第2話
天上の星々が監視している密室に私はいる。
心の中の憧れは幾度となく取引されてむしり取られ削られる。
思い出を巡る他者の隠蔽の記憶。意地悪さが軋み言葉の骨格が揺れる。
すねることも甘えることも許されない弱さにつけこみ、笑顔の裏を検索する巣窟。
立体的に構成された手の温もりが未来の評判の腕に掴まれて崩れ落ちる。
「スマートフォンを見ていると早く時間が過ぎるよ、メル」
「いいじゃん、もうちょっとだけ」
今日は友達のAさんとお出かけだ。こう書くと何だか他人行儀で失礼みたいだけど身分壊変カードで綺羅星トロイメアに乗るのだから仕方ない。本名という概念が意味持たない現実に私達は住んでいるのだから。
「ねえねえあれ見て、ナパームジェリーフィッシュだよ!」
「熱源で人体を焼き付くす軟体生物ね、趣味悪い」
「向こうにはクリスタルランチャードラゴンが!」
「プリズムホールで失明を乱反射させる原理不明の上位存在ね」
うるさいAさんをいなしつつ物騒な高原を抜けるとやっと雲に沈んでいるステーションに着いた。
足を踏み外すとゲシュタルト崩壊するようなスリルがたまらないと評判だ。
私達は安全な雪石を踏みつつ寒さに震えながら地面のマグニチュードを体感せずにすむようカードゲートをくぐり綺羅星トロイメアに乗り込んだ。
「瞳に照りつく青い海、銀色の静寂の砂浜に、プリンの甘さが染み透る」
「注文メニューが豪華で食い意地を張っているメルにも安心ね」
「いい気分で詩を作っているの。邪魔をしないで」
「私はメロンソーダを頼もうっと、アイス付きでね」
酸素の全くない画面に爽やかな風が吹き荒ぶ。
ふと窓を見つめると楕円に歪んだ月がにっこりと笑い返してくる。
私はプリンを口に頬張りつつ舌のカラメルソースの流体運動に気を使うことにした。
「今日もお月様が頬に重労働を課しています」
「あーメロンソーダおいしー」
「今日の星占いは血の涙の大吉です」
「天殺呪を黄金虫に喩えて夢を枯らしていく寸法ね」
黒猫がベルを鳴らしながらドアを開けてやって来た。そろそろ終点だ。
媚び方を心得たあくびをゆっくりと全身に許しつつ綺羅星トロイメアは停止した。
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