第6話 佐藤家
その日、二葉は佐藤先生と佐藤先生の家に来ていた。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい、若林二葉ちゃんね。はじめまして、
玄関に女の人が迎えに来てくれた。その人は佐藤先生の奥さんで、これからは二葉の母親がわりをしてくれる人だ。
「ささ、こちらへいらっしゃい」
二葉は希美子に連れられリビングに来た。
佐藤先生、希美子が並んで座り、向かいに二葉が座った。
「えっと、これからのことを話そうと思うんだけどいいかな?」
佐藤先生が聞いた。二葉と希美子は頷いた。
「まず二葉ちゃんはこれから、ここから近い折苦中学に男の子として転校する。で、僕と希美子が親のかわりになる。紛らわしいし、いろいろ聞かれたら嫌だろうから学校では僕たちも若林って名のることにする。ここまではこの前話したね。何か質問とか、不満なこととかある?」
「いえ、大丈夫です。」
二葉はそう言った。
「で、一応ここが二葉ちゃんの家になるから部屋を作ろうと思ってるんだけど、空き部屋があるからそこを二葉ちゃんの部屋にしようと思うんだ。見に行こっか!」
佐藤先生と希美子について二葉は2階行った。
「うーん、何もないなぁ。ベッドと机とタンスと本棚は最低でも欲しいよね。」
「そうね、私の実家に昔使ってたのがあるから持ってきてみる?」
佐藤先生と希美子は二葉の存在を忘れどんどん話を進めていった。
「あ、あの…私、どうせ病院生活になるので部屋はなくてもいいんですけど。」
「そんなこと言わないの。もしかしたら友達とかが遊びに来るかもしれないでしょ?そしたらちゃんとした部屋があったほうがいいでしょ。それに、帰れる場所っていうのは作っておいた方がいいわ。あとね、私たちがやりたいの。私たちには子供ができなくてね。だから二葉ちゃんが来てくれて本当に嬉しいの。私たちに親面させてくれる?」
希美子にそう言われて二葉は頷いた。
「よし、実家に連絡してみるね。」
希美子はそう言って実家に電話した。
『はい。』
「あ、もしもしお母さん?私、希美子です。」
『あら希美ちゃん、久しぶりね。どうしたの?』
希美子は電話で二葉の病気について話し、引き取ることになった経緯を話した。
『その子、親に捨てられてしまったの、可哀想に。あなた達が引き取ったということはつまりあなた達の子どもってことよね?』
希美子の母に聞かれ希美子は
「ええ、まぁそういうことになるわね。」
と答えると希美子の母、
『じゃあ私たちの孫ってことね。。例え血のつながりはなくてもその子は私たちの孫だわ。』
「そうね。あ、今日の本題はそれじゃなくて、その二葉ちゃんの部屋に使う家具とかをもらいたいなと思ってるんだけど、家にあるよね?いいかな?」
『もちろん!何がいるの?』
「ベッドと机とタンスと本棚は最低欲しいわね。」
『ちょっと待ってね。確認するから。』
咲恵子はそう言って、電話を保留にした。
『お待たせ。昔希美ちゃんが使ってたのがあるわ。それでよければ今度の日曜日から徐々にお父さんのトラックで持っていく?』
「あ、それでいいと思うわ。一応二葉ちゃんにも確かめるわね。」
希美子は二葉に昔自分が使っていたものでいいか聞いた。
「そんな、私は何でもいいので。」
二葉はそう答えた。
「じゃあお母さん、次の日曜日お願いね。」
『わかったわ。』
電話は切れた。
「二葉ちゃん、伸一さん。次の日曜日にお父さんたちがベッドとか持ってきてくれることになったわ。」
希美子は2人にそう報告した。
ー日曜日ー
ピーンポーン
「はーい、今行きまーす!」
ガチャ。希美子がドアを開けると咲恵子と希美子の父、
「いらっしゃい、お母さん、お父さん。トラックは?」
「近くのパーキングに停めてきたよ。運ぶには一回こっちに来た方がいいと思ってね。」
輝政が答えた。
「そうなの。じゃあお昼も近いし、先にご飯食べちゃう?お昼が終わってからベッドとか運び込みましょ!ささ、中に入って。」
咲恵子はリビングに入ってすぐに二葉に駆け寄った。
「若林二葉ちゃん?」
「はい。若林二葉です。よろしくお願いします。」
二葉がそう答えると咲恵子は二葉を抱き締めた。
「ありがとうね。本当にありがとう。大変な思いをしてきたのかもしれないけど、ここに来てくれてありがとう。」
二葉はなぜありがとうと言われたのかわからずきょとんとしていた。
咲恵子は希美子に目配せをした。希美子が頷くと咲恵子はこう言った。
「実はね希美子は25歳のときに子宮がんになってね。だから子供ができないの。でも子供が欲しくて、養子とかも考えたんだけどなかなか踏み出せなくてね。私たちも孫が欲しくないって訳じゃなかったからあなたが来てくれて本当に嬉しかった。ありがとう。」
「あの、引き取ってもらえなかったらひとりぼっちだったはずなので、ありがとうございました。」
二葉もそう言った。
その後、二葉の部屋にベッド等を運び入れた。
それが終わると折苦中学校への転入手続きの紙を希美子が書いた。
「そういえばお洋服とか髪型はどうするの?髪の毛は私が切るで良ければ全然やるけど。」
咲恵子が言った。
「そうね。髪の毛はお母さんに頼んだ方が良いかもね。えっとね、二葉ちゃん、私のお母さんは元美容師なの。今の二葉ちゃんは髪の毛長いでしょ。だから男の子の長さに切った方が良いと思うの。どうかな?」
「はい。お願いします。」
希美子にそう言われ二葉は咲恵子に頭を下げてお願いした。
「じゃあ今切っちゃう?一回渋ると切るの躊躇しがちだからね。どうする?」
「あ、なら、今お願いします。」
二葉はもう一度頭を下げた。
その場で二葉の胸の下あたりまであった髪は喉仏あたりまで一気に切った。
「はい。出来上がり。」
「うぁ。すごい。私、こんなに短くしたの初めて…。うぁ。すごっ…。」
二葉は笑顔で鏡に映る自分を見ていた。
「初めてだね。君にあってから初めて笑った顔を見たよ。これから辛いだろうけど、そう笑って一緒に前に進んでいこう。なんでもひとりで抱えちゃダメだよ。もう僕たちは家族なんだから頼ってね。僕も頼っちゃうかもしれないしね。」
佐藤先生が言った。
ー次の日ー
二葉が病室で佐藤先生と話していると梓が来た。
「あの。文部科学省の人が二葉ちゃんに会いたいって来てるんですけど。」
「え?どういうこと?まぁとにかくここに来てもらう?」
佐藤先生の問いに二葉は頷いた。
ー数分後ー
「初めまして!文部科学省の
病室に入ってきてすぐにその人はそう言った。
「それでは今日は失礼します!」
「待ってください。」
西沢が帰ろうと二葉はそう引き留めた。
「あの。その私の要望なんですけど、今ここで言ってもいいですか?」
「ちょっと待って二葉ちゃん。それって情報提供するってこと?」
佐藤先生が二葉の言葉に驚いて聞いた。
「はい。私の条件を飲んでくれるのなら。」
二葉が言うと西沢はもちろんと頷いた。
「私の要望は…。生活費、入院費、学費、とにかく私のために使うお金を佐藤先生の家から出したくありません。だから私のためのお金全部出してください。あと、私がもし大学生まで生きることができるのなら別瀬大学に入学できるように頑張ります。それで、そこの研究室に入って自分で自分のこと調べます。だからそこで使う研究費も出してください。あと、そちらに提出する情報もすべてこちらで採ります。いいですか?」
「わかりました!こちらでも検討させていただきます!」
「お願いします。」
西沢はそれで帰って行った。
「二葉ちゃん。本当に良いの?あと、お金のことなら気にしないでいいんだよ?」
「私が気になるんです。本当は親がやらないといけないことをやっていただくわけだし、希美子さんと佐藤先生には親がわりにもなっていただくので。」
佐藤先生の言葉に二葉はそう答えた。
ー数日後ー
「こんにちは。文部科学省大臣の川崎弘也です。この前の条件ですが、すべて聞き入れることとなりました。ただし、こちらからも条件を足させていただきます。毎月こちらで用意したテキストとノートを送ります。テキストをそのノートにやって送り返してください。それができなければ強制的にあなたの病気について調べさせていただきます。また、別瀬大学に入るのに一番の近道は別瀬高校への入学だと思います。ただ、別瀬高校は難関校なので勉強が相当必要ですよね。その勉強にはこのテキストを使ってもらいます。塾などには行かないでください。もちろん通信教材などもだめです。いいですか?」
「はい。わかりました。」
「ではこちらを確認のうえ、よろしければサインをしてください。」
二葉はその書類を読んでサインした。これで正式に契約を結んだことになる。だから二葉は銀行に口座を作った。そこに毎月生活費として20万円。学費として10万円。入院費として25万円。その他として10万円。この合計65万円が入金される。でも実際のところ佐藤夫妻は生活費をそこからほとんど使わなかった。二葉もその他のおこづかいのようなものをほとんど使わなかった。学費も毎月そこまで使うわけではない。つまり、毎月30万円ちかく余っている。それがどんどん貯まっていくのである。
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