第6話 銀翔くんはおきつね様

「あたたた。まさかあんな仕掛けがあったとは不覚であった」

「大丈夫っ!?」


 男の子はナナコが運び寝かしたソファからすっと立ちあがり、気品ある振る舞いでナナコにお辞儀をしました。


「着替えをしていただいたようで礼を申す。すまぬの。ありがたきことじゃ」

「ははは。君にはブカブカだけどね」

「藤島ナナコ」

「えっ? あっ、はい?」


(なんで私の名前を知ってるの? 近所の子かなぁ? 知り合いにこんな子いたかな)

 ぽかーんとした表情のまま、ナナコは固まっています。

 ナナコは男の子に聞きたいことはたくさんあったが驚くことがありすぎて聞けませんでした。


「龍神の青龍くんの手当も頼めるか?」

「龍神の青龍くん?」


 ナナコは驚いて目を見開きます。

(ほんと、なんで私の名前知ってるのかしら? ……しかも呼び捨てだし。あとこの子の頭の猫とか犬とか動物みたいな耳はいったいなんだろ!? あーもう、それに龍神ってなぁに? どうゆうこと!?)

 ナナコは男の子にたくさん質問がしたくてたまりませんでした。


「ワシの手を開くでな。ちと眩しいぞ。目を気をつけてな。さきほど傷を負った故、卵になっておるが」


 男の子はそう言うとずっと握っていた左手を開けました。

 ナナコは男の子の手に釘付けです。

 ピカピカーッと光って、あまりの明るさにナナコはたまらず目を閉じました。

 しばらく目を瞑ったままでしたが、男の子が「もう良いぞ」と言ったので、ナナコは恐る恐る目を開けてみます。

 男の子の左手には卵がのっていました。


「卵?」

「そうじゃ、卵じゃ」


 パリパリ…。

 バリッバリッバリッ。

 卵が割れました。


「ピィ」


 弱々しげにその小さな不思議な生き物は男の子の手のひらで鳴きました。


「かっ、かわいそう」

「手当てを頼む」

「これって龍かな? ねえ、動物病院に行こうよ」

「だめじゃ」

「だめじゃないよ。君もだよ。どこか痛むでしょう? 擦り傷だけじゃないかもしれない」

「だめじゃ」

「どうして?」

「それはだめなのじゃ。ナナコ以外には見られてはならぬのじゃ」

「私以外に? なんで……」


 男の子は厳しい表情でそれは譲れないという雰囲気でした。


「すまぬのう。ちとワシの言い方が感じが悪かったか? ナナコはびっくりしたか?」


 ナナコはそもそも男の子に出逢ってからびっくり続きで、頭が追いついてきません。

(変わった話し方だなぁ。雅っていうか貫禄風格があるというか)


「藤島ナナコ。よく聞くのじゃ。ワシは銀翔ぎんしょうと申す稲荷神社のきつね。うかのみたまの神様の使いじゃ。人はワシをおきつね様と呼ぶのう」

「おっおっ……、おきつね様〜!?」


 ナナコは腰を抜かしました。

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