第13話
「警備員さん!こっちです!」
その声を聞いて一目散に三人の男が逃げ去っていく。
地面が目の前にある。僕は倒れている。
顔とお腹を強く殴られたようですごく痛い。
駆けつけてきた男の人の声が聞こえる。
「結さん!しっかりして!結さん!」
どこかで聞いたような声がする。
なにか懐かしい声が聞こえてくる。
しかし僕はそのまま意識が遠のいていく。
そして僕は気を失ってしまった。
☆彡
学校生活も一週間が過ぎてきた頃、
僕は制服に着替えていた。
リボンは可愛いが、いまだにつけていく勇気が無い。
そして僕は青色の学年色のネクタイをした。
「お母さん、お姉ちゃん。おはよう!」
今まで打ち解けなかったお母さんとお姉さんと仲良くなり、
普通に会話もするようになった。
これも女の子の力っていうものかな?
「パンにサラダを挟んでっと♪」
お母さんもお姉さんも僕をじっと見ていた。
「なに?なんか顔についてる?」
「結ちゃんがすごく楽しそうだなって思って見てた」
お母さんやお姉さんの驚く顔もよく考えたら正しい。
今までの男子時代の僕の朝は、すごく不機嫌な顔をしていた。
そして家族と一緒に食べるのがイヤだったので、
同じテーブルに着くことは絶対にせず話しかけることは無かった。
その僕が朝から明るく挨拶をし、家族と朝食を食べている。
それだけではなく学校がとても楽しいのだ。
クラスメートの僕の教育係の真奈ちゃんとすごく仲良くなった。
僕の学校一の親友である。
女子体育のときにA組とB組合同でバスケをやった。
そのバスケで僕のチームが勝ったのだ。
僕はそのときに4ゴール(?)を決めて、クラスでも人気者になった。
女子生徒だけでなく男子生徒からも話しかけてくれるようになったし、
学校生活がとても楽しく感じていたからだった。
「お姉ちゃん、服装チェックして。大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ。しっかりと自分で出来るようになったじゃん」
お姉さんに褒められてなんだか嬉しい僕が居る。
「お母さん、行ってきます!」
いつものようにお姉さんと一緒に通学する。
通学中でもお姉さんとお話をして登校するけど、
とても楽しいと心から感じるのだ。
こんなにおしゃべりが楽しいと思ったことは無かった。
どういうことを話をしているのかって言うと、
普段の日常の事や、学校の事や、
クラスでこういうことがあったよとか、
なんのテーマも無く普通に話をしている。
なんと言ったらいいのか判らないけど、
話をすることが楽しいという感じ。
だから何かを話すというものは無くて、
普通に話をするというイメージ(?)。
この感覚は僕の今までの経験則から言うと、
男性には存在しない感覚だ。
女性の普通と言うのは男性には当てはまらない。
という意味が今の僕には良くわかる。
学校に着いて学生証でゲートを通り過ぎ、お姉ちゃんと別れる。
私は一年生の一号館で、お姉ちゃんは二年生の二号館に向かう。
クラスに入ると僕に沢山のクラスメートから挨拶される。
このときが堪らなく嬉しい。
そして仲良しの真奈ちゃんと、またここでもおしゃべりをするのだ。
真奈ちゃんと話をしているとクラスメートが集まってくる。
私の周りに輪が出来上がるのだ。
休み時間にはトイレに行き、女子だけの内緒の話をする。
お昼休みには真奈ちゃんと一緒に学食のテーブルに着くと、
違うクラスのお友達も一緒に食事をしながらおしゃべりをする。
沢山のお友達に囲まれて、クラスメートという仲間が居て、
そして楽しいお話が出来て、時には相談されて頼られる。
だからなのかもしれない学校がすごく楽しいって思う。
私はいつも放課後になると体験入部している部活に行くのだけど、
今日はアーチェリー部も武道部居合道も無かった。
いつも一緒に帰る真奈ちゃんも今日は家の用事で早く帰宅した。
お姉ちゃんは今日は委員会があると言っていた。
この学校に入って初めて僕は1人で帰宅することになった。
(普通に帰るのももったいないな。)と思った僕は、
久しぶりに市野ショッピングモールに行くことにした。
良く男子時代にショッピングモールに行っていたのだが、
女性になってから初めて行く。
ゲーセンに行こうか。それとも本屋に行くか。
ショッピングも楽しみたいからいろいろとお店を回ろうと思った。
バスを乗り継いで無事に市野に着いた。
(マジで久しぶりだ!すごく嬉しい!)
ショッピングモールに入ると今まで見てきた感じと違って見える。
店舗の一つ一つが輝いて見えてくるのだ。
(あ!洋服だ!この洋服可愛い!)
どれを見ても魅入ってしまう。
こんなに楽しいものだったのだろうか?
店舗を見て回るだけで楽しい。
ファンシーショップに入ってみればすべてが可愛く見えてくる。
なんだか男性の買い物のときとは明らかに違う。
何が違うのかと言われるとなんと言えばいいのか判らない。
右から左から全部のお店に入りたいのだ。
もう見ているだけで楽しいのだ。
このまま居続けると沢山買い込んでしまいそうなので、
一回外へ出ることにした。
女の子ってこんなに違うのか?
どういったらいいのか判らないけどすごく楽しいぞ。
今まで何度も来ているはずの場所なのに、
散々見てきたはずなのに、違う場所のように思えてくる。
心臓の鼓動が早くなっている。
僕はとても楽しんでいるんだ。
少し落ち着こうと外にある自販機のところに向かった。
☆彡
自販機の近くに行くとなんか怖そうな高校生位の男の子が数人居た。
良く見るとその高校生の真ん中で弱そうな高校生が居る。
僕は近づいていくと弱そうな高校生が苛められていた。
「何か言ってみろや」
真ん中に居る子がビンタされている。
押し倒そうとしたり足を蹴ったり見ていて段々と腹が立ってきた。
(苛めとかありえんし、こいつらマジでムカつく。)
僕は近づいていくと、苛めている一人が近づいている僕に気が付いた。
「なんか用か?」
「三人で弱いやつ1人を苛めるとかありえんし!」
「はぁ?なんだこいつ」
僕に三人の男たちが向かってきた。
1人が僕の肩を小突いた。
「ムカつくって言ってるんだよ。ボケが!」
僕は1人の顔に思いっきりパンチした。
すると殴られた男は僕に殴り返してきて、
ついに男三人を相手に喧嘩が始まった。
僕はそいつらを何度も何度も殴ったはずだが力の差がありすぎた。
左の頬を殴られ、
他の一人は僕のお腹を強く殴りつけられ、
僕はその場で倒れこんでしまった。
それでも怒り頂点の三人は倒れこんだ僕に蹴りを食らわせる。
「警備員さん!こっちです!」
大声で叫ぶ声が聞こえた。
その声を聞いて一目散に三人の男が逃げ去っていく。
僕は倒れこんでしまっていて動くことが出来なかった。
顔とお腹を強く殴られていてすごく痛い。
僕はお腹を押さえるようにして丸くなってしまった。
駆けつけてきた男の人の声が聞こえる。
「結さん!大丈夫?結さん!しっかりして!」
どこかで聞いたような声がする。なにか懐かしい。
しかし僕はそのまま意識が遠のいていく。
そして僕は気を失ってしまった。
☆彡
意識が戻って僕は少しずつだが目を開けていった。
目が覚めると僕は白い部屋にいた。
「結ちゃん、結ちゃん」
声のする方向を見るとお母さんがいた。
ぼやけていて見えない。
「お母さん」
「結ちゃん、よかった」
「ごめん良く見えない。メガネはどこ?」
お母さんがメガネをかけてくれた。
お母さんの後ろでお姉さんが立っていた。
「えっとここはどこ?」
あの後、すぐに救急車が呼ばれて病院に運ばれたと知った。
「先生が言うには問題は無いと思うけど、
頭を打っているみたいだし、お腹も怪我をしているから、
しばらく入院して様子見だって言ってたよ」
僕は起き上がろうとしたが、お腹がすごく痛かった。
「まだ起き上がらないようがいいわ」
顔も腫れている様子だった。
なんだろうこの気持ち。
喧嘩に負けたことの悔しさ?
自分がこんなにも弱くなったことが辛いの?
お母さんやお姉さんに心配をかけてしまったことが苦しいの?
涙が止まらなかった。
僕は本当に何をしてるんだろう……。
涙が止まらない。
すごく悔しい、すごく辛い。
そして……
ものすごく苦しい。
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