第9話  蛇そして帰還

あとあとグレイウルフを倒すこと二時間でグレイウルフはあらかた討伐されたようなのでここから第二キャンプを起点に南北の掃討にうつる。一方私は南北に歩きやすい道作りが仕事だ。なんでも道があると魔物は増えにくく討伐もしやすいということらしい。

「ファイアー」

またひとつ切り株を燃やす

スパッ

バコッ

「ファイアー」


いい加減飽きてきた。なにしろ朝からもう10キロは道を作っている。愚痴を言っても始まらないので

ドゴッ  バキバキ

邪魔な木を蹴り倒す

おっ これ楽だなあ

剣をしまって木を蹴り折り、両手で切り株を叩き潰す。

いや やっぱりめんどくさい 誰も見てないしやっちゃうか

「アイースカッターー」

力を込めて普段より数倍大きい氷の刃を地面すれすれに飛ばす。

木が次々根本からはねられていく。これは楽だし気持ちいい

「ファイアーボール  ファイアーボール」

前方に適当に火球を飛ばして切れた木を燃やす。やっぱり魔法って楽しー

ガサッ

んっ なんだろうあの白いの

と思ったら

シャーーー

胴体の太さが一メートルちかくある白い巨大な蛇だった。 これがリーダーの言っていたグレートスネークってやつか

「っ うわっ」

巨体に関わらず動きが素早い。叩きつけてきた尻尾をジャンプで回避する。しかし体が大きいというのは的が大きいということでもある。

「アイスエッジ」

胴体の中央に食い込むが皮膚を傷つけただけで終わる。

クシャーーー

音をたてながら口を大きく開けて正面から突撃してくる。

「アイスランス」

その開いた口めがけて放つが蛇は体をひねり顔のすぐ後ろの胴体に刺さる。

シャーー

しかし勢いは止められず正面から突進を受ける。

ドゴォォォォン  バキッ ボキッ ドンッ

吹っ飛ばされた体は木をへし折りながらようやく止まる。やはり近距離は分が悪い。

「トウッ」

素早く木に登り枝を飛びうつる。蛇は私のいる木を攻撃して振り落とそうと試みるがその前に違う木に移動つつ攻撃する。

「ウォータービーム」

バキッ

「ウォーターボール」

ドカッ

「ウォーターボール」

ブンッ  バキッ バキバキ

「うわっと」

蛇はその長い尻尾で何本かまとめて木を叩き折る。

「ウォーター」

しかしこっちも負けてない。かわしながら蛇にひたすら水をぶっかける。


「そろそろいいか」

集中する時間をとるために少し急いで森の奥に向かって木を跳んで渡る。

「はぁぁぁあーー  アイスボーーール」

あらんかぎりの力を込めて凝縮された冷気の球を射ち出す。



ボスッ


気の抜けたような音を立てて蛇の腹に当たっる

バキバキバキッ ビキビキッ 

シャーー

一瞬にして蛇の体が完全に凍り付き動けなくなる。蛇は舌を出して威嚇してくるがもはやまな板の上の鯉だ。


木から飛び降りて蛇の真横までいき剣を抜いて止めを刺す。

ふぅーー  やっと終わった。

ドクドクと流れる血の川を見ながら考える。

ところでこの蛇どうしよう









 あのあと戦いの音を聞いて集まってきたリーダーたちに事情を話して解体してもらい開拓村まで一日まるまるかけて運んだ。何でもホワイトグレートスネークという珍しいやつだったらしくクランメンバーを始め開拓村の役人のギリアム様にも滅茶苦茶驚かれた。リーダーはまあ嬢ちゃんだからなとか言って納得してたが

 それより問題なのだがあれから何となく体がだるいのだ。どこがという具体的なものではなく動かすのが少し億劫になるだけなのでそこまで支障があるわけではない。ドラゴンも風邪引くのかな?






 翌日、開拓村周辺の掃討は一通り終わったので街への帰路に着く。行きに持ってきた物資はほとんど使ったかもしくは売り払い今はその代わりに大量の魔物の毛皮や肉が満載されている。隘路を越えて川を通りすぎしばらくすると街が見えてくる。

「何だか久し振りな気がします」

「そうね リリーちゃんがこのクランに入ってからまだ十日くらいしかたってないものね  そのうち七日間も遠征に行ってたら無理もないわ」

いっしょに荷車を押すミーナさんに言われて両親のもとを離れてまだ十日しかたってないことを思い出す。

「そういえばそうですね」



そうこう話ながら門の中に入ると何だかいつもより賑やかだった。

「何だか賑やかですね」

「そりゃそうよ もうすぐ入団試験やるんだからあっちこっちから冒険者が集まって来るのよ」

ミーナさんは興奮気味だ。

なんでもクランの入団試験を一斉にやるので他の街からも冒険者が集まり一種のお祭りのような感じになるらしい。どこかのクランに入るために入団試験から入団試験にわたり歩く人も結構多いんだとか。さらに冒険者が増えることを予想してやってくる商人やその護衛、情報交換にくる他の街のクランの人とかが集まってくるという図式で賑わうのだそうだ。


 取り合えず大八車をギルドまで持っていって後をリーダーたちに任せてホームに帰る。「帰る」か。気づかないうちにすっかり家だと認識しているなぁ。

「ただいま帰りました ニックさん」








 夕方、夕食を食べながらミーティングだ。

ギルドから帰ってきたリーダーが報告する。

「やたら人が多かったから順番待ちに時間がかかったがギルドでの処理はすぐ終わった。その帰りに一応報告のために男爵様のところによったんだがホワイトグレートスネークのことを話すと是非頭の部分を買い取りたいと言うんで売ってきた。嬢ちゃん、ほれっ」

リーダーが懐から取り出した袋を私に投げる。受け取った袋をあけると

「金貨?」

「ああ ホワイトグレートスネークの頭を売った代金だ。」

えっ でも

「クラン全体の依頼の途中の収入は全部クランの設備とかに使うんじゃ」

「あー そうなってるんだけどさすがに今回の嬢ちゃんに何にもなしってのは 特に蛇は一人でぶっ倒したからな  まあ受け取っておいてくれ」

リーダーは少し困ったように頭を掻く

まあそこまで言われるならあって困るものじゃないし

「分かりました」


「おしっ じゃあ遠征のことは一先ず置いといて入団試験のほうだな ニック 頼む」

「了解    入団試験は四日後にいつもの修練場で十クラン合同で行われることになった    うちはここだな」

そう言ってニックさんは懐から紙を取り出して広げる。どうやら修練場の地図のようでその一角が赤く塗られていた。

「挑戦者はこっちから入ってきてここで順番に戦ってもらう」

そう言って地図の真ん中を指す。

「でここが観客席って感じだ  他の小さなクランやパーティーの相手を探しているやつなんかで溢れてると思って欲しい」

ニックさんは地図の一辺をなぞって示す

「挑戦者の待機場所はどこだ?」

「いつもの通り向かいの宿を貸しきる予定になる」

「じゃあミーナとヨーゼフはそっちだな」

「「了解です」えふ」

ミーナさんは口に食べ物が詰まっている

「あの 待機場所でなにするんですか?」

「ああ 強さは試験で見れるけど性格は見にくいからな わざわざ過密気味な待機場所を作ってどう行動するかで見るんだよ」

「なるほど」

始まる前から見られてるってことか

「そうだ ニック うちの割り当ては?」

「前日に熊んとこと一緒に会場設営だ」

「よしっ 嬢ちゃんはこのあと裏に来てくれ  他はニックから会場設営の説明を聞いといてくれ」

「分かりました」

そう言ってミーティング兼夕食が終わり言われたとおりにホームの裏に行く。






裏にはバスケットコートほどの広さの空き地があり普段のちょっとした訓練なんかに使われている。

「おう 嬢ちゃん こっちだ」

大きな木箱の前でリーダーが手招きする。

近づいてみると箱の中身は訓練ようの武器だとわかる。先が丸くなっている木の槍、同じく木剣、矢、それから布でおおわれた

「ハンマー?」

「おう よくわかったな」 

リーダーが嬉しそうに笑う

「これを試験の時に?」

「そうだ 嬢ちゃんはどれにする? ちなみに俺はこのハンマーだ」

リーダーは満面の笑みでハンマーを肩に担ぐ

「うーん 普通に木剣ですかね」

箱から取り出すと思ったより重かった。

「意外と重いんですね?」

「この武器は全部シクイアっていう固くて重い木から出来てるからな  ちなみにこのハンマーもそれで作ったんだが入団試験で怪我するやつがあまりにも多いってことでニックに布を被せられてな」

ハンマーで固くて重いってそもそも模造武器の意味ないんじゃ

「リーダーはハンマーを使うんですか?」

遠征に行くときは剣だったし最初に会ったときもハンマーは持っていなかった。

「そういや嬢ちゃんの前では使ったことなかったな    遠くに行くときはあんまり使わんが俺の一番好きな武器はこれだぞ   ちなみにホームの入り口の横に置いてあるのが俺のハンマーだ」

そういえば確かにあった 置物だと思っていたけどリーダーのだったのか

「というわけで明日から模擬戦の練習ってことでよろしくな」

「はいっ」



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