読み取る。遊びに、行く。その2

「おー、たっだいまぁ~」


呑気な声で玉木が戻って来る。


その無神経さを咎めようとしたが、流石に事情知らないからそれは酷だろうと思い直す。


「……っ、ふぅっ」


鹿島がよろめきながら立ち上がる。手を貸そうか?と言うと、大丈夫だからと止められた。


「鹿島、大丈夫か?」


「うん。尾上くん、ありがとう……」


「あれくらい、お安い御用さ」


何の足しにもならない、虚勢を張る。その最中、僕は必死に考えていた。


彼女が幸せになる方法を、だ。



そして、答えを一つ見つけた。


「どうした? おい、春樹?」


玉木の呼びかけを無視して、ソレに釘付けになる。


僕の視線の先にあったのは、観覧車だった。


***


午後七時。月が八月に変わるまで、あと五時間。


七月三十一日。この日が、僕と、彼女の、本当の意味での、スタートだ。


嫌われる覚悟を決める。


ここから先、行けば戻れない一方通行だ。


それでも、固く閉ざされた鹿島真墨の心の壁は、突き破らねばならない。鎖は引きちぎらなければならない。


観覧車に男女が向かい合って座る。


誰もが憧れるシチュエーションだろうけど、生憎今の僕はそんな気分にはなれない。


「鹿島。……キミは、落し物探しの趣味を今すぐ捨てるべきだ」


観覧車に二人で乗って、開口一番がこれだった。


鹿島が目を見開いて、絶句していた。


「な、なんでっ! そんなの、あんまりだよ……」


「だって、それは、キミのためにならない。少なくとも、僕の目には、キミが失った幸せを、その行為で帳尻合わせをしようとしているように感じる」


「それ、は…」


「誰かの無くした物を探したい。それはきっと、自分の無くしたものを取り戻したいという心の裏返しなんじゃないのか?」


「……」


鹿島は黙ってしまう。


「まあ、今すぐなんて言ったけど、すぐ捨てなくていいよ。少しずつで……」


「い、いいっ…。分かった、捨てる、から……」


焦ったような声。怯える子どものような声だ。


その反応を見て、絶望した。


ああ、何て事だ。


これでは、逆効果だ。


彼女は、僕を……


遂に僕を、母親の代わり、親友A子さんの代わりに仕立て上げてしまった……


「窓の外を見てごらん。綺麗だ……」


彼女から視線を逸らし、慌てて話題を変える。


「うん。綺麗……」


彼女の掠れた声が響く。


その後、僕達は、互いに一言も発さなかった。


この綺麗な街並みが、彼女の一筋の光になってくれていることを、祈るばかりであった。

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