第11話  試験そして試験

「ではこれより第百三十五回十クラン合同入団試験を行う!!!」

進行役のラサラスさんの宣言にわーーっと修練場全体から熱気が溢れる。

気づくと入り口の辺りにはすでに挑戦者が列をなしており、今まさに修練場に入ってくるところだった。

リーダーはハンマーを持って線の中に入る。挑戦者は三十才ほどの剣士で両手で木剣を構えている。近距離戦闘の試験では魔法や飛び道具は使用禁止なので純粋に剣と槌の戦いになる。


ゴーーン 

 鐘の音が鳴って試合が始まる。

リーダーはハンマーを低く構えて受けの姿勢だ。相手は右足で踏み切って体の勢いを木剣に乗せてリーダーの左肩に振り下ろす。槌と剣では重量が違いすぎるので体重を乗せることで補おうという作戦だ。

しかしリーダーはそんなに甘くない。右に一歩出てハンマーので受けてそのまま無防備な相手の横っ腹を殴り飛ばす。

ドゴォォォア

受け身を取るひまもなく飛ばされた相手は地面に頭から突っ伏して気絶している。

「大丈夫ですか?!」

思わず座っていた椅子から立ち上がる。

「まあ嬢ちゃん心配すんなって っと来たようだ」

白い服に身を包んだ女の人が三人ほど来て挑戦者をちょっと見た後、乱暴に担架に乗せて救護所ではなく休憩所に運んでいった。

「リーダーあれは?」

「救護担当のクラン『白鳥の誓い』のメンバーだな   あそこはメンバーが女だけで光魔法の使い手が多いから毎回救護担当をやってるな     まあ少し乱暴な所が珠に傷といったところだ」

「少しってさっき担架に乗せるとき蹴って乗せてましたよね それに救護所じゃなくて休憩所に運んでましたよ?」

ずいぶんと粗暴な白鳥だな

「まあ気絶しただけだからなあんなもんだろ」

「そういえばリーダー 試験開始直後に倒しちゃっていいんですか? 実力見る時間がないんじゃ」

「いや あれを避けれないならどっちにしろ無理だな  あれをしのいだやつには丁寧に実力を測るがな まあ 千人以上から多くて三十人くらいしかクランには入れないからああでもしないとやってられん   おっ そろそろ嬢ちゃんの出番だぞ」

リーダーがそう言うと同時に試験の終了の鐘が鳴る。

白い線の中に入って次の挑戦者を待つ。

相手は赤毛の槍使いの少年 地球でいうと高校生くらいだろう だ。


ゴーーン

さあ 始まりだ



――――――――――――――――

「ついに来たか」

燃えるような赤色の髪を持つ少年 リックは入団試験の待機場所である宿ファメニアンで小さく呟く。

一流の冒険者に憧れて十二才で村を飛び出て五年近くの街で冒険者をやりながらの道場で鍛えだ。気がつけば街でリックに勝てるものはいなくなっていた。有名クラン合同の入団試験があると師から聞いて二週間かけてようやくたどり着いた。

「札の番号が一番から百番は試験場の入り口まで行ってくれ」

案内係の誘導に従って入り口まで進み、試験用の武器から得意武器の槍を選ぶ。

逸る心を落ち着けている間に開始が宣言され一番から十番の挑戦者が線が引かれた試験場に入って行く。

(俺の番号の十三番はおそらくあそこでやるんだろう)

三番の札を持っていた剣士が向かった方を見ると槌使いが試験官のようだ。

ゴーーン 開始の鐘が鳴った途端に剣士が試験官に飛び掛かったと思った次の瞬間、剣士の体は宙を舞い地面に倒れていた。

剣士が乱暴に運ばれていったところでようやくなにがおこったか分かった。ここからは見えない角度で横凪ぎを決めたのだ。

リックは目を閉じて脳内であの試験官と対峙し、第一陣の試験の終了の鐘が鳴るまでシュミレートをすることにした。


ゴーーン ゴーーン

「そこまで」

第一陣の試験が終わる。


「一の位の番号で一から九までこうなっている 自分のところに急いでくれ」

案内係が掲げる地図を見ると予想どうりさっきの剣士のところだった。緊張する心を抑えつつ小走りに試験場に向かう。

そこにいたのはあの槌使いではなく


綺麗な女の子だった。

銀色に輝く髪を後ろにまとめて金色の瞳をしている。年の頃は少女に成ったばかりといったほどで鎧は着ているものの武器は持っていない。

(本当にこの子が?)

と思ったが考える時間もなく

ゴーーン

開始の鐘が鳴る。

(師匠は確か試験官を務めるのはクランの中でも実力者だと言っていたな)

リックは油断せず槍を構える。

しかし少女は受けの姿勢をとって全く攻めてくる気配がない。

「たあっ」

らちが明かないのでリックの方から少女の右脇腹に軽い突きを放つも滑らかな動きでかわしてしまう。

「それなら」

今度は突きの動作から足を払う動作に繋げるようとするも

パシッ

「えっ」

あっさり少女は槍を掴み

スルッ

リックの手から引っ張り抜く

そして困ったような顔をして足下に槍を投げ返してくる

リックは衝撃だった 今まで自らの突きを見切れる人など師以外一人もいなかった。

(俺の突きをあっさり見切りその上槍まで奪うだと これで終われるかよ)

リックは槍を拾って構え直してそこから連続で突きを繰り出す。

右肩! 背を屈めてかわされる 次は左!

右に一歩動いて避けられる 一歩前に出て右足!  これは足を上げてかわされる

今だ! 

「たぁーー」

体の中心に向かって今日一番の突きを放つ


が次の瞬間、少女は片足で真上に飛び そのまま突きをした後の伸びきった槍の上に着地し

バキッ

その体重と鎧の重さで槍をへし折った。

(そんな バカな    ハハハッ  俺は井の中の蛙だったって訳か)

最後の抵抗と折れた槍を右手で振り下ろすも

バンッ

片手で振り払われ折れた槍は飛ばされてしまう。そのままの勢いで少女の手はリックのアゴにぶつかり

ゴチンッ

そこでリックの意識は途絶えた。

―――――――――――――――


ふうっ 赤毛の少年との試験が終わった。

うっかり攻撃を払ったときにアゴに当てちゃって完全にのびている少年はさっきの挑戦者よりも心持ち丁寧に運ばれていった。

「リーダー どうでした?」

なぜか可哀想なものを見る目をしているリーダーに話しかける。

「おう 嬢ちゃん  初めてにしちゃ上出来だ 挑戦者の方もなかなかの槍捌きだった  最後のカウンターになったのはしょうがない どっちにしろあそこで終わりだっただろうしな」

「あっ そういえば槍折ってすみません」

「ああ そこまで気にしなくていい  槍の上に一瞬立ったときは観客が凄い盛り上がりだったしな」

確かにあのときの歓声はすごかったけど私向けだったのか あれだけ注目されるとちょっと恥ずかしいな

「そういえばこの試験って魔法禁止ですか?」

「いや 確か遠距離魔法は禁止だがそうじゃないのは使えるぞ  ほらっ」

リーダーが指した方に目をやると黄色い鎧を着けた人が地面を少し盛り上がらせて足をとられた冒険者が転んでいた。

「確かに」

「魔法好きのやつらがかなり反対して遠距離まで届くやつのみ禁止になったらしいぞ」

ゴーーン ゴーーン

「おっ そろそろ次が来るな」

そう言ってリーダーは試験場に入っていき

ゴーーン

鐘が鳴ると同時に瞬殺していた。

相変わらず乱暴に運ばれていく挑戦者を背にリーダーが帰ってくる。

「早かったですね」 

「おう 次 嬢ちゃんの番な」

そう言うと座ってエールをグビッと一杯あおる。試験中に酒のんでいいのか?

リーダーをぼんやり眺めていると再び鐘がなり 次の挑戦者がやって来る。

ハンマーを担いで筋肉質で年はおそらくさっきの少年とそう変わらないように見えるが体格が彼を少年と呼ばせることを拒んでいるといった感じだ。

試験場に進み出て対峙する。

ゴーーン

一瞬の静寂の後、挑戦者が動き出す。

まずはおそらく様子見であろう振り下ろし、これは一歩下がってかわす。

次に来るのは一歩踏み込んだアッパーこれは大きく横に跳んで間合いを取る。

よし ちょっと試してみよう。

「アイスキューブ」

一辺が腰の高さほどもあるブロック状の氷を産み出して足場にする。

「アイスキューブ」「アイスキューブ」

挑戦者がそれほど素早くないのを利用して攻撃を避けながら試験場内に氷のブロックを置いていく。

「うおぉぉお」

氷の上に立った私を目掛けた振り下ろしは私がその直前にジャンプしたことで氷に当たる。薄い氷で作られたブロックは粉々に砕けて挑戦者の視界を奪う。

私はというと挑戦者の肩に両足を乗せて着地する がその勢いでそのまま蹴り倒すかたちになってしまい、後頭部から倒れた挑戦者は気絶してしまった。

「あー 嬢ちゃん 嬢ちゃんは次から魔法無しな   それから残った氷をなんとかしてくれ」

「はーい   ファイアーボール」

何度かファイアーボールを飛ばして氷を全て蒸発させる。

魔法も禁止かー  観客の方からは随分と歓声が上がってたんたけどなぁ




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