第7話 折苦中学校

 9月1日。二葉の転校初日。あのあと二葉の怪我が完全に治るのを待ってから制服を作ったり、言動を男の子に寄せたりしていたら7月になってしまった。どうせならということで夏休みの間ずっと遅れた分の勉強をしてから学校に行くこととなったのである。


 ー折苦中学校1年2組教室ー

「今日は転校生を紹介します。どうぞ入ってきて。」

担任にそう言われ廊下にいた二葉は教室に入った。中に入ると先生に挨拶するように促された。

「若林二葉です。よろしくお願いします。」

二葉はそれだけ言うと頭を下げた。

「じゃあ若林くんの席は一番後ろの端にある出っぱってるところね。その前の席の今野こんのさんは学級委員だからわからないことは彼女に聞くといいわ。」

担任に言われ二葉は頷いた。そして席についた。

朝の会が終わり2学期の始業式にみんなが向かい始めたとき、前に座っていた2人が二葉に話しかけた。

「若林くんだよね。私、さっき先生も言ってたけど、学級委員やってる今野風香こんのふうかです。よろしくね。」

「俺、風香の幼なじみの松井翔太まついしょうた。よろしく!」

二葉は頭を下げながらよろしくお願いします。と言った。


 ー放課後ー

「若林くん!家どっち?」

翔太に校門でそう聞かれた。二葉は右側を指差した。

「あぁ。俺たちと逆か。まぁ少し遠回りだけど一緒に帰ろうぜ!」

二葉は頷いた。

二葉は翔太と風香と3人で歩いていた。

「若林くんって名前二葉だよね?女の子みたいだね。あ、もしかしてお姉ちゃんが一葉かずはとかだったりする?」

翔太が聞いた。

「いとこのお姉ちゃんが一葉。」

二葉が答えると風香が

「え、じゃあもしかしてそのいとこの妹って。」

と聞いた。

三葉みつは。」

二葉は答えた。

「その妹はぁ~?」

翔太が少しふざけて聞いた。

「いない。」

二葉はぶっきらぼうにそう言った。

 水野家の縛りがあった頃は無理に明るくしていた二葉だが、縛りがなくなってから二葉は気がついた。実は自分は明るくなんかなくてむしろすごく暗い。必要最低限しか言葉を発することができない。感情を表に出せないし、そもそも感情がわいてこない。

 実は一葉と三葉には弟がいてその弟の誕生日が4月だったこともあり、四月よづきという。だが、ここで四月の話をするとなぜ四葉じゃないのかという話から自分が女だとばれてしまうと思った二葉は四月のことは黙っておくことにした。

「さっき反対って言ってたけど今野さんと松井くんの家はどこなの?」

二葉が聞くと翔太が答えた。

「俺の家はあっちの方。風香の家は俺の家の隣なんだ。あとさ、松井くんはやめてよ。言われなれてないからすごい違和感ある。翔太でいいよ!」

「私も風香でいいよ!」

翔太に続いて風香も笑って言った。

「うん。じゃあ俺も二葉で。」

二葉もそう言うと2人は大きく頷いた。

「あ、そうだ!このあと暇だったら遊ぼうぜ!」

翔太が言った。

「いいね、それ!」

「俺、親に聞かないと…」

風香と二葉がそれぞれそう答えた。だからこのまま3人で一回二葉の家に行くことになった。


 ピーンポーン

『はーい!』

ガチャッ

「あら、お帰りなさい。もうお友達できたの?どうしたの?」

希美子が玄関を開けてそう言った。

「あの。今から遊びに行ってきてもいいですか?」

「もちろん!どこに行くの?」

希美子に言われ二葉たち3人は顔を見合せた。

「もしかして決まってない?行くとこないならうちでもいいよ。」

希美子が笑って言った。すると風香と翔太は笑顔になって言った。

「「いいんですか!?」」

希美子は頷いてからこう言った。

「じゃあ、今から部屋を少し片付けるからその間に2人は家に帰って着替えとかしてくればいいんじゃないかな。そうすれば時間的にもちょうどいいと思うな。」

風香と翔太は急いで家に帰った。

「二葉くん、部屋片付けて、着替えて待ってよ!」

二葉は頷いて家の中に入った。

ー数十分後ー

風香と翔太が家に来た。

「「お邪魔しまーす!」」

二葉は2人を2階の自分の部屋に連れてきた。

自分の部屋といってもお下がりのベッドと机とタンスと本棚がある程度。

「本当に何もないんだけど。」

二葉が言うと風香と翔太が部屋を見渡した。

「うん、なんか、本当に何もないね。」

風香がそう言って笑った。

そのまま3人でトランプをしたり、風香と翔太から学校の話を聞いたりして過ごした。

「お邪魔しました。」

「じゃあまた明日なー」

夕方になると風香と翔太はそう言って帰っていった。


 ー夜ー

「ただいまー」

佐藤先生が家に帰ってきた。

そのとき丁度夕飯の準備をしてる最中だった希美子が言った。

「伸一さん、今からご飯だから着替えてきてください。一緒に食べましょ!」

(やっぱり仲の良い夫婦だな。この夫婦の2人の時間に私なんかが入っていいのかな。迷惑だよね。申し訳ないな。)

二葉はそんなことを思い、2人の会話を聞きながらお茶碗にご飯をよそっていた。

「ん?どうしたの、二葉くん?」

手を止め自分の方を見る二葉を疑問に思った希美子が聞いた。

「あ、いや、あの、仲が良いんだなって思って。すみません。」

二葉は頭を少し下げてからまたご飯をよそい始めた。

少ししてから着替えて戻ってきた佐藤先生に向かって希美子が駆け寄って満面の笑みで言った。

「ねぇねぇ聞いてください。さっき二葉くんが私たちのこと仲が良いって言ってくれたのよ。ふふ、普通に過ごしてるつもりなのに誉められるっていうのは嬉しいものね。」

「仲が良いか。全然普通だけどね。」

佐藤先生もそう言って笑った。

「二葉くんのお母さんとお父さんは仲良かったの?」

希美子は前の家族について触れない方がいいのかなと迷いつつも聞いた。

「うちは…。うちの両親は祖母の言いなりで結婚しました。だから二人の間に愛情は無かったと思います。父はいつも母に怯えて自分の部屋に閉じこもるか、リビングの隅っこにいました。両親が仲良くしてるところなんて見たことなくて。すみません。」

「二葉くんがあやまることは何一つないよ?それもひとつの家庭の形だ。これからこの三人での家庭の形も作っていこうね。」

佐藤先生は二葉の頭を撫でて言った。

二葉は静かに頷いた。

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