物語について 「感情」から書く脚本術のまとめ
真田五季
第1話
≪物語について≫
・劇的な物語とは何か
端的に言えば、「簡単には手に入らない何かを求めるキャラクターがいる」この定義に当てはまらない物語は、ドラマチックな物語とは言えない。対立や困難な障害を乗り越えようと必死で足掻くこと。それがドラマという言葉の元々の意味。その焦点は、必ず対立に置かれる。
基本的な構成
1:序(お膳立て→対立) 2:破(拗れる→あがき) 3:急(解決)
・物語対プロット
「物語とは、キャラクターがやりたいと望むこと。プロットは、作家がキャラクターにやらせたいこと」。
プロットとは、誰が、何を、どこで、どうやって、どうして。物語の底に横たわる意味に辻褄を与えるもの。読者にどのような影響を与えたいのか、という点が鍵になる。
プロットというものは、物語を作り出すためではなく、読者を感情的に満足させるための設計の手段である。「プロットは、ただ出来事を並べたものじゃない。感情を順番に並べたのがプロットなのだ」
・読む人の心を最後まで釘付けにするには
まず考えるのは、
1:自分の作ったキャラクターが何を望んでいるか。
2:その邪魔をしているのはなにか。
3:そのキャラクターはどう変わるのか。
そして、その物語を、いかに読者が興味を失わないように巻き込み、魅惑して、髪の上で語るか。ここで、技巧が物を言う。
・心を掴むということ
心を掴むということの肝は、読者が面白いと思うということ。つまり、関心が惹けるかどうかにかかっている。「面白い」「関心」このふたつの感情を、常に読者に抱かせなければならない。
小説を書くたびに、どのページのどの部分でも、お客さんを失う可能性があるという事実を常に危機感として持っていなければならない。
読者の関心を最後まで保つ唯一の方法は、その読者が理屈抜きで感じたいと望んでいる感情を体験させるしかない。
それはつまり、日常では体験できない凝縮された感情的体験が望まれている。
楽しいという感覚・期待する気持ち・好奇心・他者に共感する気持ち・興奮・魅惑・恐怖・希望・知りたい気持ち・緊張感
などといった感情。読者はこの感情を手に入れるために金を払う。
・「面白い」という感情
興味が、読者から引き出したい最も本質的な気持ち。
キャラクターが目標を明言し、それを聞いて読者が、「うまくいくかな」または、「失敗するかな」と思ったら、読者はその物語に興味を覚えたということ。その興味を、全ページで持たせるのが理想的。興味とは、「未知のもの」「未来への期待」「隠されたもの」といった源泉がある。「期待」が物語を通して読者を引っ張るもの、そのなかでほかの二つがちりばめられる。
小説を書く際は、オープニングでさっそく読者の心を掴んでおくのが理想的。第一幕を展開させながら読者の関心をつなぎ、障害物が現れ、話がこじれることで読者の関心は膨らみ、クライマックスで最高潮に達し、結末で待ち続けた興味が満たされる。
・原因と結果
それぞれの出来事が、次の出来事の原因になっているということが明確に理解できるプロットであった方が、関心を維持しやすい。その出来事を、主役が能動的に起こしそれが次の出来事につながるとなおいい。
例)主人公が○○を倒す→○○の家族が復讐に走る。
・キャラクターの目標、動機、失敗の代償、個性、欠点、人間関係は、それぞれ脚本上で読者の興味を駆り立てる。キャラクターの表層が明らかになっていくごとに、読者の興味は高まっていく。
・対立
対立はドラマを盛り上げる。対立とは、物語の本質であるため。物語を進める燃料であり、読者の関心が脚本から離れないようにする糊と言い換えてもいい。
その対立は、日常で経験したくないことであるほど、脚本上で架空のキャラクターが経験することで、面白さも増すのだ。
対立とは、
あるキャラクターの意志(目標・ないと困るもの・欲しいもの)が何らかの妨害(障害)に遭うということ。目標達成の強い意志を持ったふたつの対立する勢力が衝突すれば、必ず面白くなり、緊張感も高まる。
そしてここに、互いに大きな代償が存在している場合、互いが絶対に妥協しない、という意志が発生し、お互い後には引けないために、ドラマが苛烈になっていく。
対立とは、目標、障害、妥協しない意志という三要素が描く三角形だと考えればいい。そして物語を描く際は、対立の帰結に関しても頭を使わなくてはいけない。対立の帰結には、ふたつの可能性が存在する。
1:キャラクターが負ける・勝つ
2:対立がより深くなって拗れる(複雑で範囲が広くなる)
後者が、読者の心を話さない選択肢。いったいどうなるのだろう、と、最後まで気を揉ませられる。
重要なのは、同じ対立を繰り返さないことである。
常に新しい情報を流し込み、次の対立を用意し、新しい捻りを加えなければならない。物語は常に動いているのが理想。反復なしに次の対立につながっていく。新しい対立が場面ごとに発生し、困難になった問題を解決するために、新しい行動をとらざるを得なくなる。
行く手に立ちふさがる障害が簡単すぎると、読者にどうでもいいと思われてしまう。読者は、書き手が創造したひどい状況から、キャラクターがどうやって抜け出すのか知りたくなるのだ。
AからBへたどり着く上手い話を思いついたら、どうしたらAからBへの道のりが最も面白く、ワクワクさせるものにできるのかを考える。登場人物を妨害する困難が大きいほど、そしてリアルであるほど、良いドラマになる。そして、登場人物が求めるものを手に入れようとする気持ちが本気であるほど。
対立とは怒鳴りあいではない。欲求と、それを邪魔する障害。
・変化
すべての物語は変化について語られている。
満たされぬ思いを抱えてA点をお出発したキャラクターは、Z点にたどり着いたときには満たされている。悲劇ならば、破滅している。
状況をどんどん変えていき、失敗の大小をどんどん大きくしていく。90ページ目の対立が30ページと同じであれば、間の60ページには何の意味もなかった、というこことになる。それはキャラクターの内面的葛藤も、変化の足取りも同様。物語の最後には、キャラクターが抱える内面的葛藤や、変化の足取りについても同様のことが言える。
パワフルな変化はふたつあり、ひとつは知識的な変化である発見。もうひとつは行動的な変化である決断。物語においてこのふたつがプロットの要点になる。
・独創性
興味を惹く独創的なものは、実際のところ残されていない。したがって、いかに独自の味方で普通の事象を見られるか、ということにかかっている。
・好奇心でそそる・驚かせる
好奇心とは、感情的にもっと知りたいと飢えている状態。詰まり、頭に浮かんだ問いに答えたい。そして、辻褄をあわせたい、という知的な欲求を意味している。読者が物語を好むのは、それは次にどうなるかを知りたいから。好奇心が途絶えてしまうと、物語は失速し、止まってしまう。
・質問の力
読者の好奇心を刺激し、興味を持たせるために、物語の問い、つまり物語について行けば答えが見つかるような問いを仕掛けておく。質問を仕掛けることによって、問われた方が自動的に答えたさにうずくわけだ。
小説家は、情報を小出しにすることで読者に問わせ続けることができる。読者はその空白を埋め、勘繰り、家庭する。積極的に参加するということは、興味を持ってくれている、ということ。
すべての幕には、問いと答えが用意されている。すべての場面、シークエンスに問いと答えがあり、すべてのやり取りに問いと答えがある。読者がついてこられるように足跡のように質問を残していく。答えを知りたいという読者の気持ちは次第に強くなり、途中で答えが明かされるたびに、満足感を覚える。
そして、その問いに最も適するのはオープニング。心奪うイメージで脚本を始めれば、「これは何だろう、ここはどこだろう。どこに行くんだろう。どういう意味なんだろう」という問いがすぐに頭に浮かぶ。
・幕ごとの問い
作品を通して中心的な問いをはじめとして、幕ごとに問いをひとつ仕掛けておく。これは「○○なのか?」ではなく、「○○できるのか?」という体制をとる。そして幕ごとの問いの下位として、シークエンス、場面ごとに同様の問いを連続させる。その問いに対する答えは、主人公の能動的な行動によって回答を行う。失敗に終わるか、成功に終わるか、あるいは、そのどちらでもないのか。
それを読者の好奇心を誘いながら、キャラクターの内面、特徴などを明かしながら展開させていく。問いに対する答えが次の問いを生み出し、連続させるように。
そして、その問いのひとつに、最後まで回答が用意されないもの――中心的なものを用意する。それを追うように仕向けること。疑念が確信に代わり、その問いに対する答えが最後に成されて、感情的な満足を読者へ与えることができる。
・期待/希望/心配/恐れ
・期待
良い悪いにかかわらず、将来何が起きるのか待ちわびることを指している。「銃声そのものには、感じるべき恐怖はない。恐怖はそれを待つ不安のなかにあるのです」
好奇心・サスペンス(起きるか、起きないか?)・緊張感・希望・心配・驚き・失望・安堵のような形で現れる。
期待を植え付け、その期待に応えることで、読者を満足させられる。
・キャラクターの目標を設定する。
登場するキャラクターは、ひとり残らず常に何かを欲しがっていなければならない。欲しがることで、期待感が発生する。それが衝突し、対立することでドラマが生まれる。そして、目的が成功するのか失敗するのか、という部分が緊張感やサスペンスを呼び起こす。そしてそれはマクガフィン――つまり、金で買えないような手に入りにくい何かであるとなお良い。
・問題と解決
小さな問題群と小さな目標群を作って、物語全体に散らす。
重要なのは、ひとつの問題が解決してしまう前に次の問題を出すということ。問題――解決を表に配列して、物語全体に問題が全く存在しない瞬間が出ないように目を配らなければならない。それを場面ごとの問いに並列して考えていく。
また、期待を引き出す部分では、時間制限・心配・予感・警告・計画などが挙げられる。
・ムード
地の文で、どのような雰囲気なのかを言外に伝える。直接ではいけない。読者が無意識のうちに、「これから〇〇が起こりそう」という感覚を持たせる。それを裏切っても、そのままにしてもいい。
・劇的アイロニー
登場人物が情報を知らず、読者がそれを知っているという優位性。「○○なのに!」という緊張感を持たせる。あるいは、キャラクターの誤解という形でも、この技を使うことができる。ただしこれは、あまり長期的な時間をかけるべきではない。
・サスペンス(緊張感・不安・心配・疑念)
物語が何らかの不確かさに支えられている以上、どんな物語にもサスペンス(起きるか否かの緊張感)が必要不可欠だと言える。どんな話であっても、次はどうなるのだろうと知りたくなる熱意を発生させなければいけない。
それが足りないと、読者が先を読めてしまう。サスペンスは小説全体に存在している必要がある。「主人公は目標を手にするのか」という主題のサスペンスと、「いま欲しがっているものを手に入れられるのか」という場面のサスペンス。そして、「主人公はどんな感情反応を見せるのだろう」というやり取り。ビートのサスペンスが必要。
・キャラクターを気に掛ける気持ち
キャラクターとの絆を結ぶことに成功したのなら、危機的状況の不可避性を明確にし、結果の不確実性を確立することで、読者のキャラクターに対する気持ちを強くすることができる。
緊迫感とサスペンスは似て非なる。緊迫感というものは、結果に対する期待感を引き延ばすという手法。腕の立つ創作者は、いつも読者が結果を気にするように仕組む。そして答えを出すまで、ぎりぎりまで待たせる。
好奇心とは、目標を知りたいという欲求。対してサスペンスは、目標を知って初めて感じることができる。目標を知った瞬間、サスペンスが好奇心を上書きする。
・切迫させる
早く! いますぐなんとかしなければいけない状況。一刻も早く! スリラーとホラーは、この感情を巧みに想起させる。生きるか死ぬかという状況は、必ず切迫するから。
・ジレンマに追い込む。
一般的に、第二幕の幕切れ近くに主人公が立たされる岐路。ソフィーの選択を意識する。
・予測を裏切る
読者の期待を、悪い方に裏切ると、緊張はさらに高まる。
・失敗の代償をより大きくする。
・空間的なサスペンス
時間内に達成できるかどうかを疑う気持ちが、時間的サスペンス。空間的なサスペンスは、どこに危険が潜んでいるのかわからないという恐怖を操作することだ。『エイリアン』などが好例。
・驚き、狼狽、笑い
驚きとは、期待していたのと違う、ということだ。物語の過程は、驚きのある過程であったほうがいい。巧みな作品は、驚きに満ちている。それが読者の予想を超えた何かで、論理的に破たんしていなければ、何でも構わない。
・予期せぬ障害と混乱
混乱とは、「プロットの捻り」。当然そちらへ行くと思われていたキャラクターを、別の方向に追いやってしまう。そういったなかなか前へ進むことができないという状況。
・逆転
180度話を転回させる。こうなるだろうと思わせ、裏をかくのが驚かせるときの肝。逆転によって驚きを与えることで、脚本の鮮度を保ち、予測を難しくし続けることができる。
・緊張と安堵→驚き、サスペンスからの解放。
まとめ
・常に変化させる。それはキャラクターの内面であっても、対立であっても同じ。
・幕ごと、場面ごと、やり取りごとの問いを作る。
・代償を大きくしていく。後戻りができないように。
・いかに読者が興味を失わないようにするか。それを全編通して最新の注意を払うこと。
・話の設計図ではなく、「感情を並べたもの」がプロット。
まとめ 文章を書くときに気を付けること
・その幕の問いが何なのか。場面の問いはなんなのか。やり取りの問いは何なのかを確認する。
・問いに対する回答が新しい問いを生むようにする。
・その場面のムードを確認し、言外にそれを伝える。
・対立を明確にする。
・その回答は主役の能動的な行動によって起こされるようにする。
・ 好奇心・サスペンス(起きるか、起きないか?)・緊張感・希望・心配・驚き・失望・安堵・逆転など、そういった感情を読者に想起させるようにする。
物語について 「感情」から書く脚本術のまとめ 真田五季 @sanadaituki
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