pétale.13 明かされざるもの
「……僕は最初に町の取立人が来た時から、ずっと疑問に思っていたんです」
睨みつけるように、モモは相手の男を。
「期限が到来して、リズさんが税金を払えなくなった時点で、この土地も建物も差し押さえる権利を町の側は持っている。そこに居座っている建物や住民なんてものは強制的に排除してしまえばいい。なのに、あなたたちは、あくまで、そうしなかった。どころか、リズさんに好条件を出してまで彼女から土地を買い取ろうとしている。そんなこと、しなくていいはずなのに。それはなぜですか?」
「それは、町民と町長の平和的な関係のためにだな……」
「力づくでリズさんを排除できない理由があった。違いますか?」
「理由……? 理由って、なによ」
「二年前、リズさんの両親が亡くなった事件。あれを僕なりに調べてみたんですけど、少し不自然に思えました」
「不自然って?」
「端的に言えば、犯人が町から出て行って追跡が不可能になったということで、半ば強引な形で調査が打ち切られたように見えました」
「え?」
リゼットはぽかんとした後、慌てて反論した。
「でも、犯人が追えないんなら、そんなの仕方ない――」
「だとしても、普通は近くの関所に連絡するぐらいしますよ。要するに、僕が何を言いたいかって言うと――」
言葉を区切り、
「リズさんの両親が亡くなったのは、あなたたちが原因ですね」
それを聞いたリゼットは言葉を失った。
モモはリゼットを気にするように見た後、鉛のように重苦しい口調でしゃべりだした。
「以前、教えてくれましたよね。相続人がいない場合、その土地は自動的に町のものになると。つまり、リズさんがいなくなれば、この土地は自然と町の物になる」
「まさか……」
「その通りですよ、リズさん。二年前、事故に見せかけて、リズさん一家を殺害しようとしたのは町長さんと町長さんの息がかかった町議会員の人たちです。もっとも、実行犯は町長さんが雇った傭兵崩れのゴロツキで、とっくの昔に町を離れていますが」
信じられない内容にリゼットは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けていた。言葉が胸の奥でつまり、とっさに出てこない。
「……うそ」
ただ、そう呟くのが精一杯だった。
「けれど、それは失敗し、リズさんは生き残ってしまった。さすがに二回も意図的な事故を起こせないでしょうからね。……結果として、土地はリズさんが相続することとなった」
モモはリゼットを気遣うように見た後、
「だからこそ、リズさんに対する恐れがあった。土地は欲しいけど、力づくでリズさんをこの場所から立ち退かせた後、何かの拍子で真実が判明したら、事件のことを責められて逆に追い詰められてしまう可能性がある。けれど、契約とか、リズさんにとって利益となる方法で、彼女をここから追い出せたら、リズさんも強く出れないんじゃないか。そう思ったんでしょう。……そんなわけないのに」
そう言って軽く俯いた。詰問するような口調で男に問いかける。
「だから、リズさんにとって有利な条件を出してまで、土地を売らせようとした。そうじゃないんですか」
「何を根拠に言っている! そんな馬鹿なこと――」
「――二年前に」
静かながらも厳しい声でモモは遮った。相手が怯んだ隙に続ける。
「二年前に、町長さんに協力せざるを得なくなったある町議会員から直接話を聞きました。当時の事件に関わった彼が、定年した今もリズさんの傍にいるのは、リズさんを見張る目的もあったんでしょう?」
「ふ、ふざけたこと! 適当なこと抜かしやがって! そうだ、お前に事件のことを教えた奴の名前を言ってみろ! 全部でたらめだってことがすぐにわかる!」
モモは不快そうに眉根を寄せた。
「いい加減にしてください。その人の名前を、彼女の前で言わせるつもりですか」
だが、縋るような声でモモに詰め寄ったのはリゼットだった。
「誰なのよ。教えてちょうだい!」
「そ、そうだそうだ! 全てはそいつの出まかせだ!」
二人から問い詰められたモモは、ぎりと下唇を噛み、
「……ノワ・ドフレイエ」
まるで血反吐でも吐き出すような声音でその名を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。