第201話 パーティーだよ!


 ロックスさんの案内で商業区画の奥の方へ向かっていく俺たち。奥の方では中央の塔より少し低い程度の塔があった。塔の入り口の大きな両扉を開けるロックスさん。


 「帰りました」


 入った瞬間に家に帰ってきたかのような態度でそう言い放ったロックスさん。どうやら入った場所は受付の様だった。受付にはこんな時間にも関わらず、女性が立っており、ロックスさんにお辞儀をした。


 「お帰りなさいませ。ロックス様。チェーン様がパーティールームでお待ちです」


 「なんでパーティールームなのか……」


 「チェーン様はとても楽しそうでしたよ」


 「どうやら間に合わなかったようですね」


 振り返り、困ったように笑うロックスさん。それはアニスに向けての言葉だった。アニスはそれを聞き、目を細める。


 「もういい。腹を括るさ。それに僕が無駄に警戒しているだけでそこまでかもしれんしな」


 「それはなんとも……とにかく、こちらの階段から三階に行きましょう」


 アニスが杞憂であってほしそうな態度にロックスさんは苦笑いをしながら、受付から右の方向にある階段へ向かった。それに続いて、俺たちは一列に並んで上っていった。しばらくして三階の扉の前までやってきた俺たちは。特にアニスがため息を吐いた。そして、ロックスさんが扉を開けはなった瞬間。


 ――――部屋の中でカラフルな色彩が俺たちの目を傷めつけ、そして大きな音楽が俺たちの鼓膜に叩きつけられた。


 「なんだこれは……」


 それは天井で光りながら浮遊しているカラーボールのせいだった。まるで前世のディスコ会場だ。中は広く、食べ物や飲み物で覆いつくされたテーブルが何個もあり、なぜか楽器を持った音楽家が狂ったようにオーケストラ風の音楽を演奏していた。深夜でこれは近所迷惑では無いだろうかと言えるほどだ。

 

 「やぁやぁ! 勇者様御一行様! 様が被っちゃった! ごめん! ごめん! でもどうよ! ほら!」


 手を振りながらやってきたのは前とは違い、高身長のモデルのような体系を表せるドレスを着たチェーンさんだった。右手で黒く長い髪をいじり倒している。


 「どんなバカ騒ぎだ」


 「え? 気に入ったでしょ?」


 「誰がそんな事を言った?」


 「もうつれないなぁ。ねえ、犬君どう思う?」


 「あ、俺の事ですか?」


 「ひどーい! 忘れたのかい? せっかくこの私が付けて上げたあだ名なのに」


 そうだ。この人は俺の事を犬と呼んでいたな。まったく嬉しくないあだ名だ。これで喜ぶ方がどうかしている。


 「君がアービスを犬扱いするのを僕は許可していないがな」


 「そんな心狭い事言ってたら政治は出来ませぬぞ。王様」


 「相変わらず耳年増な女だ。そろそろ実年齢も年増になりそうだがな」


 「私は永遠の十七歳です! いえーい!」


 そう言ってピースをするチェーンさん。この人酔ってるのかな? 深夜テンションにしても高すぎるテンションにアニスはため息を一つ吐いてついに無視を始めた。


 「お嬢、エルを寝かせてきます」


 「あ、ロックス、お疲れさま。ごめんね。ありがとう」


 「いえ、任務ですから」


 そう言ってチェーンさんはしゃがみこみ、ロックスさんの傍で鳥の石像を眺めているエルちゃんを一撫でした。エルちゃんは反応しない。だが、チェーンさんは一人優し気な表情を浮かべる。


 「エル、お帰り。今日はお休み」


 「では、俺たちはこれで」


 「ここまでありがとうございました」


 「いえ」


 ロックスさんは俺たちにお辞儀をするとエルちゃんをお姫様だっこし、パーティールームから出て行ってしまった。見えなくなるまで眺めていたチェーンさんは一瞬、寂しそうな表情に見えたが、それは一瞬でいたずら心満載な笑みに変わっていた。


 「さぁ! 楽しんでいこう! 君と君は初めてだね! 私はチェーン・ブリッジ! ブリッジ商会の一人娘さ!」


 それはロウさんとセイラさんに向けての者だった。二人は特に警戒する素振りは見せずに自己紹介を始めた。


 「どうも。私はセイラ。特に何をしているわけではないからあなたのような肩書は無いわ」


 「私はロウ・ジーランドと申します。前の役職は情報管理。現在はアニス様の執事らしいです」


 「執事を雇ったのかい? でも肩書に勇者パーティーが無いと言う事はアモンちゃんやシャロちゃんが解雇されたわけじゃなかったのか。よろしく! 二人とも! 私の事は気軽にチェーンと呼んでくれ」


 二人は順番にチェーンさんと握手をしていき、クライシスさんは少し居づらそうな雰囲気を出していた。クライシスさんはこの前の時、任務を蹴ってしまったせいだろう。あんな居たたまれない雰囲気のクライシスさんは珍しい。


 「クライシス! 君、英雄辞めたんだってね!」


 「ええ。この前の事で思う事がありまして」


 「そうかい。そうかい。なら今度、何かあったら引き受けてくれ。英雄じゃないなら金は受け取るだろ?」

 

 「私はいつでもだれの依頼も歓迎していますよ」


 チェーンさんは怒っている様子は無く、それが分かったクライシスさんはいつでもどうぞ! と爽やかな笑みを取り戻した。


 「それで、質問なのですが、チェーンさん」


 「なんだい? 今日、襲われ――――」


 「ヒトデの群生地はどこだろうか?」


 「ヒトデ?」


 「クライシスさん! それはもういいですから!」


 「クライシス! しつこいぞ! 君はヒトデではなく、君だろ?!」


 俺とセイラさんの猛ツッコミを受けて、クライシスさんはえ、ああ。すまない。もう前世の事は気にしない事にしよう。と少しズレた事を言っていたが、俺たちは気にせず、チェーンさんに向き直った。

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