからびっくり続きで頭が追いついてきません。

(変わった話し方。雅っていうか貫禄風格があるというか)


「藤島ナナコ。よく聞くのじゃ。ワシは銀翔ぎんしょうと申す稲荷神社の狐。宇迦之御魂神様の使いじゃ。人はワシをお狐様と呼ぶのう」

「おっ、お狐様!?」


 ナナコは腰を抜かしました。

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