第4話 知左富葉月

 二葉が転校を知られる人物とは知左富葉月。


 二葉にはいつメンがいる。それは、葉月と優夏と白須樟葉しらすくずは寺島心也てらじましんやの四人。この四人は二葉の誕生日会を企画していた。二葉の誕生日は五月十日。


 二葉が事故にあったことをこの四人は知らなかった。ただ、今は行方不明になっているということを氷河と海河から聞いていた。そして、二葉が見つかったら教えてくれると約束していた。

 五月八日。この日も四人は学校帰りに二葉の家の前で氷河たちからの連絡を待っていた。

「ねぇーちゃん見つかった!事故にあって今は入院してるって。今からお母さんが病院に行ってくるみたい。」

氷河が玄関から飛び出してきてこう言った。その数分後千和が家からすごい勢いで出てきた。葉月たちは千和に言われ、家の中で待つことにした。千和が家を出てから約四十分後。千和が帰ってきた。

「お母さん!ふたねぇは?」

海河が真っ先に聞いた。ふたねぇとは二葉のこと。

「二葉ね。この前、あそこの大きな交差点で事故あったでしょ?それに巻き込まれたんだって。飲酒運転で捕まりそうになったトラック運転手が時速八十五㎞で突っ込んで来て、二葉に直撃して五~六m飛ばされたんだって。」

千和はそう説明すると葉月たち四人を家の外に連れ出してこう言った。

「正直に言って、二葉は生きてるわ。でも、もう会えないということを理解してちょうだい。なんで会えないとか詳しくは聞かないでね。あと、氷河たちには二葉は死んだと説明するわ。もう会えないんだから死んだのと同じでしょ?それと、学校の人たちにも何も言わないでね。」

千和は家の中に入っていった。

四人ともしばらくその場に放心していた。

「と、とにかく。うちに来て良いよ。ちょっと状況を整理した方が良いと思う。」

優夏はそう言うと、二葉の家の隣にある自宅に行った。

「えっと、多分だけど、二葉のお母さんが何も聞かないでって言ったのは答えられないからで、なんで答えられないかっていうと、二葉のおばあちゃんの命令なんじゃないかな?」

優夏はそう言うと、地図を持ってきた。

「ここ。確かこの山が水野家の本家だったはず。」

「ちょっとまってよ、ゆう。ふたのおばあちゃんの命令?てか、水野家ってなに?」

樟葉が身を乗り出して言った。

「そっか。くずちゃんもしんくんも知左富も知らないんだ。説明するね。」

 優夏は二葉のことを二葉。樟葉のことをくずちゃん。心也のことをしんくん。葉月のことを知左富と呼ぶ。そして、樟葉は二葉のことをふた。優夏のことをゆう。心也のことをしん。葉月のことを知左富と、心也は二葉のことをふぅ。優夏のことをゆぅ。樟葉のことをくぅ。葉月のことを葉月と葉月は心也以外全員名字で呼ぶ。なぜこう呼ぶかは二葉たちが小学一年生のころまでさかのぼる。


 「ねーねー!優夏たち四人はいつまでも友達だよね?」

優夏が聞くと二葉、樟葉、心也はおもいっきり首を縦にふった。

「じゃあ、ずっと友達の証に優夏たちだけの呼び名作ろ!」

こうして二葉、優夏、樟葉、心也は互いにあだ名をつけた。

「二葉は、優夏のことはそのまま優夏って呼ぶ!」

二葉と優夏は家がとても近いことから本当の姉妹のように育った。今さら呼び名を変えるのが二葉は嫌だったのだ。だから、優夏もそのまま二葉と呼び続けた。二葉は樟葉と心也のことを優夏と同じように呼ぶ。それから約半年。二年生になった心也は葉月と仲良くなった。女子三人に男子一人が少し嫌だった心也にとって葉月は救いだった。あとから仲良くなった葉月にはあだ名はつけなかった。

 二葉と優夏は幼い頃から一緒にいるため、水野家のことを知っていた。優夏は自分が知る限りの水野家のことを話した。


 「私が知ってるのは本当にごく一部。二葉が水野家の跡取りということと、水野家の人は勉強または、運動能力に長けていること。もし、二葉みたいに勉強もできなくて、運動もできないと育ててもらえない。でも、なんか、二葉は特別に育ててもらってるみたい。あと、毎週金曜日は学校から帰るとすぐにこの、水野家本家、つまり、二葉のおばあちゃんの家に行くこと。そして、そこで二葉はおばあちゃんに逆らったり、跡取りとしての勉強に不正解だと理不尽に殴られて、軒下に閉じ込められるということ。」

優夏がそう言うと樟葉が、こう言った。

「え?それって、ひょーたちも?」

ひょーとは氷河のこと。

「いや、氷河たちは勉強または運動ができるから。あと、跡取りじゃないから。」

優夏はそう答えた。

「待って、毎週金曜日ってさ、若林は塾に行ってるんじゃないの?」

今度は葉月が聞いた。

「それ嘘。二葉のお母さんと氷河と海河、銀河ぎんが達のお母さんと銀河と大河は車で行くんだけど、二葉は自力で山を登り下りしないといけないんだって。」

銀河とは二葉のいとこで大河の兄である。

「え?もしかしてふぅがたまに怪我してるのっておばあちゃんに殴られたりしてるからってこと?」

「多分。そんなに詳しいことは知らないけど。あとは山を歩いてるときに怪我するって言ってたな。」

心也の問いに優夏は答えた。

「よし、そこ行こう!」

樟葉はそう言って立ち上がった。それに続き葉月と心也も立ち上がった。

「おい、今村は行かねぇーの?」

葉月が優夏の顔を覗きこんで尋ねた。すると優夏の顔が青ざめていた。

「今村?どうした?具合でもわるいの?」

葉月が聞くと優夏は首をふって答えた。

「なんかわかんないけど、あそこには行っちゃ行けないような気がする。もちろん二葉のこと気になるから行かないと、とは思うけど。」

「無理しないでね。」

樟葉がそう言うと優夏は大丈夫と言って立ち上がり言った。

「よし。行こう!水野家に!!」

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