衝動による理性の開放

鮎屋駄雁

衝動による理性の開放

雨は強さを増し、今晩は止みそうにない。

雨の降る日は犯罪が起こりやすいらしい。

視界が悪くなることや、人通りが減ること。

あとは雨が洗い流してくれる。

そんな気がするからだろうか。


私は膝を抱え、小さくなりながら僅かな息遣いさえも気にしつつ

暗く湿った臭いのするクローゼットの中にいた。

物音を立てないように動かないように努めるが、そうしようとすればするほど

身体は逆の反応を起こし、小刻みに震えてしまう。

心臓の鼓動が体内に響き、耳に内側から届く。

「ぺた、ぺた、ぺた」

確かに足音がこちらへ近づいてくる。

私は宗教家ではないが、今ばかりは神に祈った。

悠久を思わせるような時間が流れる。

足音は着実に私に近づく。

恐らく私との距離は5メートルとないだろう。

奈落の底のような暗闇だったクローゼットにかすかな冷気と光が差し込む。

私は光の差し込む方向に顔を向ける。

やはり神はいなかった。

そこには部分的に赤くコーティングされた銀色に輝く刃物と宝物を見つけたように笑う女の顔があった。

私は残り短いであろう自分の人生を振り返り、大いに後悔した。

この家を狙うべきではなかった。


「続いてのニュースです。昨晩未明、空き巣が住人により殺害されるという事件が発生しました」


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衝動による理性の開放 鮎屋駄雁 @nagamura-yukiya

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