二つ目

「約束」


あなたはそう言ってくれました。

もう随分前のことだったけれど、私はあの約束を守って生きています。


好きになったのは小学生の頃です。

付き合いはじめたのは中学生で、高校生の時にさよならをしました。


あなたは私にとって、誰よりも誰よりも大切な人でした。

生まれて初めて、涙が出るほど人を好きになりました。

恋と愛の違いを知りました。


世界が滅びてしまえば良いと思いました。

この世にあなたと私だけ、他には何もいらないし、何も見えなくなってしまえば良いと思いました。


あなたはずっと離さないでほしいと言いました。

私は決して離さないと答えました。

あなたが語る未来を、子供の戯言と笑いながら、未来は見えないよといいながら、一番信じていました。


あなたが立ち止まったとき、私は直ぐに手を引いて、また歩き出そうとしました。


歩き出せませんでした。


あなたが語る今に、私は私の愚かさを知りました。

そこに未来は見えませんでした。


愛し合っているのに別れなければならないことがあると、大人ぶっていたのかもしれません。



ごめんなさい。

本当はあなたを殺してしまおうと思った。

愛し合っているのなら、あなたの目に他の誰かがうつらないうちに、私が殺してしまおうと思った。

私を愛しているあなたなら、笑ってくれるように思って、涙が止まらなくなった。

そうやってあなたに甘えてきた私がここにはいるのに。


お付き合いする前なら、こんなことは思わなかったのです。


純粋にあなたの幸せを願い、あなたを幸せにしてくれる誰かの登場を待ちました。


あなたが私の方へ振り向かないことなど当たり前で、本当はお付き合いしたいとさえ、思った事がないのです。


けれどある日、あなたは突然こちらを向いて、私に愛を語ったのです。


あなたは最後まで私を大切にしてくれました。

だから、約束なのです。


「必ず新しい恋人をつくること。

絶対に、恋を馬鹿にしないこと。」


もうあなたは私を愛してはいません。

私もきっと、あなたを愛してはいません。


それでもこれは、私を愛したあなたを愛した私との約束なのです。


人生に卑屈で、恋など所詮繁殖本能と言う私に、私が生きていくために、あなたが考えてくれた最高の約束。


あの後、私は一人の方とお付き合いしました。


愛は実りませんでした。


まだあなたが、私では無い他の誰かに寄り添っているところを想像すると苦しくなります。

なんて自分勝手なんでしょう。

でも、きっといつかそれも、なくなるでしょう。


今の私は、あなたの幸せを素直に願えるくらいには、あなたに恋をしてはいません。


恋は素敵なものです。

私にこんな情緒を与えてくれるのですから。


恋は辛いものです。

いつまでも、こうして、私に寂寥を残していくのですから。


私に恋を与えてくれたあなたが

どうか幸せであることができますように。


そうしてまた私は、涙の代わりに深呼吸するのでした。

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