第200話 ヒトデの動きってこんなではなかったけ
ロックスさんが門を開けている間、時間を持てあまし、真っ暗な世界で橋の欄干に寄り掛かりながら、海面に光る月明かりを見つめていた。王国には海が無いため、海をこの世界で初めて見た。
「黄昏ているところ、すまない。アービス、傭兵が戻ってきたぞ」
「お、結構早かったな」
「そうかい? 僕は退屈で死にそうだったよ。君は海ばかり見ているし」
そうか。かなり海を見るのに夢中になってしまっていたようだ。アニスは口を尖らせて、拗ねるような表情を作る。苦笑いで返すしか出来なかった俺を見てアニスはまぁ良いけどさ。と表情を柔らかくした。
「アニスだってあんまり見た事ないだろ? 海」
「あんまりではなく、皆無だ。だが、元から興味がない。僕は森にある川の広いなぁくらいしか感想は出ないよ」
「そ、そうか」
随分たんぱくな事を言うアニスだが、まぁ、いつも通りか。俺は名残惜しくなり、もう一度、海を見つめ、馬車の方へ戻っていった。
そこには全員揃っており、セイラさんも起きていた。
「アービス君、すまないな。迷惑を掛けた」
「え、大丈夫ですよ。セイラさん、逆に大丈夫ですか? すごい眠っていたので」
「平気だ。少し走りつかれてしまったようでね」
起きたセイラさんは微笑む。良かった。クライシスさんの言う通り、疲労が重なって敵に襲われたせいのようだ。
「クライシスの女よ。疲れているなら今回、任務を忘れてクライシスと旅行していても良いぞ? 僕はアービスと二人でガリレスを捜そう」
「ロウさんも居るから」
「私の事は敵を探索するための魔法具だと思ってください」
「はなからそれくらいの扱いだ」
「こらっ! アニス! ロウさんがいくら心の広い人だからってそれは言いすぎだ!?」
「すまない。君の事は執事くらいには思っている」
「それもそれで失礼な話だな」
「私は気にしませんので、勇者様はすでに王も兼任されている身ですし、どのように扱われても仕方ありません」
「ロウさん、あまりアニスの言う通りにホイホイしてたら、いつの間にか首輪とか嵌められますよ」
「それは君にしかしないぞ。安心しろアービス」
「俺はどこで安心すれば良いんだ?」
「そろそろ、中に入りませんか?」
「ああ、すいません!」
俺たちの問答に水を差したのはロックスさんだった。だが、その表情は笑っていたので俺は一言詫びを入れ、俺たちはロックスさんの後を付いていく事にした。
「エルをありがとう。クライシス」
「大丈夫さ、良い子だったよ」
「何か喋ったんですか?」
「いや、ずっと石像を見つめていて。勉強熱心だなと」
「多分、勉強していたわけじゃないが……まぁ、ありがとう、目を離さずに見ていてくれたようで」
「一瞬、私とクライシスの間に子どもが出来た夢を見たかと……」
「まさか、私の子どもがエルちゃんだったとは」
「クライシスさん! 全ての情報を結合させて話を続けるの止めましょう!」
クライシスさんの柔軟すぎる頭を止めるために大声で制止するが、クライシスさんはエルちゃんを見て、すまし顔を始めてしまった。
「ダメですよ。セイラさん。クライシスさんの想像力半端ないんですから」
「そうだったな。すまない。つい、照れて口を滑らしてしまった」
「知っているか、クライシス。君の前世は海に出るという人食いヒトデだ」
「そんな!?」
「アニスも変な嘘付くなっ!」
その後、クライシスさんがヒトデとはどんな動きなのだろうかと謎の動きをしていたが、もうそれについてはツッコむ気力は消え去り、放置したまま、中央都へと入っていった。
中央都に入ると、大きな通りが三又に分かれており、目を凝らして見ると、右の方は商店街、左の方は住宅街のようだ。真ん中の通路は橋から見えた塔に繋がっているようだ。
「あの塔は?」
「あそこは王が居る塔です。私たちは右奥にある商業区に行きます」
「ふん。迎えも来ないのか」
「お嬢は今、きっと余計な事をしていますよ」
「余計な事? 考えたら憂鬱だな。ああいう類の輩は何かと騒ぐのが好きだからな」
アニスは苦渋の表情をしたが、俺もなんだか嫌な予感がしてならない。
「深夜で店が閉まっているせいで、あまり楽しめないな」
「大丈夫だ、セイラ。私がヒトデを習得さえすれば……」
「お前がヒトデを習得したからなんだと言うんだ? そろそろその上半身を下げたまま歩くのは止めろ。変な生物にしか見えない」
「ヒトデに見えない?!」
「見えない!」
「ふむ。ここは本場のヒトデを見るしかないな。ロックス、君のおすすめのヒトデポイントは?」
「そんなもの、俺は知りません。というか、早く付いてきてください。早く行けば行くほどお嬢が無駄に凝ったものを作れないように阻止できますよ」
「それは賛成だ! 行くぞ! アービス!」
「ちょっ! おい! おい! そんな走るな!」
ロックスさんの話を聞いたアニスが俺の腕を引っ張って深夜の道をグングンと進んでいき、俺は足を引きずられるように付いていった。足が石畳にガンガンぶつかって痛い!
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