場面について 「感情」から書く脚本術のまとめ

真田五季

第1話

  ≪場面について≫


 ・場面には三つのタイプがある。


 1:説明の場面

 その名の通り、説明の場面は情報を提示し、それ以降の場面のためにムードや雰囲気のお膳立てをするためにある。また、それ以降に来る劇的な場面に繋がる辻褄を正しく理解できるための情報を提示する。5W1Hなどの解説。


 2:スペクタクルの場面

 読者に「おぉっ」と言わせる場面。華麗なアクション、情景など。この場面の場合、対立は必要ない。


 3:劇的な場面

 対立が存在し、緊張感がある。キャラクターが変化し、プロットは方向転換。感情的なインパクトが生み出される場面。文量を割かれる部分。


 ・それぞれの場面は、小さな物語である

 場面というものが優れているのは、それがひとつの小さな物語として完結するから。つまり、ちゃんと最初があり、中があり、劇的な問いがあり、緊迫感が高まり、クライマックスを迎えて終わる。

 場面には三つの役目がある。

 1:対立を介して物語を進める。

 2:キャラクターの知られざる側面を明かす。

 3:読者の感情を揺さぶる。

 そのためには有利不利を明確にし、中立的な場面を描くべきではない。それゆえに緊迫感を生み出し、好奇心や期待感を歓喜し、あるいは驚かせる。


 場面は物語と同じように描く。あるキャラクターが何かを死ぬほど欲しがっているが、容易には手に入らない。それを阻む何かが存在しており、期待感と緊迫感が生じる。このような劇的な場面を、すべてのページに設置することで、読者のページをめくる手を進めることができる。劇的な場面の目的は、読者の心を揺さぶることだ。

 どんな場面も、何かの手がかりを見せるためだけにひとつの場面を使ってはいけない。どんな場面も、対立を介してプロットを前に進めなくてはいけない。少なくとも、読者の心にインパクトを与えなければ。


 ・場面とキャラクター

 劇的な場面なら、必ず最低一人はキャラクターが出てくる。

 1:自分自身の葛藤に苦しむ

 2:ほかの誰かとの対立に悩む

 3:世界に苦しめられる

 このいずれかの状況にある。併用されるのなら、なお決行。最も一般的なのは、対立する二人の登場。一方が何かを欲しがっており、もう一方がその何かを与えない。または邪魔をする。執筆者はそれが誰の視点を介した場面なのかを把握しなければいけない。

 場面の主役は明確な目標を持ち、達成する方法を知っていて、能動的な行動に移せるキャラクター。誰かが起こした行動に反応するだけのキャラクターは、主役になり得ない。


 プロットというものは、人々が交渉や相談を通して関係を築いていくことだ。

 つまり場面の可能性は、ひとの数だけ組み合わせがあるということになる。また、よく描けた場面においては、欲しいものは関係性そのものであることがおおい。


 ・キャラクターの能動的な行動

 ひとつひとつの能動的な行動は、その場面の大目標に到達するための小目標。その場面にいるキャラクターが、手を変え品を変え、いろいろな戦略を試す。この場合能動的な行動というのは、身体的、心理的どちらでもあり得る。


 ・主要な対立

 劇的な場面の本質は、対立にある。対立のない場面は、あるいは対立を予感させる緊迫感か期待感がない場合は、ただの説明になってしまう。それではいけない。そして、対立は口調だけのものにならないようにする。

 対立は明らかに目標への到達を邪魔するものであり、やり取りを重ねながら自然に加熱し、クライマックスに向かっていくのだ。

 したがって、ひとつひとつのやり取りが、目標達成の手段なのだと言うことをしっかり理解しておかなければならない。会話も何も、すべてこれを介すること。


 ・場面の構成

 明確なはじめがあり、なかで対立と、緊張と、逆転が加速しながら混乱を呼び、クライマックスで解決、という落ちを迎え、次の場面へ興味をつなぐ。





 ・場面の振れ幅

 場面に出てくるすべての能動的な行動は、陽の行動と陰の行動の二極に分けられる。いかなる行動も、どっちつかずではいけない。

 場面を考えるときは、陽極(主役にとってうまくいっているか)、または陰極(逆)の行動で始める。そして、変化があるのが場面の意義なので、反対のエネルギーを帯びて終わるべき。

 もしキャラクターが満足を抱えている状況で場面が始まるのなら、それを反転させて、失業や失態といった陰の出来事で終わらせる。同じ極性のなかで出来事が終わるのでは、その場面には何の変化も起きなかったということ。場面の価値はないということになる。そして、どちらの側で終了したのかを、読者にわかるようにしなければいけない。

 場面というのは、他人の何かを欲しがるキャラクターが起こすものなので、その帰結は二種類しかありえない。その何かがすべて、あるいは部分的に手中に収められる。あるいは、その何かを逃がすのどちらか。


 ・場面の始まりと終わり

 何らかの最中から場面を始める。場面の始め方は、物語そのものの始め方と同じ。

 場面を切るのは、好奇心・期待感・緊迫感・驚き、といった理屈を超えた感情のツボをついた瞬間で切る。というのがひとつの手。例えば、場面をびっくりさせるような逆転で終わらせる。あるいは、問いで場面を終わらせてもいい。


 ・キャラクターの感情のツボ

 小説を読むひとがキャラクターを他人事と思えなくなっていれば、そのキャラクターの目標を理解し、その行く末が気にかかるのなら、キャラクターが感情のツボを衝かれた際には、読者もそれを自分のことのように感じる。キャラクターの感情のツボを衝くことでのみ、キャラクターに命を吹き込むことができる。また、その感情は、段々と強くするように。

 やり取りの際に、お定まりの言い回しをひっくり返すのも手。


 ・発見と露呈

 緊迫感と発見。このふたつが読者を釘付けにする。観客の心を奪い、物語を吸い上げさせる。常に新しい情報が場面に流れ込み、新しい対立が起こり、新しい捻りが加わるのが好ましいが、少なくとも一つの場面にひとつは欲しい。


 ・回想

 回想は避けるべきではあるが、もしやるならば、その後の現在の状況が必ず変わっていなければいけない。


 ・情報のお膳立てと、感情的な種明かし

 まかれた種が、その後意外な形で明かされるように書く。お膳立ては感情的でもどちらでもいいが、種明かしの方は感情的なインパクトがなくてはいけない(驚き)。


 ・キャラクターの内面を明かす

 場面ごとに機会があるたび、キャラクターの新しい側面が明かされるのは効果的な戦略だ。そうしたほうが、読者が時間をかけてそのキャラクターを知っていくことができる。態度や信条、選択を見せることで、読者に共感を呼ぶことができる。


 ・ひねりと逆転

 うまく構成された作品には、大きな転換点がふたつあり、それぞれ最初の二幕の幕引きに使われる。同様に、場面においても優れたものは、ふたつの逆転が存在している。

























 まとめ 文章を書く際に気を付けること


 ・その幕の問い、場面の問いを考える。

 ・劇的な場面(対立と逆転)を描くようにする。緊張と緊迫を抱かせるように。

 ・場面は陽極から始まったら、陰極で終わらせる。逆もしかり。

 ・場面は行動中の場面から始める。

 ・ 明確なはじめがあり、なかで対立と、緊張と、逆転が加速しながら混乱を呼び、クライマックスで解決、という落ちを迎え、次の場面へ興味をつなぐ。

 ・逆転や対立が複数あってもいい。

 ・中立的な場面があってはいけない。有利不利どちらかから始める。

 ・ムードを確認し、言外に伝える。

 ・対立を明確にする。

 ・キャラクターの関係や、性格、信条が垣間見えるようにする。秘密の回収なども。感情のスイッチが入るように。

 ・問いに対する回答が、主役による能動的な行動によって行われている。

 ・ 場面を切るのは、好奇心・期待感・緊迫感・驚き、といった理屈を超えた感情のツボをついた瞬間で切る。というのがひとつの手。例えば、場面をびっくりさせるような逆転で終わらせる。あるいは、問いで場面を終わらせてもいい。

 ・読者の感情を揺さぶることを第一に考える。好奇心、サスペンス(起きるか否か)・緊張感・希望・心配・驚き・失望・安堵・逆転など。

 ・動的に。台詞よりも動きで見せるように。台詞も能動的に(他者を操ろうとする)

 ・情報は説明するのではなく、主役に勝ち取らせるようにする。あるいは、サブテキストで表現する。


 主人公は能動的に、簡単には手に入らない目的を手に入れようとする。それを阻む対立を描くこと。「描くな。見せろ」

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