第10話  練習そして準備

翌日、私は木剣を持ってハンマーを担いだリーダーと向かいあっていた。

「いくぞ」

「はいっ」

リーダーは大振りでそれでいて隙のない動作で横凪ぎを払ってくる。一歩後ろに下がってかわして鋭く突きを入れる   がリーダーはハンマーの柄でそれを弾き今度は下からアッパーを放つ。大きく後ろに跳んでよけ、仕切り直しにする。

「とりゃぁーー」

リーダーが叫びながらハンマーを上から振り下ろしてくる。

「たぁー」

やや気迫がないがこっちもおもいっきり叩きつけるように剣を振る。

バキッッ ドカッッ ドゴォォォッ

「うぉぉっ」

まず剣と槌がぶつかって剣が折れ、槌と私の手がぶつかって槌が壊れ、その勢いでリーダーを殴り飛ばしてしまった。

うーん 武器を持つ意味があるのだろうか。

「ヒール」

痛そうにしているリーダーに光魔法をかけて助け起こす。

「おおっ 嬢ちゃん光魔法も使えたのか    ……というか骨折がただのヒールで治るのか?まあ嬢ちゃんだしな」

なにかブツブツ言っているがどうやら大丈夫そうなので折れた剣とハンマーに意識を移す。剣のほうは柄から刃の三分の一のところでボッキリ折れている。ハンマーのほうはもっと酷く柄もそうだが槌の膨らんでる部分も割れ布が裂けている。どうやら柄が折れた後に右足で蹴飛ばしたことで割れたようだ。

「固いものほど折れやすいとはまさにこのことですね」

「そんなわけあるか!!」

さすがにツッコミが入った。

「うわー こりゃ修理は無理だな さすが嬢ちゃん  先に模擬戦の練習してよかったぜ」

「もしかしてこれ試験で使うんですか?」

「いや まあ たくさん予備があるからそっちはそこまで心配しなくていい   まあ念のためギルドから借りる算段はつけとくがな」

リーダーはどこかあきらめた目になっている

「問題は嬢ちゃん自身のことだ」

「私自身ですか?」

そんなこと言われてもなあ

「頑丈な俺ですら力のこもってないパンチであれだ  いくら死んでも文句は言わない旨を誓わせると言っても死体の山を築いたらさすがに問題になるぞ」

「うっ」

確かに手加減というのがよく分からない

「普通強いやつほど手加減も上手いから入団試験は強いやつがやることになってるんだがな ………しょうがない 嬢ちゃんは武器なしで相手への攻撃無しだ」

「はぁーい」

それは試験として成立するのか?




    








その日と次の日は午前中はリーダーと試験の模擬戦の練習をしてその他の時間は自室でゆっくり過ごした。おかげで体のだるさも取れた。やっぱりかぜだったのかな。


ということで今日は試験の会場の準備をしに修練場に来ていた。

修練場は街の外れの方にあり広さはサッカーコート三枚分ほどでかなり広い。敷地の一方は水路でその側に煉瓦の建物が建っている。あれが地図にあった倉庫兼管理事務所か。修練場の三割ほどは魔法や弓用の遠距離練習の施設で弓道部にありそうな的が置いてある。修練場の一辺は土が土手や堤防のように盛られていて今回はそこを観客に解放するそうだ。真ん中には資材として木材や布なんかが積んである。

「熊のやつらはまだ来てないようだな………なんて言ってると来たようだ」

リーダーが見ている方向に目を向けると遠目でもわかる巨体が二十体ほど歩いてくる。


「おうステラー ひさしぶりだな」

リーダーが巨体集団の先頭に声をかける。よくみると巨体集団は全員右腕に熊の刺青をしている。

「三十日ぷりくらいか」

「そんぐらいだな」

「そんなことより聞いたぞ お前のとこの新人 ブラッドベアーを斬ったって」

「おう ちょうど紹介しようとしていたところだ 嬢ちゃん」

リーダーに手招きされてステラーさんに挨拶をする。

「あたらしくクラン『龍の巣』に入ったリリーと言います よろしくお願いします」

「なかなかできた娘じゃねえか      俺はステラー  『熊の豪腕』っつうクランのリーダーをやってるもんだ よろしく」

そう言ってステラーさんはクランの名にふさわしいような太い腕を差し出してくる。

「しっかし こんなかわらしい娘がブラッドベアーを倒すとは  見掛けによらんな」

私の腕を握ってブンブン振る。

「ブラッドベアーならうちでのポイントで六十ポイントだ」

「おいステラーお前んとこの変な風習を嬢ちゃんに植え付けんな」

話を聞くとどうやら『熊の豪腕』では熊系統の魔物を倒す度にポイントを与えられそれが一番多い人がリーダーになるそうだ。

それを定めた人はよっぽど熊が好きなのかもしくは恨みがあったんだろう。




話し合いの結果近距離戦闘の準備は『龍の巣うち』がやることになり遠距離の方を『熊の豪腕』がやることになった。


「それはそっちに置いてー」

「はーい」

私は今修練場の端で救護所の組み立てを行ってる。

「ベッドはあっちに二つ 入り口にはイスを二つね」

マリナさんの指示で家具を運び込んでひとまず完成だ。


「リーダー あっちは終わりました」

「おう 早かったな  線引きはこっちも終わったから遠距離戦闘と近距離戦闘の試験の間の休憩所の方にいってくれるか」

「はいっ」

修練場の中央をみると朝に資材があった所には白い線で十個の枠が描かれている。それを横目に見ながら言われた所に向かう。


「あっ リリーちゃん あっちはもう終わったの?」

ミーナさんは大きな布を持って尋ねてくる。

「はいっ リーダーからこっちを手伝うように言われました」

「早かったわね じゃあ屋根つけるの手伝ってくれる?」

「分かりました」

どうやら四本の柱に布の屋根を付けて休憩所にするみたいだ。布の一方を持って柱に紐でくくりつけようとする

が近くの石の上に立っても身長が少し足りない。なんとか精一杯背伸びをして

「できた!」

ミーナさんの方をみると頑張ってる小さい子を見るような目をしていた。

小さい身長が恨めしい…


その後作業は順調に進み夕方までには全ての準備が整った。

ホームに帰って明日についてのミーティングを行う。

「まずは参加者の数だが1300人くらい  例年通りだな」

リーダーがニックさんから受け取って紙を見ながら話す。

「まず試験官は俺と嬢ちゃん」

「はいっ」

「マリナとフランツは救護所」

「分かりました」「了解です」

そういえばフランツさんは光にある程度適性があるって言ってたっけ

「休憩所はドーラ」

「任せときな」

「レイン お前は武器の貸し出しを纏めてくれ」

「了解だ」

「ミーナとヨーゼフは待機場所での態度でダメなやつを洗い出してくれ」

「はい」

「ニックは近距離、アルノルトは遠距離戦闘の評価を何人かでやってくれ」

「了解」「了解した」

リーダーがアルノルトさんに挑戦者のリストを渡してミーティングは終わった。








翌日、日がのぼる前に木剣や木の槍を手押し車に積んで修練場に向かう。

修練場の前までくると待機場所になっている宿の前はすでに混雑していた。

「あれっ 宿が二つもありますね」

同じような煉瓦造りの建物が二つ、そしてどちらも混雑している

「ああ それね  あの二つの宿はフラスニアンとファメニアンっていって場所が近くて名前も似ているからライバル視しちゃって片方だけだ使うとうるさいから両方使うことにしてるのよ」

「なるほど」

「じゃあリリーちゃん 私はフラスニアンの方担当だから リリーちゃんも試験官頑張ってね」

「はいっ ミーナさんも頑張って下さい」

言うや否やミーナさんはさっと人混みの中に紛れていってしまった。



木の武器をレインさんに渡してクランごとに割り当てられた場所に行くとすでにドーラさんがむしろのようなものをひいていた。

「リリーちゃん 今のうちに食べときな」

「ありがとうございます」

そう言ってドーラさんからサンドイッチを受け取って休憩する。特に仕事が無いらしいヴォルフさんは相変わらずお酒が好きなようで早速飲みはじめている。

クランの席の後ろには観客が見れる場所がありぞろぞろ人が集まり始めその向こう側では屋台が準備を始めている。




休憩しているうちに他のクランらしき人がだんだんやって来る。

あっ 『熊の豪腕』だ 

他にも女性だけのクランや全身真っ赤な装備をしているクランもある。赤い人たちはおそらく『炎の結晶』だろう。ミーナさんが昔の火、水、風、土の魔法の道場がそれぞれ『炎の結晶』『青の激流』『疾風の刃』『最硬の槍』というクランになったと話していた。


「おーい 嬢ちゃん ちょっと来てくれ」

周りを見ているうちにリーダーに呼ばれる。どうやら各クランの試験官担当の顔合わせのようだ。



リーダーの所に行くと二十人ほどが集まっていた。

「おう 紹介しよう うちの新入りのリリーだ」

「リリーと言います よろしくお願いします」

リーダーに言われるがままに挨拶する。

「『獅子の大鎌』のリーダーのラサラスという  今回の近距離戦闘の試験官のまとめ役をやっている」

「よろしくお願いします」

ラサラスさんは四十代半ばの筋肉質な体で槍使いのようだ。

「全員を紹介しておきたいが生憎時間がない    あと少しで始まるから各自所定の場所についてくれ」

「「「了解!」」」



リーダーに連れられて線で描かれた長方形のうちの一つに向かう。

試合場の横には椅子と飲み物が置いてあるので開始までそこに腰かけて待つ。

「試験は来た相手を俺と嬢ちゃんで交互にやることになる  こないだ言ったように素手で嬢ちゃん側からの攻撃は無しだ   試験の開始と終了は鐘が鳴るからそれに従ってくれ」

「分かりました」

ふと周りを見渡すと少し離れた所に身長の倍ほどの高さの見張り台のようなものがあり、そこに各クランの評価担当が登っている。

一般の観客も大勢集まっており会場の熱気が徐々に高まっていくのがわかる。


リーダーもなんだか落ち着かないのかハンマーを振り回して体を慣らしているようだ。


なんだか運動会みたいで楽しみだ。

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