第十三話 十番「円環」


 巨大でありながら、この世界の無限機動は比較的穏やかに空を航行する。魔力によって浮遊し、魔力を後方へと流すことによって推力を得ているからである。いわば空中を泳いでいるようなもので、ウォーダーも例外ではなく、十二の主砲群を翼のように広げて沈む夕日を背にゆるゆると東へ移動していた。


 三両目の総合管制室は、流線型のカウルのようにデザインされたウォーダー頭蓋の延長部がギリギリ掛かる部屋なので、部屋の後方には広く窓が取ってあり外の景色も見える。ちらちらと後方からわずかに差し込む西の陽が計器類のガラスの盤面に映って輝いている。


 竜脈発現前で待機中のミネアは今のところ、やることがない。中央のでかいモニタには前方の砂漠が映っているが特に異常もない。大きめの操縦桿が時おり自動で微かに左右に動く。

 操縦席のチェアにもたれて手の中で、ビー玉のように綺麗な模様の入った2個のガラス玉をくるくると弄る。


 ガラス玉は指にくっついて落ちない。


 動かせば動き、ちょんと弾けば少し飛ぶが、また指にひたっと磁石が寄せられるように戻ってくる。動きは面白いが、ただそれだけである。


 背もたれの後ろから。リリィがやたら上機嫌で抱きついてきた。


「えっへへーい。さぼってますかー先輩。それ七番?」

「七番。さぼってない」

 抱きつかれるままにミネアが答える。


「そいつもさぁ、どーやって使うんだろね。あの先生の十番は、どんな魔法なのかなあ。ウォーダーに使えると思う?」

「わかんないよ……でも亡命してまで帝国に渡したくないって、相当なんじゃないかな。服はちょうどいいのがあった?」


「ケリーの拝借しました、適当でっす。でもいい感じ。うふふふ」

 ぐいぐい頰を寄せてくるリリィに少し困った顔でミネアが聞く。


「なに? 変な笑い方して」


「マーキングしちゃったのだ」

「あきれた。え、でも逃げないんだ」

「うんうん。逃げないんだよねぇ、あいつ」

「ああ。それで目が赤いんだ——よく噛まなかったね」


 ふざけたつもりが逆に真面目に返したミネアの言葉にぐっと詰まって、すぐリリィが反撃した。


「うっ。ウサギだからですっ。目ざとい。こうだっ」

「ちょっ。やめ……やーめてってば。こらっ」

 かしかしかしと頰を擦り付けてくる。じたばたと抵抗するミネアの手から、やはりガラス玉は落ちないのだ。




◇◆◇




「驚いたな、ノエルを知らない人間がいるとは」

 艦長がアキラに言う。


 犬のダニーに案内されて戻った会議室には、詰襟に着替えたイース艦長と、ロイ、ケリー、ノーマ、そしてエイモス医師となぜか子供のレオンだけが残っていた。


 ダニーはアキラを部屋に入れた後「そろそろ竜脈の時間なので」と動力室の方へ戻って行った。部屋に入ったアキラを見た全員が、まずはその服装に注目する。特にケリーが苦笑しながら左手の爪で耳の裏を掻いた。


 連れ戻された理由は目の前の魔法である。


 会議室のテーブルに置かれているのは真っ黒な正方形の盤で、幅はかなり広く一辺が大人の片腕分ほどの長さがある。その盤の上には不可思議な、三角形を型どった幾何学模様が浮かび上がっていた。

 緻密な文様が描かれた光陣セフィラが三つ、正三角形の頂点に配置されている。それぞれの陣は、これもまた文字が刻まれた光柱バスで結ばれている。


 そして魔法式の上空には、直径20センチほどの光球が周縁にちりちりと光点を弾き出しながらゆっくりと回転している。まるでまん丸の銀河のように見える。


「この子が君に、式を見せて意見を聞けと言うんだが、どうかな?」


 隣に座るエイモス医師の言葉に対し、アキラが情報をいくつか提示した。


 曰く自分が大陸の外からやって来たこと、この世界の情勢にも魔導にも魔法にも全く詳しくないこと、そのノエルなる人物も知見がないこと、等々である。それを受けての、虎の艦長の台詞であった——




 艦長が、どこから話したものかと模索しながら、アキラに伝える。


「そうだな……ノエルというのは大昔の魔導師だ。フルネームも出身も不明で、魔導師ノエルとだけ呼ばれている。謎が多い人物で、しかし稀代の天才で、様々な魔法式や魔導機のシステムを考案したと言われている」


「すごい人……なんですね」

 あまりよく解ってなさそうなアキラにイースが苦笑する。


「まあ、確かに功績は大きい。かわりに厄介なのも残していったがな。世に言う『ノエルの使途不明呪文ジャンク=スペル』だ。その名の通り、何のために作られたのか解読されていない呪文群で、なにより解読の方法が極めて変わっている」


「何か暗号になってるとかですか?」

「暗号ではない、直感だな」


「直感?」


「そうだ、閃きだ。その呪文が〝なんのために作られたのか〟正解に近づくと呪文のキーが回るんだ」


キー……ですか」


「そうだ。思考が正解に近づくほど、発現や効果が強くなるのが使途不明呪文ジャンク=スペルだ。試行錯誤や実験では解くことができない。よく分からない反応しか示さないからだ。逆に閃きさえすれば子供でも解ける。実際いくつかの番号は魔法に縁のない一般人が解いたものもある、十八番の『月鏡ルテナ』とかな。まだ見たことないか?」


「え? ええ……」

「外国は大変だな、じゃあ近月節マージ月昼期ルナウィークは、ずいぶん気温が下がるんじゃないか?」

「? で、ですね……それで、その十番っていうのが、これですか?」


「『円環ウロボロス』の式だ」

 隣のエイモスが答えて、艦長を見た。虎が頷いて先を促す。


「……帝都ルガニアで竜脈研究に携わっていた私は、西エルピカ本流脈の探索中にこの式を発見した。本来は帝国ガニオンに報告すべき案件なのだろうが、黒騎士が台頭してからの帝国に、これ以上力をつけさせるのには懸念があってな」


(黒騎士! そんなのいるんだ)


「正直、私が研究していたのは竜脈の出現法則だったので、その内包物の発見まで報告義務もないし監査もなかった。しばらくはプライベートの研究室ラボで趣味がてら観察していたのだ。まさか私が解けるとは思っていなかったんだが」


「それが、解けちゃったんですか?」

 アキラが医師を見る。


「——不思議な感覚だった。光陣セフィラを見ながら、ふと思ったんだ。この魔法はほとんど魔力を消費しないで発動する。じつは『力を消費する式』ではなくて『力を供給する式』なのではないか、と」


 顎を擦りながら、感慨深げにエイモスが話す。


「その途端、魔力が吹き出してな。驚いたよ。今にして思えば、なぜあんなことを考えたのか、自分でもわからん」


『解くべき時に解くべきものの手にあるのが我が式である』

 ノーマが詠唱する。


「ノエルの言葉よ。ジャンク=スペルは運命の式で、必要な時がくれば自然と解けると言われているの」


「運命の式……」

 

 隣のレオンが声をかける。

「どうだ? これ、わかるか?」



=私に言っているのか?=

 その言葉に赤髪を揺らしてにこっと笑う。



=……何もない空間から魔力が吹き出している。流入密度トラフィックは毎秒200ジュールというところだが、少し不安定だな。まだなにか秘密がありそうだ=

「うんうん」「?」「?」

 いきなり頷くレオンに周囲が不可解な顔をする。


=効用としては非接触型の魔力充填装置パワーサプライだろう。この流入密度では無限機動とやらは飛ばせないが、装備や軽車両程度なら魔導機デバイスの無充填使用が可能になるはずだ=


(え? それってすごくない?)

=すごいのではないか? 要塞の戦闘でも、配分や補充は気にかけていたようだからな。魔力の供給確保ロジスティックの不安が無くなるなら、革命的な魔法だ=


「そっか。補充は秒速200ジュールで確定?」


 つい声が出てしまった。


 部屋の空気が変わる。


「あれっ?」


 隣のエイモス医師を含め、全員が目を丸くしてアキラを見ている。レオンだけが杖の宝石に顔を隠して「しらないぞっ」という目を向けている。トカゲのロイに至っては形相が変わり、首を斜め5度ほど傾けてアキラを見据えて言った。


「なんなんだこいつは……」


=……オマエ、さっき何も知らないって言ったばかりだろうが=

(ええっ、そんな。意見を聞くって呼んどいて?)


 そこでくっくっと笑い始めたのがケリーである。不満そうな顔でロイが睨む。

「また、お前はそうやって。危機意識が低いぞケリー」

「いいじゃないですかロイさん、ほら、本人も困ってますよ」

 返されたロイがまたアキラにじろっと目をやって訊ねる。視線が痛い。


「魔導を知らない人間がなぜ数値まで見抜けるのか、説明してもらおうか?」

「あの、その、なんとなく」

「は? ふざけたことを——」


「わかった。それでいい。なんとなく、なんだな?」


「……はい」

「艦長。そんな冗談じみた返答でですね」


「こんな場で冗談が言えるほど、こいつは豪気にも横柄にも見えんじゃないか。言ってることは本当なんだ。嘘ならもっと上手くつくだろ?」

「あ、ありがとうございます」

「……嘘の他にも言ってないことは、あるかもしれんがな。それより今は中身が聞きたい。話してみろ」

「……ありがとうございます」


 アキラの返事に艦長が笑う。ロイは憮然としているが、それ以上追求するつもりもないらしい。改めてアキラに訊いてくる。

「まあいい。で、どうなのか? 君の意見は。レオンが相当押していたのだが、何かわかることはあるのか?」


=では信用も得たのでトカゲをもう少し驚かせてやれ=

(……なんかズルいなあコイツ)


 アキラが左のこめかみに手を当てて、部屋の全員に答え始める。

=まず属性反応パラメーターなしだ、励起も——=


属性反応パラメーターなし。励起反応フォージングなし。封印痕シーリングなし。契約痕クレーターなし。です。安定価の高い純粋な魔力で、ほぼ全ての魔導機に対して問題なく提供できます。逆に何らかの特性付与エンチャントには通常の基準値がかかります」


「……上限は? 毎秒200ジュールが限界かね?」

「はい。魔導分類は無詠唱共鳴系、魔法分類は操術だと思いますが、おそらく式を書く際にどれだけ魔力を追加しても、効果変動や上昇は期待できないと思います」


「共鳴系で? 封印痕シーリングがないのに効果固定があるのかね? では複数の式を同時に発動すれば? 導引する魔力が増えたりしないのかね?」


「まず、これは竜脈から魔力を抽出しているようですが、式の簡易性から、通路バイパスのようなものを生成しているのではなくて空中を伝播して魔力を調達しているように見えるんです」


 横から艦長が訊いてくる。

「空中? じゃあ装備や車両とか、近距離で同時に使うのは危険なのか?」


「あ、危険なのではなくて、空間そのものが持つ魔力伝導性能の限界が200ジュールというだけです。だから効果の上昇も望めないし、ふたつ一緒に近距離で作動させれば、それぞれの噴出量が徐々に下がるだけです」


「ああ……出口が分散するのか……なるほど……」


 また全員が沈黙して、艦長が言った。


「なんとなく、そう思うんだな」

「……はい。なんとなく、です」


「あっはっはっは。」牙を見せてケリーが笑い出した。隣でノーマもくすくす笑っている。ロイはすでに呆れ顔で、一番感心しているのは隣のエイモス医師で義眼の右目でアキラを見つめ、納得したような口ぶりで話した。


「そうか。君のは、知識ではなく何かクレセント族のようななのだな、その子のような」

「あ、はい、そうなんです」


=そういうことにしておこうか=

「へへへっ」

 レオンは嬉しそうに、床に届かない足をパタパタさせながら口元に宝石をあてて笑っている。


 虎は。


 ゆっくりと回転しながら淡い光を放ち続ける魔力の流れを見据えてぼんやりと、腕を組んでなにごとかを、じっと思案しているようであった。


 それに気づいたロイが声をかける。


「艦長」


「うん?」

「この二人をどうするかは私は口を挟みません。挟まないようにします」

「……わかった。ありがとう」


「いえ。その上で、この呪文ですが。私は——クレアさんに届けるべきだと」

「!」


 その言葉にケリーとノーマが反応した。ロイの言葉は訴えるようで、腕組みしたまま伏し目がちの虎の横顔に語りかける。


「考えておられたのでしょう? そうでしょう? 私はついていきます。みんなだってそうだ」

「待てロイ」

「放っとくべきじゃない。イース。彼女は、あなたがまもるべき人だ。せめてあんな危険な場所からは一刻も早く——」


「待てロイ。その話は……待ってくれ、ロイ……今の俺たちでセトの修道院まで飛べると思うのか? 確かにこれは画期的な魔法だ。きっとクレアの助けになる」

「そう思います。だからこそ」

「ウォーダーはもう限界に近い。仲間を危険に晒すわけには——」



「いーすッ! ろいッ!」



 話す二人が驚く。叫んだ声はレオンである。つい今までの笑顔が消えて一点を見据えている。ちょうどロイとケリーの間の壁、方角にして南、テーブルの上に杖を振り上げてレオンが言う。


「なにか、いるぞ。」「!」


 即座に艦長が、左手の腕輪に話しかけた。

「ミネア! ダニー! 何か反応あるか? 方角は南だ」

『うん? 特に魔力反応はないよ?』

『こちらも異音は確認していません、静かなものです』


=アキラ。探索。人差し指だ。外界のみ10キロ圏で領域帯レンジを取る=

(わかった)

 答えたアキラが人差し指の付け根を押すと、ぶわあっと周囲の壁が透けて周辺砂漠の造形がまるでジオラマのように展開した。が、


「うわっ!」大声を出してしまったアキラに周りが驚く。

「な! なんだアキラ!」


「や、山の向こうに大きな影が……」

 指差す方向はレオンの杖と同じ南。


 アキラの目に写るそれは巨大な赤いエラー表示で、丘の向こうだけひとかたまりの場所に魔力が全く検知されない。


「あ、あの、丘の裏。魔力が全くありません!」


濾波障壁シルクバインドウォールだ!」


 艦長の叫びに。ケリーとノーマが椅子を蹴って部屋を飛び出した。





◇◆◇





 砂岩の丘の陰に身を潜めていたベスビオに薄いベールのような白く光る半透明の幕がかかって風に揺れていた。


 魔力障壁の一種である濾波障壁シルクバインドウォールは防御力は全く期待できない隠身おんしんのためだけの障壁である。魔導機や無限機動から発する魔力の外界暴露をほぼゼロまで落とす特性を持つ。

 アキラの『探索』は逆に不自然な魔力の消失を探知することができたが、通常の魔力感知では極めて発見は難しい。


 

「モノローラ1班、2班、射出ファイア



 隠れたベスビオの船体上部に並んで開く斜めにカッティングされた射出口から。


 連続した砲撃音と共に、十二の弾が撃ち出される。射線は北を飛ぶウォーダーのやや斜め後方である。


 弾は人間の乗る魔導機であった。身体を障壁で覆いバイクに乗った人間が、十二人一斉に撃ち出されたのである。丘を越えたそれらのバイクは、前と後ろが全く同じ対称形のカウルで包まれ、中心の鞍型の座席に人が乗っている。座席の左右には足を入れるボックス型のカウリングが施されている。


 機体が水平にスピンするモノローラにはフロントもリアもなく、座席下の両足のペダリングと両手のスロットルで鋭角に曲がることもホバリングすることも可能である。通常のバイクとは全く操縦法が違う。


 右のペダルを全員がぐっと立ち乗り姿勢で踏み込んだ。座席とハンドルを除いた機体そのものがヴウウウンと勢いよく時計回りに高速回転を始め、きゅきゅきゅきゅとその場でブーメランのように旋回した全機が鋭角的な軌道でウォーダーの後方へ回り込んでいく。


「3班、4班、射出ファイア」「5班、6班、射出ファイア


 また同じような砲撃音が響き、さらに十二台、そしてまた十二台が打ち出される。地平線の山影にうっすら光る残照に照らされて。計三十六台のモノローラが編隊を組んで蛇の後方に迫る。




◇◆◇



 

 勢いよく車庫に走り込んできたケリーとノーマが無極性飛翔艇モノローラに飛び乗った。猫とウサギが運転していたバイクよりふた回りほど大型でシートも鞍型だが両サイドはカウルで覆われている。前後の形状が全く同じで、狼の機体が暗褐色、狐の方がカーキ色である。


 シートに跨りフットカウルに両足を突っ込んで。頭を左右に振って最後に一度、前に思い切り振ると。


 一瞬で。ぶわっと顔の体毛が増え、より狼らしく狐らしく顔つきが毛深く変わる。それに周囲が反応した。

 二人が変化すると同時にうおおおおおんと低音が響いてエンジンがかかり、透明のポリマーが身体に沿って流れ始める。


 格納庫の両サイドの扉が自動で開き、高度2000リーム(1リーム=約1.2メートル)の外気が流れ込んできた。本来は身が切れるような低温であるが、障壁に包まれた二人には影響がない。


 ケリーは左手、ノーマが右手のスロットルを吹かす。二機の底面から鈍い駆動音が庫内に響き宙に浮き上がる。


「しッ!」と微かな掛け声と共に、ケリーとノーマが別方向の足を踏み込む。


 ぶわぁんっ! と。機体が夕闇の空へ飛び出した。


 ケリーが右舷、ノーマは左舷に展開する。少し沈んで。ぐんと上昇する。高度がウォーダーに合うとケリーが腕時計に叫んだ。


「ダニー。今飛んだ。ノーマも一緒だ、同期してくれ」


 その声とともに。引き寄せられるように二人の機体が後ろに引っ張られて中空に安定し、ウォーダーの移動ベクトルと速度に完全に同期する。この状態が基準となって、モノローラは本艦に付き従ったまま運転できるのだ。


基準座標ベースラインを同期した。早いな。こっちも駆動音トーンを確認した、後方に三十六台だ。竜脈が近いぞ、一時間も保たないと思っとけよ』


「わかった。適当に追い払ったら戻る」


 飛ぶ蛇に並走する形で後進する機体の上で、狼と狐の髪と体毛が顔側にばさばさと勢いよく吹き流れる。視線を後方より外さないままノーマが顔にかかる髪を掻き上げた。




◇◆◇




『艦長! 南の丘陵から後方にモノローラが展開! 三十六台接近中!』

 腕輪からミネアの叫ぶ声がする。


「わかった。進路、速度そのまま。今ケリーとノーマが迎撃に出た」

『え。早い。障壁は?』

風防障壁ドラフトバリアだけでいい。まだ距離がある。俺もそっちに行く」

『了解!』


 部屋の扉を出るところで艦長が振り向く。


「ロイ。モニカとログで旋回狙撃砲バッシュレイを準備してくれ」

「わかりました。彼らは?」

「まとまっていないと危険だ。先生はレオンと一緒に管制室に来てくれ。ロイ。アキラを連れて行け」

「了解です。こっちだ」「は、はい」


 ロイの返事によどみはない。

 扉で別れてまた艦長が腕輪に話す。


「主砲は触るなリッキー。残量が心配だ」

『本艦は? どっか居るんだよねこの辺に』

「見つけてる。おそらくベスビオだが、もうタイミングを逸した」

『えっ?』

「隠れてやがった。この位置からは丘が邪魔で射線が通らん。どのみち竜脈が出れば魔導錨アンカーを繋ぐまで主砲は撃てん。今は待機だ」

『了解!』


 早足で歩きながらさらに言う。

「ダニー。気圧はどうだ? 変化あるか?」

『西から下がってます。竜脈が近いです。あまり長くは外に居られないと、ケリーとノーマには伝えました』

「わかった、俺は管制室に行く。残量は?」

『2500ほどです。800は魔導錨アンカーに必要なので、残1700と思っておいてください』


 前方からリリィが走ってきた。

「艦長! 旋回狙撃砲バッシュレイ出しますか!」

「出す、念のためだ。お前も行け。ケリーとノーマの映像も送れ」

「了解です!」

 そのまますれ違って走っていく。



(帝国が隠身おんしんかけるとは……面倒な相手だな)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る