第二十七話 夢醒めて後


革帯ベルトが要るのか?」


「そうだよ。ミネアが張り切る気持ちはわかるんだけどねえ。ウォーダーの性能を十分に引き出すってんなら、椅子に革帯ベルトぐらいは付けた方がいいんじゃないのかい? 特に子供たちはさ」


 テーブルの向こうで、うーむと虎が唸る。


「男子連中はつけそうにないなあ、言っとくが」

「女子の心配をしてるんだからね、言っとくけど」

「ああ、そうか」「そうだよ」

 横で聞いていたノーマがくすくす笑った。


 会議室にはモニカが来ている。


 この不思議なネズミは、見た目の歳はミネアやリリィとそこまで変わらないような小娘然としているが、喋りは妙に年季が入っているのだ。

 実際、この会議室で今テーブルを囲んでいるのは艦長、ロイ、ケリー、ノーマ、ダニーの年配組なのだ。幻界より戻った後、蛇に異常も見られなかったので、各自思いおもいに席に座って今後の話をしている。そこにモニカは参加していた。


「あとね。そろそろ水も足りないよ、コイツに水浴びさせないと。他にもいろいろ足りないもんも出てきてるね」


「それと青年の服もです」

 飛竜の台詞に、三角巾で吊った右腕をかばうように左手で頬杖をついた狼が、少し笑って答えた。

「俺は別に構いませんよロイさん」


「不恰好だ。大きすぎる。見ているこっちがかなわん」

「几帳面ねえ」「面倒見がいいですな」

「ふん なんとでも言え」

「いや、おいおい、この辺でアイツを街に行かすのか? まずくないか?」

「別に本人が行く必要もないでしょう。行きたいというなら別ですが」

「その時は私が変えてやるよ。いつもの隠身おんしんでいいんだろ? 獣を隠すより楽だよ髪の色なんてね」


「待て待て。ダニー。停泊所ポートのある街で近いのは?」

「——山脈の国境向かいにブレツセン町がありますが、街が小さいですね。そこからはシェトランドの港まで、街道沿いに民家や商店があるばかりです。大きさで言えば南に下ればイルカトミア市があります」


「いや。南は危険すぎる。さっさと帝国から抜けたほうがいい」

「ですね、ただ、そうなると山脈越えですよ。あと……」

 ダニーが言い淀む。


「なんだ?」

「あと……もしその、を目指すなら遠回りです、アイルタークに越境するのは。東に大回りしすぎです」


 ダニーの言葉に。周囲がしばし沈黙する。少し困った顔で左のうなじを掻きながら艦長がぼそりと答えた。


「今、セトの話はしてないぞ」「まあ、例えば、です」


 灰犬の台詞に狼と狐が乗っかってきた。

「それだったら。イルカトミアを南進して、ウルファンドの断崖船渠グランドックに向かうのが、いいと思いますけどね。俺はそれでも大丈夫です」

「何よ大丈夫って自分ばっかり。私も構わないわ艦長」


「ちょ、ちょっと待て。それはあとだ、あと。いいな」

「たまにはクレアに連絡してるのかい艦長?」

「いやだからその話は」「連絡。してるのかい?」


「……していない」


 モニカが空気の抜けた風船のような顔をした。顎を机に置く。

「なんだよココの男連中は本っ当にだらしないねぇ」

「いやいや」「いやいや」「うふふ」


 ロイが腕組みをする。

「——断崖船渠グランドックの基地には、ミネアも行きたがっていましたな。大回りですが山脈を越えて東アイルターク湾を突っ切るルートもあります。私も南進はすべきじゃないと思う。クリスタニアの湖近くは飛びたくない」

「辺境本部、か」

「そうです。こちらからわざわざ刺激する必要もないでしょう。そうだろ? ケリー。ノーマ」


 ケリーがひょいと左手を上に挙げた。合わせてノーマも挙げる。猫の話題が出たので、モニカが机にへたらせた顎を上げた。


「そういや、当のミネアはどうなんだい?」




◆◇◆




 蛇の操舵性能が格段に上がったのに、最初は興奮していたミネアだったのだが。今はいつもの席にどさっと座って足を投げ出し上向きに、まるで陽にかざすように右手を目の前に掲げて。ぼんやりと考え事をしていた。


 その指先には、また。二つのビー玉がくっついている。目の上で人差し指と中指の二本だけで、器用に交互に球を動かす。やはり落ちない。くるり、くるりと、指の周りを回って転がる。



——飛び込め! 巻き込んで回り込め!——


——なんですかウォーダーの、この動きはっ?——



 指が、止まった。ミネアが横を向く。

 じっと見ていたのは。近くの席の背もたれに両腕を絡めてきいきいと椅子を漕ぐレオンである。くりっと少年の黒目が大きくなる。


「……何か、わかりそうなんだけど……」

「そうなのか?」


「レオンに渡せば、解いてくれるの? 十番の『円環ウロボロス』はレオンのものになったんだよね」

「ううん、なってない」「え?」

 ミネアが身体を起こす。

「だって砂漠で竜脈搭乗ドライブの時に使ったじゃない」

「つかった。つかえた。でも、おれじゃないんだ、あれは」

「そうなの?」「うん」


 起こした身体をまたどさっと椅子に戻して、ふうと息を吐く。猫が同じ格好に戻る。くるくると球を回し始める。

「めんどくさいなあ……アタシが持ってても意味がないと思うんだけど。これ多分、レオン、知ってるんだよね」

 視線は投げない。指を見たままミネアが訊くのにレオンが困った顔をした。

「いえない。わかってるだろ」


「——まあね。ごめん」


 古代種クレセント族には制約が多い。

 その制約がいつから、どこから発したものなのか、誰も知らない。


 多くの封印呪文クラス=クレセント聖文ヒエラルの知識を持ちながら、それを口外できない。契約痕クレーターにおける制約発動にも似たその禁忌に触れればヒトに堕ちるか、最悪、命を失うこともある。

 ミネアもそれは知っている。たとえ人間に堕ちて済んでも、その時レオンはもはや竜脈も読めない、非力な少年に——


「ああ、男の子とは——限らないんだっけ」「うん?」

「ううん。でもノエルがなんでクレセントの禁呪なんだろ」


 ……返事がないので。ちら、と見ればレオンが押し黙ったまま口元を腕の中に埋めていた。つらそうな顔だ。

 慌ててミネアが立ち上がる。

「えっと。ね。レオン。外、行こうか?」

「え?」




◆◇◆




「うっわあ、家がある」


 青空のもと。だぼだぼのパーカーをなびかせて。

 ウォーダーの背中に立ったアキラが額に手をかざす。


 森を抜けて、蛇は飛んでいた。

 修理に支障がないように、ずいぶんと高度は落としていた。


 この辺りは山間の盆地なのだろうか、広々とした山裾やますそに街道があり石垣に囲まれた農家らしき民家が、ぱらぱらと軒を連ねていた。煙突から白い蒸気を吐いている家もあり、また道に沿って耕された畑もある。

 遠くで仕事をしている農民らしき人影が腰を上げてこちらを伺い、道を数人の子供が蛇を追いかけて走っているのが小さく見える。


 おおむねどこの世界も同じなのだろうか。田舎の長閑のどかさは、アキラの記憶と変わらない。息を吸えば草の香が胸に染み込んでくる。


 蛇の外壁には屋根に上がるための鉄梯子があった。風防障壁ドラフトバリアはあくまで気流を緩和する壁だから「モノは普通に素通りだからね」と子猫たちに聞いていたので、おっかなびっくりで登ったのだが。


 屋根の横幅は6メートルほどで車両は一節の長さが倍の12〜13メートルほどだろうか。十分に歩き回れるほど広いのだ。しかも辺縁に沿って内側に段差が——エリオット曰く、落下防止とともに雨水を溜めて内部に回収するためのものらしい——あるため、慣れてしまえばそう縮み上がる程でもなかった。


「よーしっ。そのまま内側に。そうそう」


 蛇の壊れた右舷砲塔は三本。三番砲は折れて吹き飛んでしまったが、その前後の二番四番は砲身が曲がっただけの状態であった。その四番砲塔を一本だけ車両側に、関節部からめくるように曲げて引き込む。これも猫たちが教えてくれた、メンテナンス用の曲げ方らしい。


「もうちょい、3リーム、2、1、おっけーOkay。下ろして」

 左手の腕輪に指示を出しながら逆光の砲身をまぶしそうに見上げるのはリッキーで、指示もずいぶん手馴れた感じなのだ。


「うぉおお、で、でっか」


 アキラの顔面を巨大な影が通り抜け、ごおおとゆっくりと屋根の上に降りて、少しごおんと弾んで。歪んだ砲身が水平に止まる。

 近くで見ると凄まじく長い。声が『長すぎる』と言っていた通り、この四番砲身でも畳めば後ろに三車両目あたりより斜めにはみ出ている。40〜50メートルはあるだろう。しかも両腕いっぱいで抱えきれないほどなので、直径はゆうに80センチを越えている。


 腕輪からリリィの声がした。

『ちゃんと乗ったかなあ。どーお? 治りそうログ?』


 岩の男が、焦げて歪んだ砲身の根元に膝をつく。ズボンの上は裸で、その半身は飛竜のロイより固そうなごつごつの岩か甲羅のようだ。


大地星タイタニア八番『展塑てんそ』3200……いや3300」


大地星タイタニア八番を3300ね、あとは?』

火星イグニス九番。陰。『停鎖ていさ』。700ほど」

『ほど、じゃダメでしょー』

 これはリザの声だ。


「760」

『はいはい。大地星タイタニア3300、火星イグニスは760っと』

「以上だ。全面に」『りょうかーい』


 女性陣が答えて、すぐ。横たわった四番砲身がぼうっと、うっすらと黄色に、そこに赤が混ざって山吹色に、やがて見事な金色に輝いてきた。


「うおおお、すごい」

 さっきから唸ってばかりのアキラに。


「八番九番の『三十対七』は、錬成の基本式のひとつだからねっ」

「え、えっ。そうなの?」

「ですよぉ。火星イグニスは熱劣化を抑えるように陰に相転移するんです」

 横から教えてくれるのはメガネのエリオットだ。大きな耳を動かしながら見上げて。にっと笑う。彼は造形がヒトに近く体毛とは別にさらさらの髪も生えている。


「モニカがね」「あ、うん?」

「アキラさんは、すごい魔導師のくせになんにも知らないから、いろいろ教えてやりな、って」


「そっ、そうなんだ。ありがと」

「えっへへ。ホントに知らないんですね」


「強い錬成は『七十対三』、弱い錬成は『三十対七』。覚えやすいだろ、お兄さん?」

 そう呼ぶのは二人に寄って来たリッキーである。こちらはふさふさの上半身が裸で直にオーバーオールを履いている。エリオットと後から登ってきたアキラは、今さらその服に気付いて。


 目をみはるのだ。

「どしたの?」

 青猫の胸当てを指でつまむ。知っている手触りだ。


「デニムだ……」


「うん? ジーンズだぜ? これ」

 リッキーが、つまみやすいように肩紐を両指でぴっと前に張り出した。

「うん、ジーンズだ……売ってるの?」


「足元、お主ら」「あ。は、はい」


 注意されて見直せば、ログが光を蓄えた砲身を大きく跨ぐように構えて。ちょうど曲がった真上で岩の両手を広げてかざす。ごつい腕を包むように透明な、しかし分厚い空気の壁がゆらあっとゼリー状に、金属の筒に流れて繋がっていく。


 じいっと。何をしている訳でもない。アキラもただ、見ている。

 柔らかな陽光の下、少し風が吹く。

 風防障壁ドラフトバリアに包まれているとはわかっていても、飛ぶ蛇の屋上でこの風の緩やかさは、アキラにとっては不思議な感覚で——やがて。


「おお? おおっ」


 音もなく、揺れるわけでもなく、きしむわけでもなく。まるで電気仕掛けの時計の分針か何かに似て、注視しないと気づかないほどの速度で、しかし影の位置取りではっきりとわかる。


 砲塔が、動いている。


「イリュージョンっぽい……すごい」

「いりゅーじょん?」「いや、手品みたいなさ」


 会話の間にも、徐々に巨大な砲塔の曲がりが矯正されていく。岩の男は汗ひとつかかない。ただ黙って、手をかざしているだけなのだ。真面目な顔でやや右手を前に出す。わずかに捻るように。まさに昔テレビで見たイリュージョンの手つきに似て、ちょっと可笑しくなって鼻を擦るアキラに。


=アキラ、足元=

(え? あ、っと。と)

 気付けばすぐ足首の近くまで砲塔が動いていたので、アキラが避けて、遠くの筒の先に目をやれば、先頭の方が動きがわかる。それにしても。


(近くで見ると。ほんっとうに、長いなあ)

=第二次大戦の列車砲に、こういうものがあった。が、十二本というのは武器としては過剰だ=


 言われてアキラが夢の世界での戦闘を思い出した。自在に、本来の翼のように動かして、蛇は幻の空を飛んでいたのだ。


(うーん。やっぱ、羽根なんだよね、これ)

=羽根だな。猫たちが手動で動かすのではなく、おそらくもっと適切な運用の仕方があるはずだ。幻界アストラルで見たようにな=


 数分ほどだろうか、ログが腰を上げた。アキラが改めて手前からぐるっと後方まで見渡すと、だいぶしっかりと砲塔の歪みが矯正されているのでほうっと息を吐く。見事なものなのだ。

 跨っていた足を上げ、筒の横に戻って左手の腕輪にログが声をかける。


「これくらいだ。あとは船渠ドック停泊所ポートに着いてから、だな」

『はいはーい……あれっ? どしたの二人して珍しい』

「うん?」


 そこから。


 しばらく声が止まって返事が戻らない。やがて梯子の下の格納庫からバイクのエンジンがかかる音がしたので屋根の全員が振り返ると。


 飛ぶ蛇から三台。ぶわあんと。

 ロックバイクが飛び出した。


「ああっ!」「おい何やってんだよオマエらっ!」

 男子猫二人が叫ぶ。バイクにはミネアとレオンがタンデムで。リリィが一人で。そして器用にリザがパメラを乗せている。白猫はぎゅっと赤猫の腹に捉まっている。


 リリィが屋根に声を飛ばす。

「ちょっと休憩だよぉ。野菜買ってくるねーごめんねぇー。」


 そう言って大きく手を振った。ひゃっほぅと叫んだリザが赤い癖っ毛を揺らして立ち乗りでぎゅんと蛇から離れて横滑りに高度を下げる。男子組が怒って叫び返した。


「何だよずるいぞ自分たちだけっ!」

「ちょっとコレどうするんだよっ。まだ二番も残ってるだろっ」

「おみやげ買ってくるからねー。あったらだけどぉ」


 ちらとアキラが大男を見ると、ログは視線を飛ばすのみなのだ。そして一言だけ。

「自由だな。我々も休憩するか」


 そう言って見ている視線の先はレオンである。ちょっと笑って横目でこちらを見るミネアの後ろで。レオンがすっと片手をログに上げたようだ。


 アキラは少し驚いた。

 その上がった少年の片手に、岩の男が軽く会釈をしたからだ。




◆◇◆




 女性陣は道沿いに見える数軒の農家に、飛んで行ってしまった。しばらくすると向こうを走る街道を蛇に追いつくように飛んで、また別の家に停まっているようだ。

 農家から出るたびにウサギのバイクの、後ろのシートの荷物が増えていくのが、遠目にもなんとなくわかるのだ。


 屋根の上に水平に浮いた四番砲に、大男のログが座ったのでアキラが慌てたが、土管のような砲身はなぜか沈まない。おそるおそる腰を下ろして、小さく見えるバイクをしばらく目で追う。


 外はいい天気で、時間はわからないが日がずいぶん高い。リッキーとエリオットががさがさと昼食の包みを開いて、水筒も持ち出した。思い出したアキラも持って上がった包みを開けば、やや柔らかめに焼いた四角い塊から、ふわりと甘い香りが漂う。


(パン?……スコーン、かなあ)

 左に座るログに目をやると、気付いて「食べてみろ」とばかりに頷くので、ちょっとつまんで割って口に入れる。中には。


(あ。ドライフルーツだこれ)

「——パルトムーカとカツェミルの干し実だ。甘いか?」

「はい。おいしいです」「そうか」


 それだけ言って、ログが遠くに目を戻す。レオンを見ているのだろうか、アキラも習って視線を飛ばすと、ローブの袖をまくった少年は珍しく猫に指示されて、わたわたとウサギの荷積みを手伝っているようだ。


 つい。聞いてしまった。


「あの。ログさんと」「うん?」

「ログさんとレオンって、どんな関係なんですか?」


=またお前は……まあ、構わないか=


 一瞬、横のアキラに視線を送り、遠くに戻して岩が言う。


「モニカの言う通りだな。青年。少々迂闊だぞ」

=ほらみろ=

「え?」


「我ら土地塊ゴーレムはクレセントの守護だ。彼らが一人、樹より生じたら、我らが一人、傍の土より生じる」


「つ、土から?」「そうだ」


泥人形ゴーレムか。自律生成物オートマタなのだろうか?=


「樹より生じるクレセントには親がいない。だから守護が必要なのだ。彼らが未分化のまま独りで生きるなら、我らはずっと側に仕える。誰かと共に生きると決めたなら、あるいは性に分化してヒトに降りたなら、我らは信頼する者を里親と定め、土に還る」


「そ、そうなんですか」

「——我が主人あるじレオンがこの蛇に乗ることを決めた時、最初、私はイースに里親を頼んだ。しかしイースは受けなかった。土に還るくらいなら一緒に居ろと。だからまだ私はレオンの守護だ」


 そこで初めて振り返り、ログがアキラを見て話す。


土地塊ゴーレムとクレセントの関係は海を越えての常識だ。国が違うとか、その身の浅学とかでは、済まぬぞ。青年」


 静かに。そう告げる。陽射しのもとで顔のひびに影を落とす表情は、しかし詰問する風でもない。世のことわりを知らぬ者がいる——そんな不思議も認めるかのように。


「すみません。気をつけます」

「いや。気をつけなくていい」「え?」


「むしろ訊け青年。モニカも、そう言っていた。わからぬことは全て、この蛇の中で訊いて済ますのだ。それが安全だ」

「は、はい」

「そして外では訊くな。噂の足は早い」


「わかりました」と答えて頭を掻くアキラに、す、と。右手を差し出すので、アキラが握り返した。土くれの手は固く広く、逞しい。


「ログモート=ヴァイアン。蛇とクレセントの守りだ」

「遠野 輝です。よろしく」


 名乗り合う二人の様子を目ざとく男子が見つけて「うん? なになに?」と、砲筒に跨った尻をすりすり滑らせながら近づいてきた。


「ただの挨拶だ」「そうなの?」

「へっへー。僕はもう済んだもんね、ねえアキラさん」

「あ、うん。そうだね。エリオット君だよね」


 肩越しのエリオットと、アキラの笑顔を見比べながら。青猫が怒る。

「兄さん酔っぱらって寝ちゃったじゃんっ。なんでお前だけ覚えてもらってんだよ?」

「うーん? だって僕が挨拶したの、その前だもん」


「なんだよそれっ。ほんっとみんな抜け駆けばっかし。兄さん。」

「はい?」と答える目の前のアキラに。


 砲に跨ったまま、ちょっと頰を膨らませたまま。青猫が、ぴっと指を大きく開いて右手を差し出した。きゅっとアキラが握り返すと、ふわっと満面の笑みになってふんふんと、握った手と後ろの尻尾を振るのだ。


「遠野 輝。アキラで」

「リッキー=アンバーフィールド。よろしくなっ兄さん」

「うん。リッキーだね。アンバーフィールド……アンバー……あれ?」


=ロイ=アンバーフィールド。アキラ、トカゲだ=


「え? え? ええっ」

「へへへっ」と笑うリッキーの肩越しからまたエリオットが顔を出す。


「リッキーは将軍の養子なんだよアキラさん」

「へ?」「ちょおっ、俺が言おうと思ってたのにっ」


「八十人ぐらい乗ってたんだよ。将軍と艦長が決闘した時にむぐぐぐ」

「ひとりで喋りすぎっ。俺たち最後まで残ったんだぜアキラさんっ」

 エリオットの口を塞いでリッキーが自慢げに話すのだ。が。

 

「将軍? 決闘? 養子なのっ?」


 ついていけないアキラの後ろで、少しログが肩を揺らす。


「お主らは本当に、説明が下手だ」

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