第13話 新人そして竜
あれから一時間くらいして連絡係のレインさんが呼びに来てリーダーはニックさんのところへ向かった。先にリーダーが会ってそのあとで私たちに紹介するそうだ。そういうわけで今、私たちは歓迎会の準備をしている。
「この皿は各テーブルに一つずつ こっちは二つずつで頼むよ」
「はーい」
ドーラさんの指示のもと料理をテーブルに運ぶ。肉のサンドイッチとピザの亜種のようなものが今日のメインのようだ。
「そういえば新メンバーって何人なんですか?」
「リーダーが行ったってことはゼロってわけじゃ無いんだろうな」
「ゼロってこともあるんですか?」
「まあそれでも新メンバーなしの歓迎会はやるから準備はするけどな」
それはただの宴会では?お酒が飲めてご馳走が食べれればいいってことかな。
準備が終わるとタイミング良くリーダーが帰ってきた。早速メンバー全員の注目が入り口の扉に集められる。
「よーし 新メンバーを紹介するぞ おーい 入ってきてくれ」
そういってニックさんといっしょに入ってきたのは試験で最初に戦ったあの赤髪の少年だった。少年は一瞬こっちを見て驚き、すぐにリーダーのもとまで向かった。
「よし 新メンバーのリックだ」
「リックと言います。得意武器は槍です。よろしくお願いします」
リーダーのあとに続いて簡潔な挨拶をしたリックに拍手をすると歓迎会の始まりだ。リックはあっちの端の方から挨拶しているようなのでこっちに来るまで時間が掛かりそうなので先にピザに手を伸ばす。
「うん おいしい」
丸い生地の上にチーズを載せただけのピザだがチーズの濃厚な味が口の中に広がる。
「ねぇ リリーちゃん 目を合わせてビックリしてたけどあの子のこと知ってたの?」
ピザを食べながらミーナさんが聞いてくる。
「はい 試験官をやったときの最初の相手が彼でした それに印象に残る赤い髪だったので」
「あー なるほどね それで 強かった?」
「うーん その後の人たちよりは強かったかなぁ 試験官は初めてでドキドキして」
「リリーちゃんあの子の槍といっしょに自信までボッキリ折っちゃったものね」
一切れ目を食べ終えたマリナさんが会話に入ってくる。
「リリーちゃん 何したの?」
「何って言われても普通に戦っただけです。リーダーに言われた通り武器は使ってません」
「そうよね 素手の女の子相手に得意武器で挑んで軽くいなされ、全力の突きは当たらないどころかその上に立たれるなんて普通よねー」
うっ てかマリナさんよく見てたな
「ちっ 違います 最後の槍の上に乗ったのはただの偶然で…」
「あー 相変わらずのリリーちゃんクオリティね」
ミーナさんに呆れられているとリーダーとリックがこっちに向かってくる。
「ここで最後だな リック こっちがマリナとミーナ 姉妹で姉のマリナが治癒魔法担当で妹のミーナのほうは斥候だ」
「マリナさん ミーナさん よっよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
「よろしくねー」
カチカチのリックと二人が挨拶する。
「そしてこっちがリリー 試験の時の試験官だ」
「リッリックと言います」
リックは緊張でか顔をほんのり赤くして右手を差し出してくる。試験のときにやり過ぎたのかもしれないと思いやさしく対応する。
「私はリリーよ これからよろしくね」
そう言って差し出された手を両手で握る。
これですこしはトラウマも和らぐだろうと思ってリックを見ると顔を背けられてしまった。やはりまだ直接顔を見るのは怖いのかもしれない。
リックの顔が真っ赤になっていたように見えたのは気のせいに違いない。
リックが新しく入ってはや三日、リックはニックさんに鍛えられてるのであまり関わることもなくミーナさんと近場の狩りを続けている。昨日は初めて実戦で土魔法を使った罠で大きなサイを倒したがなかなかの威力だった。
そして今日はリックも加えての初のクラン全体での狩りの日だ。リーダーはギルドから帰ってくるとイタズラを企む子供のような顔でこう言った。
「今日は竜を狩るぞ!」
竜と聞いて驚いたが空を飛ぶドラゴンのことではなく地竜という大型のトカゲのことだった。それが街から一日ほどいった村の近くの山に出たらしく放っておけば村や畑が荒らされかねないということで急いで向かうことになった。
街の南の門を出て手押し車を押して歩く。地竜は硬いからを持つので予備の武器や遠距離用の投げ槍がいつもより多く必要になるそうでそのために普段より少し重い。
「私、竜ってこう空を飛んでるイメージでした」
「ギルドの飛竜みたいな?」
ギルドで飼っている飛竜は精々体長三メートルで小柄な人が乗って魔物の発見を行っていて
「それもですがもっと大きいやつです」
「あっもしかして虹の天竜アルドラーゼと赤の覇竜アコニターゼのこと?」
「なんですかそれ?」
随分と中二チックだな
「この大陸を統べる二頭の竜よ 南を治めるのが天竜アルドラーゼ 虹色の鱗を持っていて天上の神の使いって言われてるわね」
あー もしかして
「そしてここを含めて北を治めるのが覇竜アコニターゼ 悪魔の化身とも呼ばれていてこっちは三百年前に勇者が説得して悪事を止めさせた話が有名ね」
やっぱり母さんのことだったか。 それにしても私が生まれたのって父さんが母さんを倒しに来てから三百年も後だったのか。父さんは老化を抑えてるから別におかしくはないんだけどあれで三百才って言われると違和感が凄い。
「悪事っていったい何をしたんですか?」
「なんでも言葉に出来ないほどだって言われてるわ 歴史書の覇竜の悪事のところは白紙になっていてそれはあまりの恐ろしさにペンが震えて書けなかったからなんだって」
「へーー」
いやそれ書くことがなかっただけじゃ
母さんによると趣味で城作ってただけらしいし それを後の学者さんが勘違いしたってことかな
そんなことを話していると目的の村マロネート村が見えてきた。開拓村に比べるとだいぶ大きな村で周りには一面の畑が広がっている。武器は重かったが食料なんかは持っていかなくてよかったのと道がよく整備されていたので予定より少し早く着くことが出来た。
村に入るとちょうど日が低くなって来たのでリーダーの知り合いという村長さんに貸してもらったいくつかの空の倉庫にわけて泊まることになった。最近は疲れ気味なので今日はゆっくり寝よう。
次の日は朝から二三人の班に別れて地竜の捜索をする。地竜を見つけたらファイアーボールを打ち上げて村の見張り台に待機しているリーダーに知らせる。リーダーはそれを見たら風魔法で大きな音を鳴らして合図しファイアーボールを上げた班以外は村に戻り準備した後討伐に向かう。地竜は移動速度は速くなく遠距離攻撃はしてこないので二三人の班でも追跡は可能だそうだ。
「あっ またノーマアントです」
ノーマアントは体長四十センチもある巨大なアリで一匹一匹は弱いが群れでくるとかなり恐ろしい相手だ。人間も補食の対象なので万一群れの真ん中で倒れた時は……想像もしたくない。
「厄介ね 匂いを覚えられてるのかもしれないわ ここで倒した方が良さそうね」
そう言ってミーナさんは腰に差してあった小さなナイフを投げて先頭のアリの頭に突き刺す。
ミーナさんカッコいい 負けてられない
「ファイアーボール改!」
小さなファイアーボールが群れの真ん中に飛んでいく。そしてあるアリに当たった瞬間に
ズガァァーーン
爆発を起こし周囲のアリをまとめて吹き飛ばす。そう榴弾のように着弾して爆発するように改良したのだ。
「おー 凄い威力ね」
ミーナさんはそう言いながら爆発から漏れたアリを投げナイフで数匹まとめて貫いていく。
「アイスエッジ!」
粒をいつもより小さめにしてその分数を増やして攻撃する。
五分もするとあらかた片付け終え残ったノーマアントは森の奥に引っ込んでいった。
「ふぅ これで大丈夫ね ノーマアントは学習能力があるみたいで一回痛め付けるとしばらくは襲ってこないわ」
「それはひと安心です」
その後近くの山を捜索するものの地竜らしき痕跡は全く見つからずその日の捜索は終わった。
翌日、他の班が地竜の尾の跡のようなものを見つけた方面を中心に捜索することになった。
村の北側の門から出てミーナさんと二人で再び捜索する。
「この辺りの枝が折れてるのって違いますかね」
「うーん ちょっと小さいわね これだと高さからみて鹿でしょうね」
先程から何度か痕跡らしきものを見つけるもよく見ると鹿や熊のものというのばかりだ。
地竜の尾の跡も本当はヘビの跡なんじゃないかと思い始めた時
ピーーーー ピーーーー ピーーーー
地竜を見つけた合図の高い音が森に響き渡った。
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