第2話  旅立ちそして初戦闘

二時間ほど西に飛んでどこかの山の頂上に降りる。

「じゃあ リリーちゃん」

人の姿をとった母さんと抱き合ってからしばらくの別れを告げる。

「じゃあね 何かあったらいつでも帰ってくるのよ」

「わかった じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

そう言うと母さんは再び龍になって空に飛び立った。夜空に消えていく桃色のドラゴンを見送るってから気づいた。どっちにいけばいいか聞いてなかった!!






結局 夜が開けるまでライトの魔法で人間界の本を読むことにした。

「魔法の基本か これにするか」

なになに

「魔法には制御できる範囲がありだいたい胸から一メートル以内です。この外では魔法で効果を出すことが出来ません。なのでその範囲の中で火球を加速させて打ち出すことで攻撃します。」

なるほど相手の顔を水で覆って溺死っていうのは無理なのか

「魔法には生まれつきの適性があり人によって習熟度に差は有りますが訓練によって適性が低い魔法も使えるようになります。また適性に関わらずほとんどの人が使える魔法を生活魔法と呼んで区別します」

「魔法の呪文はいくつかの要素を集めて意味のあるものになります。例えば火球では まず火を発生させる呪文、それを集めて球にする呪文、加速して飛ばす呪文に分けられそれらを連続して唱えることで魔法を発動します。慣れてくると小声で唱えて発動させることができ小詠唱もしくは無詠唱魔法と呼ばれます」

なるほど じゃあ私はここで言う無詠唱で使ってることにすればいいわけか


そこまで読んだところで夜が明けてきた。眼下には森が広がり南の方に街らしきものが見える。取り敢えずあそこを目指すか。


山の斜面を下り始めるとすぐに鬱蒼とした森

に入る。下草が多く進みづらい。

「えーい 邪魔だ」

本を読んでいるときから思っていたが鎧の頭部が視界を狭めてうっとおしい。脱いで背中の袋に入れて森を歩く。

ヒュッと視界の端を何かが横切る。

目を向けて見ると一本の角の生えたウサギがいた。そういえば人の姿になってから何も食べてないな。ちょうどいいはじめての狩といきますか。

剣を抜いて右手で持ったところでウサギが気付かれて逃げはじめる。

「待てっ」

紳士な柔道選手と違いウサギは止まらない。強い脚力を活かして飛ぶように逃げる。こっちも負けじと邪魔な下草を剣ではらいながら追いかける。五分ほどの競走の末、ついに岩の前にウサギを追い詰める。

「トリャァー」

素人くさい掛け声をあげながら速さだけは一流の突きが放たれる

が 杜撰なコントロールのせいで剣はウサギのすぐ横に突き刺さる。その隙をついてウサギは逃げようとする。

しまった。また追いかけっこか

あっ そうだ

「アイスエッジ」

左手から放たれた鋭い氷の固まりは逃げようとしていたウサギの首と胴体を永遠に分かちた。



「あー なんで魔法のことを忘れていたんだろう。」

火の魔法で焼いた肉にかぶりつきながらぼやく。

慣れない剣より龍のときにも練習した魔法のほうが正確なのは当たり前だ。

「だいぶ歩きやすくなってきたな」

下草や藪が減って獣道らしき道が出来ている。




「ギャッ」

「ギャグダバギ」

突然後ろから鳴き声がした。慌てて振り替えると木の棒を持った全身緑色の小人のような生き物、ゴブリンが三匹現れた。

「「「ギャッー」」」

三匹同時に殴り掛かってくる。

食べていたウサギの肉を投げ捨て剣を抜いて身構える。まずは一番左のゴブリンの棍棒を左手で掴んで受けとめ、右手の剣を残り二匹をに向かって水平に振る。

バシッ バシッ 二匹のゴブリンの首をあっさりとはねて、

「アイスエッジ」

氷の刃で最後の一体の首を飛ばす。

「ふぅ」

夢中だったせいかそれともこの体になったからか、ゴブリンを倒したことにほとんど罪悪感は感じなかった。




「ウォーター  それから ドライ」

体にかかった血を洗い流して鎧を着たまま乾かす。やっぱ魔法って便利だな。

「さてと 魔物の体には魔石があって肥料やポーションなんかに使われるから売れるって父さんが言ってたっけ」

魔石は胸にあるとのことで三匹の胸を開いて魔石を取り出す。思ったより手こずって三十分もかかってしまった。

「ウォーター」

魔石を水で洗ってから腰に下げた袋に入れる。

「ファイアー」

死体をきれいさっぱり火で焼いて再び歩き出す。

しばらくいくと歩き難そうな急な斜面になった。

「うーん  左から回れば歩いて行けそうだけど 折角だから」




「ヤッホーー」

近くにあった太い木を切って丸太を切り出しそれにまたがって急な斜面を滑り降りる。


しばらく滑っていると突然森が開けて平らになっており

ガガガガッ と音をたてて丸太は止まってしまった。

辺りを見回して見ると





右も左もゴブリンだらけだった。






全方位から迫ってくるゴブリンを待つのではなく、こちらから突っ込む。狭いと取り回しのしにくい剣は腰に下げたままで 魔法と拳で立ち向かう。

「アイスエッジ」

火や水より氷のほうが慣れているのか適性なのか発動は速い。氷の刃はゴブリンの群れの中で少し大きいゴブリンソルジャーと呼ばれるゴブリンの頭の半分を吹き飛ばす。それに驚いてよそ見をしたゴブリンに右の拳を叩き込む。頭が胴体から離れて吹っ飛び拳はかえり血がべっとりついているが、構わず近づいてきたもう一体の腹を蹴り飛ばす。

ヒュン と飛んできた矢を叩き落とし、次の矢がくる前に矢を放ったゴブリンアーチャー目掛け近くにいたゴブリンの首元を掴んで投げると頭からぶつかりあって絶命する。

「ええいっ らちが明かない」

どうやらゴブリンの群れの一番真ん中にボスらしき個体がいるようだ。

腰の剣を抜きそのまま近くのゴブリンの胴体を真っ二つにする。そのままボスを目掛けてゴブリンを切り伏せながらも道を開く。さすがに龍の鱗でできた剣だ。切れ味が全く落ちない。

しかし切っても切ってもゴブリンは減らずなかなかボスに近づけない。

「とりゃっ」

地面を蹴りあげ跳びあがりゴブリンの頭を上から踏みつけて潰す。そのまま次々ゴブリンの頭を足場にボスに向かって走る。突然のことでボスは狼狽してる。これならこの距離なら外さない

「アイスランス」

アイスエッジより一回り大きな槍がボスの腹に突き刺さる。

「グギャァァァァア」

ボスが槍を抜こうと手を武器から離した瞬間、剣がボスの首をはねる。



ボスを失った群れは混乱しつつも私がきたほうとは逆側に逃げはじめる。そうなると一方的だ。私は剣で逃げるゴブリンの首をひたすら飛ばす。群れの先頭がもう少しで開けたところから森の中に入ろうとした瞬間。矢が飛んできて先頭のゴブリンが倒れる。



「だれだか知らんが助力する」

低い声からして男だろうか。

ともかく全滅させるには手を借りたほうがいいだろう。

「わかった 頼む」

「よしっ お前らいくぞ!」

その声と同時に森の向こうから三十人ほどの集団が現れる。五人ほどが弓、十人ほどが抜いた剣残りが槍を持っている。

逃げたゴブリンを槍が正面から突き討ち漏らしを剣がさらには弓が撃ち抜き瞬く間に死体を量産していく。

「負けてられないな」

小さく呟いてゴブリンを倒すのに集中する。


一時間も経たないうちにゴブリンは全滅した。

リーダーらしき男が近づいてきて一言

「嬢ちゃん あんた何者だ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



その男クラン「龍の巣」のリーダーをつとめるケインはギルドの魔物の情報を見て頭を悩ませていた。

ギルド 冒険者ギルド とは冒険者の組合のようなものである。ギルドは魔物の情報を集めてボードに張り出す。冒険者はそれを選んで討伐しその魔物の素材をギルドに売って生活する。基本的に依頼料は発生しないが素材が売れず、そのわりに手こずる魔物は誰も討伐しないので領主やギルドが報酬金をつけたりする。このゴブリンの群れの討伐もそのひとつだった。

「ニックお前はどう思う?」

そばにいる長年の戦友に意見を聞く。

「うーん ゴブリンリーダーを確認 数は150匹ほどかあ 正直ほんとにこの大きさの群れかどうかは微妙だな」

「同感だ その割には報酬金が高めだ 大方調査が不十分だったのだろう」

ギルドでは飼い慣らした飛竜に乗って魔物の情報を空から集める。ただこの飛竜は臆病なのでどうしても遠くからの観測しかできず、また飛竜の体力的な面から観測できる時間は短い。

「まあ 他に良さそうな情報もない これにするか」




次の日 装備を整えて目的の山の麓の村から出発する。

「ミーナどうだった」

斥候のミーナから報告を受ける。

「ここから北に真っ直ぐ行ったところに開けたところがあるおそらくそこが群れの中心だと思うが ゴブリンを倒さずに見るとなるとそれ以上はわからない」

「そうか そこに近づける道はあるか?」

「それなら西からの近づけば気付かれてにくいと思う」

「わかった ミーナお前はニックと先行してもしゴブリンに気付かれそうなら射殺せ 残りは確認したあとでゆっくり行く」

「「「了解」」」


ミーナの先導で森の中を歩く。もう少しでミーナの言う開けた場所に出そうだ。

「なっ」

先導しているミーナが驚きの声を漏らす

「どうしたミーナ」

「リーダーあれを」

そういわれて木から見た光景は驚くべきものだった。

「なんだこの数は それにあの大きさキングか?」

150と聞いていたのが200だった何てのはざらにある。しかしそれが1000になるとはさすがに予想出来なかった。そのうえおそらくあのボスとおぼしき個体はジェネラルを通り越してゴブリンキングとも思える大きさだった。

「これは我らだけでは無理だ。すぐにもど」

ガガガガッ 

そのゴブリンの群れの中央に突然丸太が突っ込んできた。

そしてそこから美しい鎧をきた少女が見事な銀の髪を振り撒きながら飛び降りる。

「なんだ あれは」

ニックが思わず出した声はその場の誰もが感じていたことだろう。

当然ゴブリンは突然現れた少女に襲いかかる。

「リーダー!」

「無理だ 落ち着けミーナ 無断死にになる」

「でもっ」

と言ったとき いきなりゴブリンの首が吹っ飛んだ。少女は逃げるどころかゴブリンの群れに突っ込んで殴り飛ばした。

「はっ?」

少女は鎧を着ているとは思えないほど軽々と動き次々とゴブリンを倒していく

殴る 殴る 蹴る 投げる

そのうちキングの存在に気付いた少女は剣を抜きまるで踊っているかのようにゴブリンを切り裂いていく。あれよあれよというままにキングに近いて

「あそこで魔法だと?」

あっさり切って捨てるとゴブリンを追い鬼神のように切りまくる。

「おい 全員戦闘準備だ くるぞ」

追われたゴブリンがこっちに逃げてくる。

「槍で受けとめろ剣と弓は横にそれたのと討ち漏らしを」

「「「了解」」」


ゴブリンの掃討が終わり少女と相対する。

整った顔、美しい髪 まるで人形のような少女の鎧にそれとは不釣り合いなかえり血がべっとりとついている。聞きたいことは山ほどあったが取り敢えず一番聞きたいことを聞いてみた


「嬢ちゃん あんた何者だ?」



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