第204話 お人好しじゃないけど


 目には見えない世界。情報探知の魔術に優れる人物はそんな世界が見える。まるで座標のように魔力の塊が右往左往し、殺されれば消える。そんな世界が見える。まるで神の見る世界だ。

 だが、ガリレスの目の前に広がる光景はまるでホタルのようだった。


 「強すぎだろ、これは魔力以外にも何かあるな」


 そう察せたのは目の前の魔力が集まっては消え、集まっては消えを繰り返しているからだ。

 消える魔力とずっと残り続ける3つの魔力。俺にはそれがありありと映っていた。


 「随分、手練を用意したな。昔はあんなに強いのも珍しかったのに」


 その異様な光景に独り言のような実況を呟いてしまう。それほどまでに吸魂士たちは強かった。人数が多いせいか、屋敷の前で攻防を繰り返しているが、おっさん側の人材が尽きるのも時間の問題だろう。もしかしたら現地を見に行けば魔力が無い武力だけの傭兵も無残な最後を遂げているかもしれない。


 「死屍累々か」


 ポツリと呟いた一言。だが俺は人が死んでいくのに感傷を得たのではない、恐怖していたのだ。もしも、あのまま匿われていてこの戦いに挑んでいたら俺も死んでいたかもしれない。


 「運が良かったのか……強運はまだまだ俺を見捨ててないな」


 悪運かもな。ははは。おっさんめ。俺を裏切った報いだ。存分に恐怖すればいいさ。

 そう考えたら楽しくなってきたな。いけいけ!やっちまえ!お前らもおっさんも好きじゃねえが今はおっさんに憎しみ百倍だ!


 「ん?」


 おっさんをざまあと思うことで精神を高ぶらせようとしたが、目の前の光景が変わる。集まっては消えていた魔力が三つ以外に二つ残っている。しかも長い時間だ。だが、この二つ、見た事がある。


 「拮抗し始めたか」


 どうやらおっさん側も手練を出してきたらしい。魔力の大きさは同じくらい。それで拮抗しているということは武力も同等か。


 「こうなると動きが無くて退屈だな」


 「オラオラ!! ガリレスさん!」


 口をとがらせ、不満を述べるとまるで待っていましたと言わんばかりに蔵に誰かが入ってきた。そちらに目を向けるが蔵の中は暗く何も見えない。魔力も無いため、誰なのか分からない。いや、正直、分かっている。最初の掛け声でわかりきっている。


 「誰だ?暗くてよく見えん」


 「オラオラ! 俺です!」


 「知らん、帰れ」


 「せいせい!何言ってるんですか!」


 「おいおい! 俺たち忘れたのかよ!」


 「忘れたい」


 切実に。俺は三馬鹿がやってきたことによりテンションがガタ落ちした。逃げられない独房でこの三馬鹿と喋るくらいなら俺は魔力の流れを見ていたい。


 「そうだ。魔力は……変わらないか」


 「オラオラ! どうしたんすか! 壁の方見て」


 「気にするな……あ、そうだ。お前ら、今、屋敷で戦闘が始まってるだろ」


 「おいおい! なんで知ってんだ!?」


 「俺は魔法使いだからな」


 「せいせい! そ、それで!」


 「却下。俺はお前らの雇い主に裏切られたんだ。助けるほどお人よしに見えるか?」


 助けてほしいという事だと思い、みなまで言わなかったが、俺はそんな誘いにホイホイ言う事を聞くほど、人間出来ていない。だが、三人は残念そうな顔をするどころか、焦ったような顔をしていた。


 「おいおい! 今、戦ってるのお仲間さんだぜ!」


 「仲間? ツイルとアモンか!?」


 「オラオラ! あの二人はクロイド様が気を利かしたのか、普通に屋敷で生活していたからな。それであの二人、世話になったからって……」


 なんてお人よしの人たちなんだ。俺が捕まっているのを知っているか、知っていないかで話が変わってくるぞ。てゆうか……。


 「変な事してねえだろうな!?」


 「おいおい! してねえよ! クロイド様も今、居ねえし!」


 「居ねえのか。あのおっさん。」


 「おいおい! 助けてくれるのか!?」


 「ああ、助ける。俺の仲間をな! お前らじゃねえぞ!」


 仕方ねえだろ。ツイルとアモンは一応、今回は仲間だ。見捨てる気にもならないしな。俺はそこまで人間捨ててないつもりだ。


 ――――


 三馬鹿に出してもらった俺は急いで中から屋敷前に駆けつけた。見れば、屋敷の周りには死体がそこら中に散乱していた。どれもこれも雇われていた傭兵だろう。


 「にしてもこの死体、どれもこれも八つ裂きじゃねえか」


 すでに原型を留めていない死体。これをやったのが吸魂士なのか。俺には信じられない。あいつらはここまで力はない。やつらは血を凝固させ、それを武器に戦うのは知っているがこんな身体をバラバラにする威力は無いはずだ。


 「急がねえとやばそうだ」


 俺はアモンやツイルが心配になり、さらに駆けだした。すると、徐々に戦闘音が響いて、俺の耳に入ってきた。


 「おい! ツイル! アモン! 助けに来たぜ!」


 「ガリレスか。お前、いつまで海で魚を獲っていたのだ?」


 「ガリレスさん~! 今の季節は良い魚が獲れますよ~!」


 「魚? はぁ!? そんなもん、獲りに行くほど暇じゃねえ! ここのおっさんに幽閉されてたんだ!」


 空を飛んでいたツイルとのほほんとしたアモンにそう怒鳴りつけ、二人が対峙している三人を見る。そして、俺は絶句した。


 「お前ら、本当に吸魂士か?」


 「アァアアアア!!」


 叫ぶ声。それはまるで獣。それを発するのは長髪の美男子だったようだ。だが、左半身がおかしい。やつの左上半身は真っ赤な結晶になっていたのだ。目は赤く、肌には血脈が浮き出て鼓動していた。他の二体も同様だ。中には女もいた。だが、奴らの目に理性は無かった。

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