第5話 ギルドそして狼
次の日は朝からミーナさんとギルドに来ていた。
「うわぁー 人がいっぱいですね」
「朝はみんなが見に来るから混むのよ」
「うーん 今日はこれ辺りかしらね」
「グレイウルフの群れですか?」
「うん これは受付でうける必要がない討伐だから 場所は北門から出て北東の森の浅いところね」
「それにしましょう」
「このあたりは道が歩きにくいですね」
北門から出て北東に向かう道を歩く ミーナさんと交互に物資運搬用の大八車を押す
「通る人も少ないしね 確かあっちに開拓村を作るからそのために作った道だって言ってたよ」
「へぇー 開拓村ですか」
少し歩くと川が見えてきた
「ここから道を外れて川を上流に向かって歩くよ」
「この森だね」
街から早足で歩いて三時間ようやく目的の森に着く。森の入り口に大八車を止めて森のなかで適した場所を探す。
「このあたりはどうですか?」
すこし開けていて戦闘しやすそうな場所を見つける
「そうね じゃあこれをっと」
ミーナさんが背中から肉の固まりを取り出す
「ゴブリンの肉よ 人には不味すぎて食べれないけど グレイウルフよせには使えるわ あっ リリーちゃん火って使える?」
「あっはい ファイアー これでいいですか」
ゴブリンの肉をあぶって匂いを強める。
「おおー リリーちゃん 火も発動早いねえ それじゃ 気付かれないようにちょっと離れて木の上で待とう」
ものの十五分もすると森の奥から吠え声が聞こえてくる。
「あっ ミー」「しっ ここが大事よ」
どうやら5頭の群れのようだ。
すこしづつ警戒しつつ近づいていく。1頭が前にでて周りになにもいないのを確かめてから肉にかじりつく。それを見た残りの四頭も肉にかじりつく。
「リリーちゃん いくよっ」
「はいっ」
ミーナさんの合図で飛び降りて剣を抜きそのまま右端のグレイウルフの首を斬る。ミーナさんのほうを見ると左端を倒したようだ。すぐさま次のグレイウルフを突き殺し飛び掛かってきたもう1頭を蹴り飛ばして止めをさす。ミーナさんは最後の一頭に剣を投げつけて足を止めて右の腰に差してある短剣で首をかっ切った。
なんかかっこいいな
「よし これ普通は四人向けのやつなんだけどリリーちゃんがいると楽ね」
「ミーナさんもかっこよかったですよ」
「そういってくれると嬉しいわ まずは血抜きね そっちの二頭は首落としてあの枝に頭を下にして掛けてね」
スパンッ スパンッ
よいしょっと
「そういえば最初 木の上に隠れてましたけどグレイウルフって臆病なんですか?」
「そうね 人間を見るとすぐに逃げるから餌を使わずに狩るのは結構大変よ でもグレイウルフは一度自分たちの餌になったものにはすごく執着するから今回みたいに肉にかじりついてから現れるとほとんど逃げないわ そういう意味でも餌を使うのはかなり効率的よ あっそれから人を怖れなくなるのはもうひとつあってそれが同じグレイウルフの血の匂いを嗅いだときね」
「えっ でもミーナさん それってここで血抜きしたら」
そこまで言ったときにすでに10頭ほどのグレイウルフに囲まれていた。
「しまった ちょっと不味いわね」
「ミーナさんはあっちの二体を残りは私が」
「いやでも いや お願いするわ」
「任されました アイスシャワー」
毛皮がボロボロになるかも知れないがしょうがない。細かい氷の破片は右側のグレイウルフの命を瞬く間に奪う。グレイウルフは驚きながらも一斉に飛び掛かってくる。剣を投げつけて真ん中のウルフの眉間に突き刺す。残りの二体を両手でそれぞれ掴み、頭同士を力任せにぶつけて絶命させる。
「ミーナさん」
「こっちも終わったわ」
「これどうします」
「取り敢えずここから移動しましょ」
最初に血抜きした五体ともう二体を持って森の外に出る。川に血を流して血抜きを終わらせる。
「そろそろお腹減ったよね」
「はいっ」
「解体は後にしてお昼にしよう」
大八車に積んでいた箱から肉の挟まったサンドイッチを取り出す。
「「いただきます」」
カブリッ
「おいしい!」
「それは良かった ドーラさんも喜ぶわ」
「あとでお礼を言っておきます」
サンドイッチを数分で食べ終わるといよいよ解体に入る。グレイウルフは魔石と毛皮を切り出せば良いので解体といっても初心者向けだ。そこまで考えてこれを選んでくれたミーナさんには頭があがらない。
魔石を袋に入れて皮は大八車に乗せる。
結局ミーナさんが五体やる間に二体しか出来なかった。思ったより難しかった。
「そんな顔しないでリリーちゃん 初めてでこれなら十分だよ」
「ありがとうございます」
と言ったその時
「うわぁー」と言う声とともに六人の冒険者が森から飛び出してきた。その後ろから8頭のグレイウルフが飛び出してきた。
「助けは要る?」
ミーナさんが叫ぶ。
「たっ頼む 助けてくれ」
「おいヘクター」
「リーダーは俺だ 今は従ってもらう」
「了解した では」
「俺はしてないぞ 獲物を横取りするな」
「ミーナさん」
「無視よ リーダーがああ言ったから問題ないわ いくよ 右は頼むね」
「はいっ」
剣を抜いて群の中央に突っ込むと首を二体切り飛ばし
「アイスランス」
残りは魔法でまとめて串刺しにする
さすがに3回目にもなるとなれたな
「おい それは俺たちの獲物だぞ」
六人組はみんな十五六の駆け出しのようだ。
「ヘクター 止めろ」
「アールお前はいいのかよ」
そういうのを目の前でやるのはやめてほしい
そして赤い顔してこっちを見つめる残り四人もやめてほしい。
「とりに戻るっていったって場所はわかるのかよ」
「夢中で逃げたからわかるわけないだろ」
「それでもリーダーかよ」
「なんだと」
血抜きが終わり解体までやってもまだもめている。どうやら森の中で解体していたときにグレイウルフに襲われ剣や槍をほっぽり出して逃げてきてしまったのでそれをとりにいくか行かないかで迷っているようだ。
「関わっても面倒だからさっさと帰りましょうかリリーちゃん」
ミーナさんが小声で言う。
「そうですね」
ガタンッ
しかし荷物の乗った大八車は石に引っ掛かって大きな音をたてる。
「あっ なに逃げようとしてるんだ」
うわっ 面倒くさい
「その三つは俺たちのだから置いていけよ」
「ヘクター いい加減にしろ」
「いいだろ あんだけあるんだから ちょっとぐらいよこせよ」
そういって大八車に手を伸ばす
ミーナさんに目で合図を送ると許可が出たので手をはたき落としたあとアゴにアッパーをぶちこむ。相当手加減はしたが気絶したらしい。全く面倒なやつだ。
「あっあの 一緒に取りに帰ってくれませんか?」
「は?」ミーナさんとは思えないほど低い声だ
「あっあの 僕達森の中に」
「冗談はほどほどにして 助けてもらっておいて礼のひとつもなく?何の対価も示さずに何て虫がよすぎるわ 行きましょリリーちゃん」
わー ミーナさん怒ってる
「まったく なってないわね」
ミーナさんが怒るのは無理もない。冒険者ギルドでの規則では助けを求められてそれに応じたらその時点で獲物は助けに入った人のものになる。さらに今回の場合討伐を受けていくものではないので、獲物の占有権はない。
それにグレイウルフを引き付けたまま森の外に出てくるのはあまり誉められたことではない。おまけに礼も言わずに自分勝手な主張ばかりだ。これがクランメンバーやせめて知り合いなら貸しひとつねと言って助けるところだが今回は赤の他人だ。助ける理由はない。
「まっ これ以上言ってもしょうがないか 取り敢えずギルドに持っていくわよ」
「はいっ」
ギルドに着くとどこもいっぱいになっていた。
「うわぁ いっぱいですね」
「しょうがないか どっちにしろ魔石だけ売って毛皮はエングラーさんとこに持ってくから受付にだけいくわ 混んでるのは買い取りの方だからちょっと待っててね」
「はいっ」
そう言うとミーナさんは人混みの中に入っていった。
「おいっ そこのおまえ」
「聞いてるのか おまえだよおまえ」
横から聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったらヘクターと呼ばれていた少年だった。無視してもめんどくさそうだから相手するか。
「何か用?」
「俺たちの獲物を横取りしたんだから返せよ おらっ」
そういって剣を抜いて斬りかかってくる。
アホすぎる
仕方がないのでこっちも剣を抜いて受け止めるが
バキッ
質の悪い剣だったらしく当たったところからボッキリ折れた
「ああっ 俺の予備の剣まで」
「あれっ 嬢ちゃんじゃねえか どうした?」
「あっ リーダー 実はですね……………………………………………………………ということでして」
ヘクターを押さえつけながら事情を話す。
「おう それは災難だったな」
「どこだっ」
誰かが呼んでくれたのか衛兵が駆けつけてくる。リーダーが説明してくれて回りの人の証言もあって私にはお咎めはなく、ヘクター少年は引っ立てられていった。
「彼どうなるんでしょう?」
「そうだなあ あの様子じゃクランにも入ってなさそうだし知り合いも少なそう おまけに金もなさそうとなると鉱山奴隷か死刑ってところだな」
「そんなもんですかねー」
まあこの時代の感じだとそんな感じか
というか武器の所持がこんなに簡単だからこその厳罰化かもしれないけど
「ところでリーダーはどうしてここに?」
「ああ そろそろ入団試験をやるから良さそうなヤツがいるかどうか見に来てたってところだな 試験じゃ腕は見れるがそれ以外は難しいからな 日頃からちょくちょく見に来てるってことだ」
「なるほど」
「そうだ 試験だが 嬢ちゃんも手伝ってくれねえか?」
「もちろんです 何をすれば?」
「対人戦闘の相手役をやって欲しい あっ でもケガぐらいならいいが殺しはするなよ」
「さすがに手加減しますって」
「頼むぞ」
大丈夫だと思うんだけどなあ
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