第12話 打ち上げそして土魔法

試験が終わる夕方まで六十人以上を相手してさすがに疲れた。リーダーはそのうち九割以上を開幕瞬殺したのでまだまだ元気そうだ。三人目以降はずっとある程度受け流してから武装解除を繰り返していたけどうっかりハンマーを片手で受け止めたときくらいから挑戦者が青い顔でやって来るようになってしまった。怖がらせないようににっこり笑っていたのに何でだろう?



さて今は試験が終わったことの打ち上げで街で一番広い食堂を借りきっている。十クランで集まっているのでかなりの人数がいる。二階建ての建物を溢れて外にまでテーブルを並べてやっとであり人数は五百人を下らないであろう。うちのクランだけでも酒で潰れてしまったヴォルフさん以下数名以外全員二十五人が参加しており、大人数クランの『獅子の大鎌』からはなんと百五十人ほどが来ている。

「おっ 嬢ちゃんにミーナ いい食いッぷりだな」

骨付きの鳥の足にかぶりついているとリーダーがこちらも鳥の足片手にやって来た。

「リーダー 二階はいいんですか?」

ミーナさんの疑問はもっともだ。

試験の結果をまとめて誰が欲しいかを今日のうちに決め、明日の朝に宿の前にクランごとに合格者の番号を張り出す。挑戦者は入りたいクランに番号があればそのクランにいって入団となる。もちろん実力者は複数のクランから合格が出る一方、どこからも合格がないものがほとんどだ。


そして今二階では各クランの代表が試験の結果を共有したりクランの運営などについて話し合っているはずなんだけど

「あー それがな ニックにいてもしょうがないから下に行ったらどうだと言われてな」

それでいいのかうちのリーダー

「まあリーダー書類仕事苦手ですもんね」

ミーナさんの声にはどことなく諦めが感じられる。

「おう 事務関係はニックがやるっていうのがリーダーを引き受けるときに出した条件だしな」

そんな取り決めをしてたのか まあクランのリーダーに求められるのは一番に指揮能力だから他のことはそこそこでいいのか。

でも金銭管理からスケジュールまで投げっぱなしっていうのもどうかと思う。

「じゃあ 嬢ちゃん まあ頑張れ」

「はい …?」

リーダーは何だか意味ありげに私の肩をぽんぽんと叩いて去っていった。なんだったんだろうと思っていると

「話は聞いてるわ あなたがリリーちゃんね!」

声の方に振り向くと美しい黒髪を肩下まで伸ばしたお姉さんがいた。整った目鼻立ちと相まって清楚な雰囲気を纏っている。

「私はたしかにリリーですが お姉さんは?」

「まあお姉さんだなんて  いい子だわ  私はルーデリカ クラン『白鳥の誓い』のサブリーダーをやっているわ」

そう言いながら私の頭をやさしく撫でてくる。あーなんだか気持ちいい

思わずふにゃっとした顔をしてしまう。

「やっぱりかわいいわね  戦ってるときのキリッとした表情もよかったけどこの顔はそれにも勝るとも劣らないわ」

ううっ 一応元男で大人なのにすっかりかわいい子供扱いに慣れてしまっている自分が恐ろしい。

「サブリーダー 私たちにも撫でさせてください」

「そうです 独り占めはずるいですよ」

いつのまにか『白鳥の誓い』のメンバーらしき御姉様方に囲まれてしまった。

「わぁー さらさら」

「ほっぺも気持ちいいわねぇ」

前後左右から手が延びてきて髪を弄くられたりほっぺたを摘ままれたりしている。

「ミーナひゃん はふへてー」

隙間からミーナさんを見るとこっちを向いて両手を合わせてごめんねと口で呟いてから隣のテーブルに逃げていった。

見捨てられたー



それから一時間ほど全身をまさぐられようやく解放されたときにはどうやったのか知らないが頭に髪を結んで作った熊の耳のようなリングが二つくっついていた。

そして御姉様方が去られた後は赤い顔をした少年たちの相手をし、それが終わるとおっさん連中と酒の飲み比べに勝ったところでお開きとなった。









 翌日、他の人は騒ぎ疲れて寝ているし修練場も片付けがすんでおらず使えないので仕方なく部屋で本を読むことにした。

今日読むのは土魔法についてだ。

部屋の中央にたらいを出しその上に土を出す。どちらも母さんからもらった袋からだ。あまり使っていないせいで忘れかけていた。

まずは

「土塊!」

土塊は土魔法の一番基本で土を操って特定の形を作る。今回は球を作ったがこれではまだ軟らかいので泥団子と変わらない。

「硬化!」

これでカチカチに固まって岩と言っても遜色なくなる。

「分解!」

そして分解で土の状態に戻す。

これが土魔法の基本でこれを組み合わせて魔法を発動する。


「土壁!」

たらいの上に小さな壁ができる

がすぐに崩れてしまった。

「硬化が足りなかったか  分解!」

ふっ と息を吸ってからもう一度

「土壁!」 

こんどはしっかりした壁が出来た。しかしまだまだ軟らかい。

「硬化!   硬化!」

出来た土壁をさらに固くしてから指で弾いてみる。

カツッ カツッ

大丈夫そうだ

今度は拳で叩くと  バゴッ

車の窓ガラスのようにバラバラになってしまった。

他の魔法も使ってみるか

袋からもう少し土を出してから

「土壁! それから圧縮! 硬化!」

圧縮することによって密度がより高く頑丈な壁が出来上がる。

ドゴォッ

今度は殴ってもすこしへこんだだけだった。

よし これでかなり実践的な土魔法が使えるようになるはずだ。


「土球!」

「土槍!」

「土壁!」

よしっ 大体望みの形をパッと作れるようになった。土塊→圧縮→硬化という一連の流れをひとつの魔法として名前をつけて保存する。

そろそろ次のステップだ。

人形生成クリエイトドール!」

うーん 間抜けに開いた口、指の無い手、ゴミがついたようにしか見えない鼻。

人形というか埴輪か土偶になってしまった。

「人形生成!」

「人形生成!」

まずは顔の部分を集中的に練習する。

「人形生成!」

「………


   ………」

「人形生成!」

二十回もやると顔と髪の毛はほとんど本物そっくりになった。これなら現代へいせいのフィギュアにも負けはしないだろう。その他の部分が土偶レベルなので物凄くアンバランスだ。次は腕の部分の練習だ。

「人形生成!」






二時間ほどでどんな人形でも作れるようになってしまった。われながら自分の才能が恐ろしい。

「人形生成!」

庭先で微笑む母さん

「人形生成!」

よだれを垂らして寝る父さん

「人形生成!」

木を跳び移るミーナさん

「人形生成!」

ハンマーを担いだリーダー

人形だけでなくその回りの小道具も完璧だ。父さんのよだれやリーダーの持っているハンマーに描かれた竜の絵までしっかり再現している。おまけに物凄く硬い。手で殴りつけてもぜんぜん平気だしこうしてに足で踏んでも

「リリーちゃん  リーダーが下に集合って言っ…」

ドアを開けてミーナさんが入ってきて

「えっ?」

部屋の中を見て言葉を失った。









それからは大変だった。ミーナさんは私が人形を踏んづけているのをなにか恨みがあったんだと勘違いしてショックを受けて崩れ落ちた。その音を聞いて部屋に来たマリナさんはぼうぜんとしたミーナさんとその誤解を解こうとしている私を横目に剣を構えてキリッとした表情の父さんの人形に夢中になった。

 結局父さんの人形三種(直立 戦闘 昼寝ver)をマリナさんにあげて、ミーナさんにも望みの人形を作ってあげることでなんとか収まった。





「すみません  遅くなりました」

焦って一階に降りるが半分ほどしかいない上、来ている人も机に突っ伏している人が目立つ。

「あれっ  これは?」

「おう嬢ちゃん  まあ昨日の今日だしまあこんなもんだろ   毎年のことだ」

「そっそうなんですね」

そういえばこないだ読んだところに二日酔いに効く魔法が載っていたな。

「ヴォルフさん  ちょっと失礼しますね」

「んー  声が響くから小さな声にしてくれ」

大きく息を吸って胸の奥に力を溜めて

毒素分解デトキシフィケーション

「だからうるさい声………あれ? 痛みがない!」

「解毒の魔法です。 二日酔いにも効くそうなので」

「うぉぉぉお  これはすげえ これさえあれば毎日酒が飲み放題だぜ」

あっそうなっちゃうんだ。まあヴォルフさんお酒好きなわりに弱いからなぁ。

「リリーちゃん  その魔法解毒の魔法?」

光魔法担当のマリナさんは解毒魔法に興味があるようだ。

「はい 解毒の魔法のうち幻覚に効く魔法を元にですね」

「フムフム」

「こっちの効果をこう弱めて  そしてこの呪文を強めることで酔いに効くようにしています。」

ここ数日は夜に魔法について勉強しているのである程度の説明は出来るのだ。

「なるほど じゃあやってみるわね」

マリナさんは気分の悪そうな人のところにいって魔法を発動する。

「コンタミ・ベノ・ユビキノ・ラッセニテーナ・コーハナカーユト・ハテーリマタ・ナタカナタナタ・コーレレシ・デトキシフィケーション!!」

さすがマリナさん、新しい魔法を一回で覚えてしまった。

「じゃあ部屋で寝てる人たちにも魔法かけてくるわね」

マリナさんはそう言って二階に上がっていった。

「思ったより早めに酔っぱらいどもが回復しそうだな   ありがとうな嬢ちゃん」

「いえいえ  それでリーダー これから何かするんですか?」

「あと何時間かしたらニックが新人を連れてくるだろうからその後歓迎会って流れだ  初日からグーたれてるところを見られると幻滅されるから去年まではこの時間に水をぶっかけてシャキッとたんだが」

「毒素分解!」

「今年は大丈夫そうだな」

リーダーの言葉が終わる頃には一階にいる人は全員元気になっていた。

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